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イータークラウン ~邪龍と少女の冒険録~  作者: なんちゃら竜
第一章 邪龍と少女
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8話 邪龍と女神


〈今は神歴何年だ?〉

「えっと……、今は多分神歴じゃなくて人類歴だと思うよ……」

〈そうか、呼び方も変わったのか……。まぁどうでもいいか〉


 カフィーは神妙な雰囲気の中、喋り出す。


〈まず俺がどうしてこの世界に来たのかについてだが、実のところを言うと俺も何故あんなことをしていたのか、どうしてこの地に来たのかよく分かっていないんだ〉

「ど、どうして……?」

〈どうしてだろうな……。不甲斐ない話だとは思うが俺もそのあたりについてはよく覚えていないんだ。ただ、何か目的があって行動していたはずなんだがな……。あの時俺の中には目の前に見えるものすべてを破壊しなければいけないという意志しかなかった……〉

「カフィー……」


 カフィーの話す言葉はどこか寂しげだった。


〈そんな時だったな。あいつに会ったのは……〉

「あいつ……?」

〈エレウテリアだ。

 そこからの話はお前も聞いたことがあるとおりだと思うぞ〉


 女神と邪龍。

 その物語は今や誰もが知るお伽話だ。

 しかし、ソティアには素朴な疑問があった。

 どうしてエレウテリアはカフィーを蘇らせようと思ったのか。

 そして、カフィーはどうしてエレウテリアと共に行動しようと思ったのか。

  

〈最初あいつに呼び覚まされたときは怒りがふつふつと湧いてきたもんだが、自然と俺の中にあった重荷のようなものは無くなっていたのを感じたんだ〉

「重荷……」

〈俺の中にある足枷のような、鎖のような……、なんといえばいいのやら……。ただその時、俺は初めて自分が自分であることを認識できたような気がしたんだ〉


 一呼吸間をおいて、カフィーは話を続ける。


〈そしてあいつに頼まれた。ともに戦ってほしいと〉

「どうして女神様はカフィーを助けてくれたんだろう……?」

〈どうだか……。正直言ってあいつの口調はどれもふざけているように感じるものだから、何を考えているのかよく分からん〉

「え、女神様ってそんな感じだったの……? もっと厳格な人だと思っていたんだけど……」


 ソティアの読んでいた物語に登場するエレウテリアはとてもまじめな性格の持ち主だった。

 民を思い、民と共に歩んでくれた偉大な方という認識だった。


〈そんなわけあるか。あいつは口を開けばすぐ他人をからかったような喋り方をするんだ。あー今思い出しただけでも腹立たしい〉

「ふふっ」

〈……なんで笑った?〉

「女神様のことを語っているカフィーが楽しそうだからつい」

〈あのな……、どこをどう判断したらそう思うんだよ〉

「もっと聞きたいな……、カフィーの話」


 ソティアはワクワクしていた。

 自分の知らない物語の内容が、本人から聞けるかもしれないことに。

 そう考えると、眠ることなんてできない。

 好奇心は高まっていくばかりだった。 


〈はぁ……、早く寝るんだぞ。

 そうだな、そういえばあいつは俺の背中にやたらと乗りたがっていたな。

 自分で飛んで移動することだって造作もないくせにだ〉

「私もカフィーの背中乗ってみたいなぁ……」

〈今は体が無いけどな……。

 しかし自分の背中に誰かが乗っているって感覚は、どうもむずかゆいもんだ。だというのに、ここぞとばかりにあいつはいつもいつも……。

 あーなんかまた無性に腹が立ってきたな〉

「ふふっ」

〈笑うな〉

「ご、ごめん……」


 そうしてカフィーは自身とエレウテリアの話を、ソティアにいくつか聞かせた。

 話を聞いていると、次第に夜も深くなっていく。




〈そしたらあいつ何をしたと思う? 俺の姿を模倣したドラゴンベイビーを作りやがったんだ。俺に同胞がいないとかいう舐めた理由でだぞ。最初それを見た時は呆れて物も言えなかった……。

 だから俺はあいつに言ったんだ……、ん?〉

「すぅ、すぅー」

〈やっと寝たか……〉


 ソティアは静かに寝息を立てていた。 

 その眠る姿はどこにでもいる少女そのものだった。

 

〈…………〉


 カフィーはそれ以上、何もしゃべらなかった。

 ただ静かに、ソティアが眠るのを見守り続けていた。

 ソティアの寝息と秒針を刻む音だけが、部屋の中で聞こえるのだった。


 



 --------





(ここはどこだろう……?)


