9話 出会い
「ま、間に合った……」
急いで宿屋を出たソティアは、真っ先に集合の地点まで駆けてきた。
「おはようございます。ど、どうしかしましたか……? 随分と慌てられていたようですが……」
「だ、大丈夫です……、ちょっとドタバタしちゃって……ははは」
ソティアはカロンに苦笑いを見せる。
「見てくださいこの快晴を、こんな日に出発ができるなんて我々もなんと運の良いことか。我らが創造主、エレウテリア様に感謝を……」
カロンはそう言って、空を見上げて祈りをささげる。
確かに外は雲一つない晴天で、まさに外に出向くには絶好の天気だった。
「今日からは結界の外にも一部進まなければならないので、イーターが出で来る可能性があります。どうかお気をつけください」
カロンは話を伝えると、そのまま馬車の方へ向かっていく。
おそらく大襲来で残ったイーターの残党の事を言っているのだろう。
前回はカフィーのおかげで助かった。
カロン達もついている今回ならばよりスムーズに対処できるにちがいない。
馬車に乗りソティア達はアニマ国へ向けて出発を始めた。
「さっきはあんなこと言いましたが、ここら一帯で上がっている報告のイーターはどれも、一つ星や二つ星程度の弱いイーターばかりです。どうかあまり張り詰めないすぎないでくださいね」
馬車に乗り、出発した道中でカロンが外を見渡しながら話す。
〈なんだ? その一つ星とか二つ星とか言うのは〉
カフィーがカロンの話に飛びついてくる。
「ええっと、一つ星や二つ星っていうのは一体……?」
カロン達にカフィーの声は届かないためソティアが代わりに質問する。
「モンスターやイーター達の強さの度合いっすよ」
近くにいた他の若い兵士が答える。
「あいつらにもそれぞれ強い弱いがありますから一つ星から十星までの段階に分けて危険度を表すようにしたんす。そしてそれよりも上位、神話級の強さを誇った存在を特別に宇宙級として分類するよう、かつての五大天楼様たちが取り決めになさったそうっすよ」
〈なるほどな。そうやって危険度を分けることによって、より適した人材に戦わせるよう効率化したということか〉
兵士の発言に、カフィーはどうやら納得しているようだった。
「それでも、八つ星以上の存在なんて滅多にお目にかかれませんけどね。宇宙級の存在などそれこそ、エレウテリア様の眷属であった神獣達や、邪龍カタストロフィスなど伝説として伝えられている存在ばかりです」
カロンが若い兵士の話した内容に、言葉を付け加えた。
「カフィーってそんなに強かったんだ……」
「ん? カフィー……とは?」
ソティアの発言にカロンが首を傾げる。
〈ばっ! お前!!〉
「い、いえ! 何でもないです!!」
「そう、ですか……?」
ソティアが首を横に振って話を無かったことにしようとする。
するとカロンはそれ以上深く尋ねてくることは無かった。
〈気をつけろ……お前の中に俺がいるとバレれば、お前は今頃串刺しにされ、火炙りの刑に違いない〉
(ご、ごめんなさい。気を付ける……)
そのような会話をしていると、後ろからガタガタと音がしてきた。
気になって後ろを覗いてみると、何台かの馬車が、私たちの後ろをついてきている。
「あれは……?」
「我々以外にもアニマへ向かう者は多くいるのです。ですからあれは、今回我々ともにアニマまで同行している者達になります。人数が多い方が非常時にも対処しやすいですしね」
ソティアが後ろを気にしていることに気付いたのか、カロンは説明をする。
「なるほど……」
〈おい、気をつけろ。前から気配がするぞ〉
ソティアがカロンの話にうなずいていると、カフィーが注意を促してくる。
(それってまさか……)
〈イーターだな〉
「……カロンさんっ!」
それを聞いたソティアは急いで周りの人たちに、前方からイーターが来ていることを伝える。
「なんですと!」
「前方奥から3体のイーターを発見! どちらも二つ星級と思われます!」
話を聞いた兵士が、望遠鏡で覗きながら報告する。
「二つ星か……、英雄様ここは我々にお任せを。どうかそこで待機していてくだされ」
カロンさんはそう言うと銃を担いで、数名の兵士とともに外に出た。
アリのような形をした黄色い目のイーターが、くの字に並んでこちらに進んできている。
白く硬そうな外殻に覆われており、それぞれの足に鋭利な2本の爪を備えている。
