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イータークラウン ~邪龍と少女の冒険録~  作者: なんちゃら竜
第二章 三大迷宮攻略編
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97話 剣術武芸大会 閉幕

    

(最悪ですネオンさんとの対戦で、体力が……)


 決勝戦。昼休憩を挟んでいたとはいえ、サントリナは体力を消耗しすぎていた。

 

 アレクサンドラの攻撃から身を守るので手一杯である。


「どうしたのかな? 随分苦しそうだね?」

「……」

「緊張してるのかなぁ……? せっかくの決勝戦だ。私と最後までこの戦いを楽しもうじゃないか!」


 アレクサンドラはそう言って楽しそうに剣をふるっている。

 しかしサントリナは、彼女と剣を交える気分になれなかった。


(うっ! なぜか体中に謎の悪寒がっ……! この胸騒ぎは一体……!?)


 あの後自分はすぐ部屋を出て、部屋にはネオンとソティアだけしかいない状態になっていた。その二人の情景を脳に浮かべると、気が気でない。


「おいおい、もっと楽しまないか?」

「……嫌な予感がします」

「は?」

「この嫌な感じは一体……ん?」


 サントリナは異変に気付く。

 アレクサンドラの動きが止まっていた。

 そして先ほどまでさわやかな表情から一転、鬼の形相に変わり果てた。


「貴様……どこまで知っている……?」

「え……はい?」

「どこまでわしのことを理解している? 返答によっては貴様をここで……殺すッ!」 

「ええっ!? ど、どういうことですかッ!?」


 アレクサンドラが殺意をむき出しにして襲い掛かる。

 彼女から余裕の表情が消えていた。


「お、落ち着いてください! 私は別にあなたの事なんて知りません!」

「なにぃ!? わしの事を知らんだと! 生意気な小娘め!」

「なんて理不尽!」

「しねぇぇぇぇい!」


 アレクサンドラの剣技がサントリナに命中する。

 サントリナはとっさに剣で防御するも、遠くまで飛ばされてしまう。


「くっ……!」


 落ちないよう剣を台に突き刺し、踏ん張るがなかなか勢いが止まらない。


 そして、


「あっ」


 サントリナの片足が、台からズレ落ちてしまった。

 

「ノォォォォォウ! サントリナ選手ぅ! 場外に出てしまったので失格ぅ! よって此度の剣術武芸大会、優勝は……アレクサンドラ選手ぅぅぅ~!」


「しまった!」


「ちっ、終わってしまったか。まぁよいわい」

 

 勝敗が決まると、アレクサンドラは正気に戻ったかのように冷静になり、闘技場から去っていった。




------




「ま、負けちゃった……」

「なんか、あっけなかったな」


 サントリナも頑張ったが、それでもアレクサンドラには届かなかった。Sランク騎士相手にむしろ健闘した方なのではとさえ思う。

 

 明らかに途中から戦いの様子がおかしかったのだけが、少々気がかりだったが……。


 こうして3日間に渡る剣術武芸大会は幕を閉じた。


 1位 アレクサンドラ

 2位 サントリナ

 3位 ネオン


 となった。

 4位の選手とはじゃんけんでネオンが勝った。

 ララがじゃんけんで決めると来たときは半信半疑だったが、まさかほんとにじゃんけんで決めているとは驚いた。


 今回の大会、ソティアにとっても多くの人々と戦い、観戦することでいろいろとよい経験になった。


 一部予想外の事態があったことは内緒で……。

 


「あっ……」


 ソティアはおもむろに上を見上げる。

 すると五大天楼フィリスが、観戦を終えて立ち去ろうとしていた。 

「行かなきゃ……」

「お、おいソティアどこに……」


 動き出そうとすると、ララに呼び止められる。


「あの人に、伝えないと……」

「まさかソティア、お前……」

「ちょっと行ってくる……!」

「あ、おい! 待てって!」





------





 闘技場を一望できるこの観客席で、フィリスは高みの見物を終える。

 隣にいる護衛騎士の一人が、フィリスに質問をした。 


「此度の剣術大会、フィリス様はどう感じられましたか?」

「……眠い」

「左様でございますか……」

「だが……」


 フィリスは席を立ち、答える。


「……前回よりは、楽しめたかもな」

「おぉ……」 

「あれ、サントリナ・トルトニスといったか?」

「はい」


 銀色のトロフィーを手に掲げる少女をフィリスは見つめる。


「なるほどな、彼女もまた偽りの力をわがものとしたようだ。根はさらに広がっている。俺もそろそろ動かなければ」

「フィリス様……」

「用は済んだ。明日、アストラへ立つ。手配は済ませているんだろうな?」

「は! すべて滞りなく」

「よろしい、では明日を楽しみにするとしようかァ。俺がアスピダとこうして会うのは、これが最後になるだろうからな」


 闘技場を離れ、フィリスは城へと戻ろうとする。

 その時だった。


「あ、あの!」


 後ろから声がする。


「あ?」


 フィリスは声の聞こえる方へと振り返る。

 そこには白髪の変わった目をした少女が立っていた。




-------



 

(こ、この人がフィリス・プロドア……)


