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イータークラウン ~邪龍と少女の冒険録~  作者: なんちゃら竜
第一章 邪龍と少女
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6話 3000年前


「皆の者!! 刮目せよ!! ここにおられるのは、我らが創造主であられるエレウテリア様の祝福を受けたであろう英雄様であられるぞ!!」


 おいおい、どうしてこうなった。

 ちょっと犬っころ達をぶち転がしてやろうと思っていただけだったんだが。

 

 カフィーは目の前の状況に参っていた。


「あのイーター達を一人で倒したんだって!」

「あんな子供がか!?」

「ちょっと! 英雄様に失礼でしょ!!」


 人々はソティアを見るや否や、次々に喋り出す。

 もはや彼らは自分たちの世界に入り込み、大盛り上がりだった。 

 

〈全く、勘弁してくれ……〉

「ねぇ……どうしよう……?」

 

 ソティアがカフィーに助けを求める。

 彼女は人々にここまで注目されるのが初めてなのだろう。

 大勢の人々の視線に当てられ、たじたじになっていた。


〈まずはこの状況を何とかしないとなぁ……〉


 この場所から一刻も早く抜け出したかったが、離れるに離れられない状況のようだった。

 まさかここまで神格化されるとは思ってもみなかった。

 まるでこの町の英雄のようだった。

 実際、英雄呼ばわりされているのだが。


「わし共に何なりとお申し付けくださいませ。

 遠慮はいりませぬ、あなた様はこの町をお救いになられた英雄様なのですから」


 どうしたものかと悩んでいると、 

 一人の老人が壇の下からソティアにお礼をしてくる。

 おそらくこの町の町長だろう。

 綺麗な丸い頭が明りに照らされ輝いている。

 

 というかこの町長は今、何でもといった。

 何でもということは、何でもということだ。


 カフィーは心の中で来た! と確信した。 


〈おい、ソティア。これはチャンスだぞ〉

「ど、どういうこと?」

〈忘れたのか! 俺達でさっき計画をしただろ?〉





------




 

 時は遡ること数時間前、3体のイーターを倒した頃に戻る。

 カフィーたちはイーターを倒した後、今後の事について少しだけ話し合っていた。

 というよりは彼が一方的に決めていたが。


「カフィーって本当に凄いドラゴンだったんだね……」

〈あたりまえだろうが、俺はカタストロフィスだぞ!〉


 こいつも俺の強さをようやく理解したのだと、カフィーは誇らしげになる。

 今回彼は久しぶりに自身の力を使っていた。

 力を使った感覚としては、ソティアの体を経由しないとならないため少し手間がかかるといった具合だった。

 あと他に分かったこととしては、力がかつての半分にも満たないことだった。

 3000年の間にカフィーの力は衰えてしまっていた。

 それは彼にとってもちろん良いことではなかった。

 

〈とりあえず目の前の問題は解決した。町に戻るぞ。

 まずお前のその見た目をどうにかしないといけないな〉

「あっ……そうだね……」


 ソティアの恰好は他の人間たちと見比べるとかなりみすぼらしかった。

 カフィーが生きていた時には、こんなに醜い格好の人間は見た事が無かったのだ。

 時代の移り変わりは激しいものだな、とカフィーはしみじみ思う。


〈あとは金だな〉

「お金?」

〈人間にはそれが必要なのだろう? 俺は金など一度も持ったことが無いがな〉

「そ、そうだね……、ドラゴンだもんね……」


 人間は金を使って様々なものを交換している。

 金がなければ何も始まらないだろう。

 カフィーはそう考えていた。

 彼から見て今のソティアに金を持ってそうな雰囲気は無かったため、提案する。


〈そして何よりも、情報だな〉

「情報……?」

〈そうだ、俺が最も持てめているのはそれだ。俺の記憶が抜け落ちている部分を知っている奴らがいるかもしれん。そいつから世界の現状を聞き出すことが最優先事項だ〉


 何故あの場所で宝石の中に閉ざされていたのか。

 パクトルという人間に商品として売られていたことも屈辱的だったが、それ以上に自分があんな風になってしまっていたことがカフィーにとっては最も嘆かわしいことだった。


「1つだけ私も聞きたいことがあるんだけど、いいかな……?」

〈なんだ、言ってみろ?〉

「私の両親についてなんだけど……」


 ソティアの話では彼女の両親は現在、行方不明になっているそうだ。

 ソティアはまだ子供だというのに、守ってあげるべき親が失踪してしまっているとはなんとも気の毒な話だと思う。

  

〈まぁ別にいいんじゃないか〉

「いいの……? ありがとう……」

〈礼などいらん。そんなことはお前の自由だ。

 わざわざ俺に許可を取る必要などないだろう〉

「う、うん……」





------





 そんなこんなで町長にはソティアからお願いをした。

 残念ながら、カフーの声は彼らには届かないらしい。

 カフィーの声を聞くことができるのは現状、ソティアだけという事になる。

 ソティアが話を経由してくれれば、それほど大した問題でもなかったが。


 とりあえず一度その場から去り、宿屋を一件無償で借りることとなった。さらには報酬としてソティアに立派な服と、しばらくは不自由なく暮らせるだろうと思われる金銭が贈呈された。

