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異世界姉さん美人妻二人、両手に花…勇者の本音は  作者: 安藤昌益


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魔王を倒してしまった。

「早く、そんなくそババアなんて、殺してしまいましょうよ、魔王様!」

 小柄な白い肌の狐耳女魔族は、傍らの魔王に囁いていた。

「魔王妃様は死んだの。人間達に、無残にも、凌辱されて、八つ裂きにされて死んだの、哀れにも。魔王妃様を惨殺して、和平の約束を破った人間達に復讐をするのよ。そうですわね、魔王様?」

 なおも囁き続ける狐耳の獣人女を、傍らの虎型獣人系魔族である魔王は、己の腕を彼女の腰にまわしながら、

「その通りだ。あやつは死んだのだ。可哀想な彼女の仇をとるためにも、我が陣頭に立って、人間共を壊滅させる。」

 その言葉に、魔王妃は部屋の片隅に、壁を背にしていた、追い詰められるように。服の所々が破れ、焦げ、血がついていた。

「ま、魔王様。妾が分からないのですか?勇者が我らの味方になり、人間達との戦いの先頭に立つと約束…。」

 彼女の言葉が終わる前に、魔王の魔剣が振り下ろされた。彼の身体は、魔法により数倍に、魔剣も同様に大きくなっていた。

「ひぃ!」

 とっさに飛び退き、必死で防御結界を張ったが、

「う!」

 魔王妃の身体から血が飛び散った。床に這いつくばりかけるのを何とか堪えた。

「勇者は死んだのだ。後は、雑魚勇者しかおらん。」

「ち、違…。」

 今度は、さらに魔力を高めた魔剣が振り下ろされようとしているのが見えた。防げない、逃げられない、“でも、死にたくない!”

「助けて!勇者!」

 言葉にはならなかった。が、その一撃は来なかった。代わりに、

「王妃を頼む。」

との声がして、シーツに包まれた自分と同じくらいの大きさのものが自分の上に落とされた。

 そのシーツに包まれたものを受け止めた彼女の目には、魔王の前に立ち塞がる勇者カークの背中があった。その向こうに、片手を切り落とされ、そこから血が噴き出して苦痛に顔を歪める魔王の姿があった。彼の胸からも血が噴き出しているのが分かった。すぐに血が止まり、傷は修復、切り落とされた腕が再生し始めていた。それが終わるのを待つことなく、カークは攻撃を始めた。

「転真敬会奥義!四行小進退!」

 火炎、電撃、振動波、衝撃波、冷気、重力、反重力多数の攻撃が絨毯爆撃のように、魔王とその臣下達に降り注いだ。同時に、気づかれないように、小さな玉を多数、床に落とし、幾つかは空中に固定された。

 攻撃のいくらかは、防御結界、防御魔法で防がれた。特に、流石に魔王はかなりの攻撃を防いだ。

 だが、かなりの力、魔力を低下させることに成功した。切り取られた腕は、既にかなり再生されていた。そこまで再生できること自体、できる者は少ないし、まして見る間に、というのは魔王であるからである。だが、それはある意味、トカゲが自らの尻尾を切除して再生する場合、寿命が短くなるほど体に負担がかかるのと同様なのである。傷を、腕を、直す、再生することを魔王は優先した。それは、止む得ない選択だったが、肝心の魔力が低下してしまうマイナスが生じたのである。カークの攻撃を、防いだことでさらに、それは酷くなり、幾つかの打撃を受けてしまった。悪循環が続いた。分かってはいる、今を何とか凌がねばならない、魔王は歯ぎしりしながら耐えていた。

 その魔王の苦境を、親衛隊の戦士は本能的に気がついていた。おのが主のために時間を与えるため勇者を攻撃しようとした。魔法を連射した勇者も魔力を消耗して、攻撃する好機だと分かった。彼らは、自分のそれぞれの得意とするもので、勇者に挑もうとした。が、足下で、目の前で、爆発が起こり、滑り、目の前での輝きで目が眩み、倒れ、動きが止まった。それは、魔王も同じだった。一歩、踏み出したところで、足が滑って転び、その目に火花が落ちてきた。

「卑怯な!」

 カークは、ここぞとばかりに、魔王と彼の側近、護衛を攻めたてた。魔法と剣の攻撃で次々に魔王の側近達は倒れ、魔王も傷が増える一方で、完全に守勢になっていた。何とかしようと、すると態勢が、五感が崩れ、その隙を疲れた。

 だが、カークも攻めあぐるものを感じていた。その均衡が崩れた。魔王妃が、寝取り女に火球を放ち、それを魔王が防いだ。その時魔王に大きな隙ができた。それを突いたカークは魔王の懐に飛び込んだ。一気に、勝負に出た。

「転真敬会奥義!活真互性!」

 物質と反物質の衝撃波が魔王の体に炸裂した。

「ぐわっ!」

 とっさに、残る魔力の全てを注ぎ込んだ、防御結界、防ぎ切れても、しばらくはまともに動くのさえ困難になるが、彼の本能がそれでもと命じたのだ。だが、それは突き破られ、殆どが直撃した。魔王は、仰向けに倒れた。すかさずカークは、魔王の首を切り落とした。彼の攻撃の余波で彼の愛妃、最近の、も側近達も無事な者は殆どいなかった。

「最初の奇襲がなければ、もっと苦しんだな。」

 改めて、魔王の強さを感じた。が、そんな余韻に浸っているわけにはいかないことがすぐ分かった。呆然としている魔王妃とまだ気を失っている王妃を抱きかかえて、彼は逃げ出した。そして、王妃の部屋から転移魔方陣を起動させて消えた。ただし、ついでに魔王の間や王妃の部屋から金目のものなどを失敬することを忘れていなかった。

「魔王妃様。両手がふさがっているので、そこの魔道具、あ、そちらの宝石を取って下さい。」

「何で妾が。」

「いいから、言うことを聞いて。妃様のためなんですから。しっかり落とさないように。」

「全く、妾を何と…。」

 なおもブツブツ言いながらも、カークの言葉に従って、言われたものを取り、抱え込んだ。彼女の思い出の品もあり、しかたがないかとも観念した。


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