72話 必要なのは
「オークション……」
冒険者連盟で手続きを済ませたソティアたちは、借りた宿舎の部屋の中で、先ほど見つけたオークションの内容について目を通す。
「なぁ、これはチャンスなんじゃないか?」
それを見たカフィーが一番最初に口を開いた。
「どういうこと……?」
「お前たち前に話し合っていたんだろ? 金が無いだのなんだのと。ならばこのオークションにお前たちも一つ出品してみたらどうだ?」
以前ソティアたちが話し合っていたギルド会議の内容、それはカフィーにも後で伝えていた。そのことについてカフィーは提案をしているのだと気づく。
「それは確かにそうですね……、活動資金は多ければ多い程いいでしょう」
「でも出品するとして何を売るのよ? まさかカエルムさんの剣とかいわないわよね?」
「違う違う、売るなら当然あれしかないだろう。万能キノコだ」
荷台に置かれたカエルムの剣を庇うように立つネオンに、カフィーは補足で説明をする。
「保存用の瓶も万能キノコで圧迫されているからな。一つだけなら空きを作るために売るのもありだろう。それにオークションでなら連盟側で売るよりもさらに高額な価格で取引できるかもしれんぞぉ……」
悪魔的笑みを浮かべ、カフィーは皆に語りかける。確かに悪い提案ではなかった。サントリナもカフィーの話に耳を傾け、頷いている。
「それもありですね。オークションでならば原価の2倍、いやもしかすると人によってはさらに高額で売れることだってあるかもしれませんね」
「最高じゃない! これで私たちもお金持ちってわけね! 夢の豪遊生活がまっているわ!」
その話にネオンは目を輝かせて喜んでいる。どうやら方針はきまったようだ。
「ソティア、お前はそれでいいか?」
「あ……うん」
「……オークションはやはり慣れないか?」
「少し……、でも私の心配はしなくて大丈夫だよ、ギルドの方が大事だから」
「分かった」
カフィーに心配をかけてしまったとソティアは反省する。ソティアがオークションと言う言葉に対して苦手意識を持っていることを既にカフィーには見透かされていたようだ。そのことで自分が少し情けなく思う。
「あ、そうだった。お前たちに俺からもう一つ提案したいことがあったんだ」
「どうしたの……?」
ギルドの次の方針が決まったところで、カフィーが思い出したかのように次の提案をしたいという。
「今ギルドのメンバーは俺とお前たち3人だけだ」
「そうだね……」
「これは迷宮の森を攻略していた時から少なからず感じていたことでもあるんだが、俺たちには欠けているものがある」
「そ、それは一体……」
「戦闘を援護してくれる存在、サポートしてくれる仲間だ」
戦いにおいてメンバーの支援をする存在、それをカフィーは必要としていた。以前、空いた時間に読んだことのあるギルド指南書にもパーティーを組む者はそれぞれに役割を持つことが重要だと書いてあったことをソティアは思い出す。
改めて、ソティアたちは現状の自分たちの役割を確認してみることにする。
ネオン:前衛。大剣を使った大振りな攻撃による前線の押し上げと、ガード・高い身体能力による身のこなしを駆使して敵の注意を引く。
サントリナ:前衛及び中衛。前衛が集めたヘイトを利用し、その隙を炎のイデアによる高火力で攻め切る。ネオン一人では厳しい場合には共に前に出て、敵の攻撃を避けながら戦う。
ソティア:カフィーの能力とモーゼを使った遠距離からの火力支援と索敵が主体。前衛で戦うことも可能。ただし、ソティアにはリスクが大きい。
「皆さん、それぞれで戦ってますね……」
こうして全員のポジションを考えると、立ち位置はそれほど悪くないが、メンバーの全員が戦うことを担っていた。ソティアたち3人を全体から支援してくれるような人はいないのだ。よくよく考えれば、皆、自分の戦いで精一杯だった。相手が強敵であればあるほど強くそれを実感する。
「そうだ、つまり俺たち全員の戦いをフォローしてくれる存在が最低でも一人は必要だ。今後、迷宮の洞穴攻略も視野に入れるなら尚更考慮する必要があるだろう」
「仲間……」
ネオンもサントリナもソティアにとっては奇跡的な出会いと偶然、そして同じ志を持つからこそ共に仲間として行動していると思っている。ただ、実際に冒険者として仲間を募集するとなるとどうすればいいか分からない。
「まぁまだ焦る必要はない。いづれ集まればそれでいい。ただ悪いがこの件についてはお前たち3人だけ話を進めてくれ。俺の存在は公にはできないからな。相談くらいなら乗るが」
「うん、分かった」
「オッケー」
「了解です」
カフィーの頼みに3人はそれぞれ返事をした。こうして突如として始まったギルド会議(カフィー含む)は終わった。