 遠くからでも彼から放つ特別な気配のようなものを感じていたが、実際に間近で見るとより鮮烈に伝わってくる。 


「貴様! 何者だ! この御方をどなたと心得る!」

「ひっ!」


 彼の護衛の騎士だろうか。

 ソティアの前に立ちはだかり、こちらに剣を向けている。

 鋭い剣を目の前に向けられ、ソティアは委縮してしまう。


「……構わん、下がれ」

「フィリス様……しかし……」

「下がれと言っている。二度は言わん」

「は!」


 だが、フィリスは立ちはだかる騎士を後ろに下げる。

 そしてマントをはためかせソティアの方へと歩み寄ってきた。


「名は?」

「ソ、ソティア・プシュケースです……」

「ソティア……プシュケース……」

「あ、あの……」


 フィリスはソティアの名をぼそっと呟くと、考え事を始めたのか、少し間が空く。


「ああ、予選で死んだ雑魚か」

「ざ、雑魚っ……!?」


 突然の罵倒に思わず体がビクつく。


「待て、お前Aランク冒険者か? おかしいな。なぜAランク冒険者ともあろうものが予選で敗退しているんだ? そんな奴今までにいたか? 不可解だ」

「え……いや、あの……」

「おい待て。お前、よく見ると変わった目をしているな。これほど左右で色相の違う目をした人間は見たことがない。研究のし甲斐がある」

「え……?」

「今すぐこいつを施設に連れていき、解剖を……」

「え、ええっ!?」


 何やら話が思いもよらぬ方向へ進もうとしている。 

 というよりもこれはピンチなのでは?

 ソティアは焦る。


「フィ、フィリス様……あいにくですがお時間が……」

「チッ、そうだったなァ……」


 フィリスが部下の呼びかけに舌打ちをする。 

 よくわからないが、なんだが助かりそうだった。


「それで? わざわざ俺の足を止めたんだ。何か用があるのだろう? さっさと言え」

「は、はい……」


 彼の姿を見たとき、とっさに体が動いた。

 それは理由はもちろん、ララのことについてである。

 ララたち技術師がおかれている状況を彼は確認できていない。

 だから、伝えなけらばならない。


「ワイズマン伯爵が行っている、技術師への不当な要求に関してです……」

「ほう……」


 ソティアはことの経緯をフィリスに細かく説明した。

 ワイズマンが技術師に対し、労働を強制していること。

 家族や友人を人質にし、対価を支払わないこと。

 すべてを伝えた。

 証拠は技術師に尋ねればすぐにわかる。

 五大天楼である彼ならば簡単なことだろう。


「なるほど、理解した」


 話を聞いたフィリスはそういうと、頷いた。


「いいだろう。ワイズマンが自身の権利とイデアを用いて良からぬ所業を働いていたのならば、処罰が必要だ。これが事実であれば、彼には労働を強制していた技術師への謝罪と賠償を命ずることにする」

「ほ、本当ですか……!?」


 彼の言葉にソティアは思わず、喜びの感情が溢れ出てしまう。


「ああ、これは彼らに権利を一任していた俺の責任でもある。ただ、彼の爵位を即刻剥奪することはできない。俺は明日、アストラへと向わなければならない。今できることは彼の監視と警告だけだ」

「い、いえ! 対応してもらえるだけでありがたいです……!」


 彼の対応にソティアは深々とお辞儀をする。

 ところどころ言葉に棘があり、変なところもあるが、実はそれなりに理解のある優しい人物なのかもしれない。


「話は終わりか?」

「あっ、はい」

「そうか、ではこれにて」

「あ、あのっ……」

「あ? なんだ?」


 立ち去ろうとするフィリスを呼び止める。

 最後に一言お礼が言いたかった。


「ありがとうございました……!」

「ふん……予選敗退した雑魚でもAランク冒険者か。ならばいずれ、お前の力が必要になる時がくる」

「……?」

「その日が来るまで、精進するんだな」


 そう言い残し、フィリスは去っていった。

 

〈……変な奴だった〉


「おーい、ソティア! 大丈夫か!?」

「ララ……?」


 フィリスが去って行った後を見計らったかのように、ララが建物の裏からやってくる。

 

「フィ、フィリス様と話してたのか!? 一体、何を……!?」

「そ、それはもちろん……ララの事だよ」

「ぼ、僕の……?」

 

 ソティアはフィリスから聞いた言葉を、一言一句違わずにララにも伝える。

 

「……そ、それは本当か……?」

「うん……! そう言ってくれたよ。だからララとお兄さんもきっと助かるはず……!」

「う、うう……良かった……本当に良かった……!」


 ララは話を聞くと、突然泣き崩れてしまう。


「ララ!? 大丈夫……!?」

「だ、大丈夫だ……! ちょっと感極まっただけ……」


 腕で涙を拭うと、ララはソティアの手を掴む。


「ありがとう、ソティア……。まさかフィリス様と直接話をつけるなんて思いもしなかった。僕ではそんな勇気、出なかった。本当にありがとう……」


 今まで二人の五大天楼にあってきたからだろうか。

 五大天楼耐性のようなものができなのかもしれない。

 自然と彼に声をかけることができた。

 

 五大天楼は実力と民の信頼を得て上り詰めた地位。

 民の声を必ず聞いてくれるはずだと、確信が持てていた。

 そして実際にフィリスは話を聞いてくれた。


 これでララの問題は解決できたかもしれない。

 自分が誰かの役に立てたことを嬉しく思うのだった。 


しばらく空くかもです

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