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始まり

 フリオ帝国北部の宿にある、客でほぼ満員の居酒屋兼食事処のテーブルの一つに、肉料理、シチュー、パン、ビールなどが店員によって並べられていた。テーブルの一方の側には10歳を過ぎたばかりの粗末な服を着た少年と少女、30過ぎの、胸当て程度の貧弱な鎧しか着ていない、そこそこの体格の男が二人が神妙に座っていた。4人は、目の前の料理や酒などに手をつけようともせず、目を伏せ、不安そうな顔で震えていた。

 反対側には、20代半ばくらいに見える黒髪の男が一人、その両脇に銀髪のアラサーに見える女と黒髪の、やはりアラサーの女が座っていたが、彼らは直ぐにビールのジョッキを持つとごくごくと飲み始めた。3人は、比較的簡易な鎧を着込んでいたが、それは血がかなりこびりついていた。

 周囲のテーブルの客達は、この7人をチラチラと盗み見みしていた。

「あいつら、例の依頼果たしたんだってよ。」

「100匹以上のゴブリンの群れを、7人でかよ?あれ、あのチーム、5人じゃなかったか?」

「あの二人は、4人のなかにはいなかったわよ。」

 どのテーブルでも、同様な会話がコソコソされていたが、一つのテーブルに、外から新たに入ってきた男が席に座った。

「あいつらの仕事なんだが、予想以上の数だったらしいぜ、ゴブリンの数がさ。紹介所に持ち込まれた分捕り品やらの数が半端でなかったらしいぜ。」

 その情報を持ち込んだ男も、客の大半も傭兵であり、現在は市が窓口管理している紹介所に持ち込まれる依頼を請け負って、報酬をもらって生活している面々だった。

「それでよ、あの依頼で揉めていたチームがいたろう?」

「ああ、あの大人数のチーム?報酬のつり上げをしていたのに、あっさりあいつらが、やってのけて、悔しがっているでしょうね?」

 隣のテーブルから、声がかかった。その周囲では、目立つ存在のハイエルフの美人だった。見た目は、二十歳少し前、少女から大人になったばかり、両方の魅力を放っていた。ただし、見た目どうりの年齢かどうかは分からない。100歳でも30代半ばにしか見えないハイエルフである。ただし、たいていのハイエルフは150歳では人間の100歳くらいの外見になり、元気な80代の人間より少なく、400歳で若々しいハイエルフは極たまにしかいないが。

「それがよ。馬鹿なことをやっちまったんだよ。」

「なに?」

 彼女同様に、周囲が耳をそばだてた。

「ゴブリン退治の依頼を果たした、あの3人に待ち伏せを仕掛けて返り討ちになったらしいんだ。」

「なんだって?」

「30人以上のチームだぞ?その上、かなりの実力のある戦士は、一人や二人ではなかったはずだぜ?」

「かなりの猛者を臨時のメンバーにいれてたしな。」

「30人はいるって自慢してたのを聞いたわ。」

「60~70人になるんじゃない?それを?」

 反論の声が直ぐ上がったが、男は首を横に振り、

「まあ、奴らが報告した内容だがな。それと、生き残って捕虜になった、そのチームの連中も証言したそうだし、リーダーや幹部の首も提出したそうだ。その猛者達の首もあったって聞いたぜ。」

「ああ、あの4人、思い出したわ。あのチームの下っ端連中ね。それで、彼らも二人やられたの?」

「それがよ。あの二人は、あのチームが送り込んだスパイだったらしい。」

「え?」

「それで殺されたってわけ?」

「さあな…。分からないが、いないってことは当然…。」

「まあ、仕方ないわね。」

 職業も、種族、身分も雑多な客達は、互いに情報を他のテーブルから仕入れながら、納得したようにうなずき合っていた。

「腕が立つと思っていたけど、これほどだったとはね。」

「ああ、魔族の血が入っている姉弟というのもあながち嘘じゃなさそうだな。」

「ふん。あの年増女達の態度を見たら、姉弟とは思えないけどね。」

 そこまで言ったものの、彼らの過去を詮索する会話は出てこなかった。訳ありの過去は、彼らの多くに共通しており、ベテランや実力のある者達はそれが多い。そういう彼らは、他人の過去を詮索しないのが、一応のルールになっていたのだ。

「おい、あいつにご執心かい?」

 話題のチームの男をしきりにチラチラと見ているハイエルフの女に、向かい側に座った魔法騎士が揶揄い半分に声をかけた。30過ぎの屈強な経験豊かな、それでいてなかなかの髭面の男前だった。

「諦めなよ。あの美人二人にベタぼれされてたら、他の女に手を出す余裕はないさ。年増だが、美人でお色気満点だからな。それに、元はいいところの出と見たがな、俺は。」

 後は詮索しない、という言葉が言わずもがな聞こえてくるようだった。

「フン。あんなババアがなんだっていうのよ。」

 “ハイエルフが言うんじゃない!”“20に見えても40かもしれないしな。”と同じテーブルの男女は思った、そういう顔だった。それを見て睨んだが、“私は正真正銘の21歳のピチピチ美人ハイエルフよ。”という言葉は飲み込んで、

「死んだ知り合いに似てたからよ、それだけよ。」

 そう言って、彼を見るのを止めた。

 “あの屑野郎は死んだんだ。死体も、墓穴に落とされるのも見たんだから。”


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