 最初の目標であった服装と金についてはどうにかなりそうだった。

 ソティアの見た目もなかなかに悪くない。

 白いワンピースと黒のローブに身を包んでいる。

 以前までのみすぼらしい布切れの服より、断然良いだろう。

 かつてもこういう姿の少女がいたような気がすると、カフィーは懐かしんでいた。

  

 そのあと、町長に相談事があるという理由で話を済ませた。

 あの空気から解放されて少しは楽になったというものだ。 


 そしてまもなく、町長と約束した時刻になる頃合いだった。


「こ、こんにちは」


 ソティアは役所にいる町長のドアをノックし、ぎこちなく開ける。

 

「おぉ英雄様や、ようこそおいでなさいました。どうぞごゆっくりなさってください」


 町長は手際よくお茶を注ぎ、ソティアの前に差し出す。


「して、この私奴にお聞きになりたいこととは?」

〈ソティア〉


「はい、私が聞きたいことは3000年前の出来事についてです」


 3000年前。

 カフィーがまだ存在していた時代。

 今の彼にはその当時の記憶が抜け落ちている。

 ここで何か得られるものがあれば良いのだが。

 自身の知らない事実をこれから聞くのだと、カフィーは不安に駆られる。


「3000年前というと……エレウテリア様がご存命であられた頃ですな……」

「はい……」

「3000年前、それは悲劇の始まりでした。

 世界外側より未知の怪物たちが我々の生きる大地、ミソロギアを襲撃して来たのです」

「未知の……怪物……?」

「現在、イーターと呼ばれるものたちのことです。奴らはこの世界のあらゆる生命を喰らいつくそうとしてきました。

 そこで、創造主であられるエレウテリア様がその偉大なるお力でイーターを撃滅されたのです」


 町長は白く長い顎鬚を手でさすりながら、話を続ける。

 そんな彼の表情はどこか深刻そうだった。


「しかし、本当の地獄はここからでした。遥か天空より1体の龍が降り立ったのです。その名は邪龍、カタストロフィス。彼の龍はエレウテリア様と同格、もしくはそれ以上の実力を秘めていました。その強大な力は、大陸のほとんどを焦土に変えるほどです。龍はエレウテリア様と英雄たちが力を合わせて多くの犠牲を払い続けた果てに、ようやく討伐することができたのです」

「というと、邪龍は……死んじゃったんですか?」


 なんだその質問は、とカフィーは呆れる。

 今彼女の中に宿っている自分自身が何よりの証拠だろうにと。


「いえ……。心優しきエレウテリア様は、打ち滅ぼしたはずの邪龍を自身の眷属として蘇らせたのです」

「女神様がですか……?」 

「あの御方の真意は誰にも分りません。当然他の者たちもあのお方の行動に反対していたと言われています。邪龍が復活すれば再び戦いが起こるのは必然でしたから。しかし、結果は違ったのです。邪龍はエレウテリア様に付き従い、共にイーターと戦ったのです」

「え……? カフィっ……、邪龍がですか……?」

「ええ、そうです。なぜ邪龍がそれほどまでに大人しくなったのかは分かりませんが、エレウテリア様と邪龍の力で世界には再び平和が訪れました」


 町長の話を聞いていると、邪龍はかつての日々を思い起こしていた。

 エレウテリア。

 なぜ彼女が今、この世界にいないのか。


 彼女のいない世界に邪龍は悲しさを覚える。


「しかし、再び訪れた平和でさえも、長くは続きませんでした。

 イーターの軍勢がさらなる勢いでミソロギアを襲撃し始めたのです」

「そんな……」

「エレウテリア様はこの度重なるイーターの襲撃を受け、ある策をとられました。それこそが【世界の障壁】。エレウテリア様のみが展開することのできる超巨大結界です」

「世界の……障壁……」

「世界の障壁が築かれて以来、イーターの襲撃は二度と起こりませんでした。エレウテリア様の尊い犠牲のおかげによって……」


〈くそっ、なぜ俺はそんな重大なことを忘れているんだ……〉

 

 カフィーはただ自身の現状を嘆く。

 

「その後、邪龍とエレウテリア様の加護を受けていた5英雄たちが、あの御方の代わりにこの世界の秩序を保っていました。

 ある日を迎えるまでは……」

「ある日……?」

「邪龍が暴走を始めたのです」


〈(……!? 俺が……暴走……?)〉

 

 突然告げられた事実にカフィーは困惑した。

 