〈あれが二つ星? あの時の犬どもとの強さの違いが分からんな〉
カフィーがぼそりと呟く。
「火炎銃用意! 目標アリ型のイーター3体!! 構え!!」
カロンの号令に従い兵士たちがイーターに向かって銃を構える。
統率のとれた動きで、流れがスムーズだった。
「撃てーーー!!」
合図により数発の銃弾が、炎を巻き上げながら激しい音とともに放たれる。
銃弾の威力は凄まじく、やつらの頭を貫き、足を吹き飛ばし、体中に穴をあけた。
そして兵士たちに手によってイーターはあっけなく討伐されたのだった。
「凄い……!!」
ソティアは感嘆の声を思わず口にする。
「いえいえ、英雄様には遠く及びませんよ」
カロンが謙遜して、こちらまで歩み寄ってくる。
「我々が戦えるのもこの銃のおかげですからね」
カロンは両手で銃をソティアが見えるようにかざす。
「アストラ国が発明した、対イーター用魔法兵器です。我々の源力を自動でエネルギーに変換して相手に攻撃をしてくれるのです」
〈ふむ……〉
「これのおかげで、我々のような一般の人間でも兵士としてイーターと戦うことができるという訳です」
「魔法兵器……」
世の中にはすごい発明品があるんだと、ソティアは感心する。
そしてなによりも、人々にイーターと戦う術があることを知った。
「触ってみてもいいですか……?」
「ええ、もちろん。ただ引き金の付近だけは危ないので駄目ですよ」
ソティアがカロンから許可を貰い、魔法兵器に触れようとした時だった。
〈まずい、上だ!〉
カフィーが突然、大声で呼びかける。
「ぐああっ!!」
あまりにも一瞬の出来事だった。
イーターの亡骸を調べていた兵士のもとに、大きな怪鳥が上空から急降下で接近し、鋭い爪でその身を切り裂いた。
即死だった。
「え……!?」
「上空より鳥型のイーターが2体出現!!」
「迷うな! 撃てーー!!」
カロンが合図を出し、兵士たちがとっさに銃を構えて発砲する。
しかし、鳥型はその攻撃すべてを素早くかわす。
「ピューーー!!」
鳥型は銃弾をひらりと避け、刃物のように鋭い翼でさらに兵士を1人、真っ二つに切断した。
「くそッ!!」
突然の出来事に、皆が慌て始める。
「カロンさん!! 危ない!!」
もう1体のイーターがカロンのもとへ滑空し迫ろうとしていた。
「カフィー!」
〈手をかざせ!〉
考えている時間はない。
カフィーの指示通り、手の平を広げる。
〈ん! 待て!〉
「カフィー?」
「うおりゃーーーー!!」
横から飛び出てきた金髪の少女が、大剣でイーターを薙ぎ払う。
血しぶきが勢いよく飛び出て、イーターが地面に転がり落ちる。
「気分よくお昼寝していたのに、起きてみたら何の騒ぎよ!!」
金髪の少女は大剣を地面に差し込み、カリカリしている。
「あっ!!」
残った1体のイーターが金髪の少女に標的を変え、接近する。
他の者は皆、イーターの急速な接近に気づいていない。
ソティアはとっさに走り出して、その少女の背中側に立つ。
「ちょ……!! あんた誰!?」
攻撃する方向に人影はない。
「お願い!」
〈"バースト"〉
そして放たれた攻撃は鳥型のイーターもろとも、道なき道を抉っていく。
「な……!?」
後ろにいた少女が唖然としている。
「えっと……怪我はないですか……?」
さりげなくソティアはその子に聞いてみる。
「べ、別になんともないわよ! 言っておくけど私気づいてたからね! 間抜けだと思わないでね!」
急に金髪の少女は怒り出した。
「ご、ごめんなさい……!!」
予想していなかった展開に、ソティアは何故かとっさに謝った。
「いや、別に謝らなくていいけど……って、よく見たらあなた!! 今朝のパン咥えてた人!!」
「えっ……!?」
ソティアは彼女の言葉に一瞬思考が止まる。
そして彼女が今朝の事を話しているのだと理解した途端、顔をが真っ赤になった。
あの時は急いでいて何も考えてなかったが、今思い出すと恥ずかしくなる。
「私はネオン、ネオン・アーエールよ。一流冒険者……になる者よ。さっきは助けてくれたこと、一応感謝しておくわよ」
ネオンという名の少女は髪をなびかせ、お礼の言葉を口にする。
「なんだか変わった人だね……」
「いや、あなたがそれを言うの!?」
そしてそれがソティアにとって初めての友との出会いだった。