 雲の上にいるような、ふわふわした空間の中にソティアはいた。

 そんな場所でただ呆然としていると、彼女頭に声が響いてくる。


  殺せ……。

  お前はただ世界を滅ぼすために生まれてきたのだ……。

  すべてを破壊し、王座にその力を証明しろ。

  その先に××××は存在する。


 謎の声が重々しく語り掛けてくる。

 その声が何を言っているのか、ソティアにはよくわからなかった。

 ただ何となくだが、良いことではないのだろうとは理解した。

 その声を聞いていると生きている心地がしないのだ。

 夢なら覚めてほしい、そう思うばかりだった。




〈おい、起きろ。いつまでよだれを垂らして寝ているんだ。日はもう上っているんだ。そんなに寝てたら出発の日時に遅れるかもしれないぞ〉


 ソティアの頭にカフィーの声が聞こえてくる。

 その声に目を開けると、窓から差し込む日の光が眩しかった。 


 外から鳥の鳴き声が聞こえる。

 今日は良い天気のようだった。

 

(さっきのあれは夢だったのだろう……?)

 

 モヤモヤした感覚がソティアの中に残る。


〈どうした、具合が悪そうだな。悪い夢でも見たか?〉

「ううん、大丈夫。それより今は何時?」


 外は陽気な雰囲気だ。

 あのへんな夢のことは忘れよう。

 ソティアは気を取り直すことにした。

 これから旅の続きが始まる。

 悪夢に悩まされている場合ではないのだ。


〈時計を見る限りだと、9時30分といったところだが〉

「え……?」


 確か、明日の出発日時は10時だったはずだ。

 カロンの口からきいた記憶だとそうだ。

 そして、それは出発の時刻まであと30分もなかった。


「まずいっ!!」


 ソティアは急いで寝巻きから着替え、身支度を整える。

 このままだと出発の時刻に遅れてしまうかもしれない。


「大変だよ……! このままだと予定の時刻に遅れちゃう!」

〈お前が俺の話を聞きたいとか言って、頑なに寝ようとしなかったからだな……〉


 カフィーが呆れたような声で話しかける。


「カフィーはいつから起きてたの?」

〈ん? おれは肉体を持っていないからな。眠る必要なんてないぞ〉

「じゃあ……ずっと起きてたってこと?」

〈そうなるな〉

「なんで起こしてくれなかったの……?」

〈はぁ!? もしかして俺のせいになってるのか、これ?〉


 カフィーはずっと起きているなら、ソティアをいつでも起こすことができたという事だ。

 カロンの会話もカフィーは聞いていたはずである。

 それならばこのような事態を未然に防げたのではないかとソティアは思ってしまった。

 

「できれば、起こしてほしかったなぁ……」

〈くうぅ……分かった、俺も悪かった。次からは気を付ける〉


 ソティアはそのまま部屋を出る準備をし、朝食を咥えた。


〈おまえの寝息がちょっとだけ彼女に似ていたから聞いてたなんて、言えないわな……〉

「はひかひった?(何か言った?)」

〈いや、なんでもない〉

「ははっふぁ(分かった)」


 そんな会話を挟みつつ朝食を咥えたまま、ソティアは宿屋を後にするのだった。


 



-------





 宿屋の一階で、朝日が頭に反射して輝く中年くらいの男が酒を飲んでいた。

 

「随分と変わった様子の子供だったな。ここらじゃ見かけねぇ顔だ。もしかしたらお前と同じ冒険者連盟への試験を受けに行くのかもしれないぞ、ネオン」


 中年の男はそう言って、近くにいた一人の少女に向かって話しかける。


「何変なこと言ってんのおっさん、朝からお酒なんて飲むから頭おかしくなったんじゃないの?」


 金色の髪をした少女が中年の男に対して言い返す。


「冗談だよ、今時このご時世で冒険者か騎士になりたい奴なんて、お前のような変わり者しかいないだろうからな。ガハハ」


 男は笑い飛ばしながら、その場を離れていった。


「まったく。冒険者になることの何が悪いって言うの。一流の冒険者になれば一攫千金、お母さんたちを楽にしてあげることだってできるんだから」


 ネオンという少女は、どこかイライラした口調で床を足でつついていた。


「でも確かに、さっきの子はこの辺りじゃ見ない顔だったかもね」


 雪のように白く染まった髪をしており、左目は青、右目は赤色のオッドアイの少女。

 それだけでもかなり世間離れした風貌だったが、何よりも


「パンを加えながら出ていったわね……」


 パンを加えてドアまで走り抜けていく様は、傍から見てとても滑稽だった。


「まぁいいわ、冒険者に立候補する人なんて誰でも。私は私のために頑張るだけなんだから」


 ネオンは拳を手に当てながらそういって、外へ向かっていった。


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