「邪龍の突然の暴走より、世界は混乱に陥りました。

 その被害はかつてエレウテリア様と戦っていた頃よりもさらに激しく、人類は滅亡の危機にさらされたのです」


 何故そんなことになったのか。

 カフィーには分からなかった。

 エレウテリアに託されたこの世界を守るはずの自分が、どうして世界を再び滅そうとすることになったのか。


「しかしエレウテリア様の加護を受けた5人の英雄たちによって、邪龍を今一度倒すことに成功したのです。

 現在、その邪龍の力を封印した石板をその英雄たちが5つに分断し、現在に至るまで管理してきました。

 その英雄たちの名は五大天楼。

 現ミソロギアを統括されし偉大な御方達です」


〈(五大天楼。そいつらが俺を……。

  今石板といったな。

  おそらくそこに俺の力と記憶が眠っているのか?)〉

 

 町長は嘘を言っているようには見えない。

 だが、カフィーは自身の心をざわつかせる謎の感覚に、疑念を感じていた。


〈(間違いない、この世界には何かおぞましいものが蠢いている)〉

 

  




 

 町長との会話を終え、宿屋に戻る。 

   

「カフィー……」

〈どうやら俺は今、この世界で最も凶悪な存在として認知されているようだな……〉


 話を聞くに、カフィーはこの世界を2度も滅ぼそうとした大悪党だった。

 まさか自身がそのような立場に置かれていたなんて。

 カフィーは自分という存在が一体なんなのか分からなくなっていった。


〈お前は……、どうする?〉

「え?」

〈俺という大悪党をその身に宿しているんだ。

 そんなお前は紛れもない悪そのもの〉

「………」


 しかし、よくよく考えればなぜソティアはカフィーの魂をその身に宿すことができるのか。

 カフィーは死者の魂を自身に宿す降霊術は見た事があるが、今の自分達の状態はそれとはまた違った。

 2つの思考が1つの身に混在している。

 ソティアは自分をただの村の娘としか話していないが、果たしてそれは……。

 カフィーの中で新たな疑問が生まれていた。


「私、カフィーが悪者だったと思えない……」

〈何を言い出すんだ、話を聞いてなかったのか?

 俺はこの世界を2度も……〉

「でもカフィーは私を助けてくれたよ。この街だってそう。

 皆は私を英雄扱いするけど、本当の英雄はカフィーなんだよ」

〈ソティア……〉

「確かにカフィーは最初、悪者だったのかもしれないよ。

 でも話を聞いてたら本当にそうだったのか、よくわからなくなっちゃった……」


〈(こいつ、そんなことを考えていたのか……)〉


 正直なところカフィーは、ソティアのことを何も考えてなさそうな顔をした子供だと侮っていた。

 しかし、彼女にも彼女なりの考え方や思いがあったのだ。

 ソティア・プシュケース。

 カフィーが今最も頼れるのは、彼女しかいないのかもしれない。

 カフィーは決心をした。


〈お前に1つ提案をしたい〉

「どうしたの……?」

〈お前に、俺がこの世界に蘇るための手助けをしてほしいんだ〉

「わ、私が……?」

〈もちろんタダでとは言わない。俺がこの世界に再び降り立った暁には、お前の両親を見つけ出し、必ず再開させてやると誓おう〉


 実はあの後、町長にソティアの家族の事についても話を聞いていた。

 しかし、望んでいた結果は得られなかった。

 

 母:アイリス・プシュケース 父:ケアノス・プシュケース

 

 彼らの名前を聞いても、町長はその名も行方さえも知らなかった。

 ソティアはそれを聞いて、ひどく落ち込んでいる様子だった。 


「カフィーが私のお母さんとお父さんを見つけてくれるの?」

〈ああ、必ずだ。約束しよう〉

「……うん! よろしくね……!!」


 カフィーの言葉を聞くと、ソティアは笑顔でそう答えた。

 

 実を言うとカフィーにはソティアの両親を見つけられるかどうか確証はなかった。

 だが彼は今、決意した。

 この身寄りのない哀れな少女を守り、自身もこの世界に再び蘇ると。

 この先には残酷な真実が待っているのかもしれない。

 それでも彼は進まなければならなかった。

 エレウテリアとの約束を守るため。

 隠された真実を暴くために。


〈そうと決まれば、さっそくこの町を出るぞ〉

「どうするの……?」

〈町長が言っていた、五大天楼とやらのいる場所に向かうんだ〉


 町長から五大天楼についても詳しく聞いた。

 彼らはそれぞれ別々の国を治めている。

 今カフィーたちがいるサイレス国は最も最西端に当たる国。

 ここから五大天楼の国まで最も近いのは、


〈豊穣の国、アニマに向かうぞ〉 



 カフィーとソティアの長い冒険の始まりだった。 


  


 

 ------





「たった今、僕の中の疑念は確証に変わった」


 白髪の男、サキアは町の時計塔の上からソティアのことを観察していた。

 

「あの娘の中には邪龍が潜んでいる」


 地下で起きた出来事、そして町に仕向けたイーター達の消滅。

 この二つの要因から彼はソティアの存在を知ることができたのだ。

  

「そこそこ強いのを仕込んだんだけど、あのクラスのものを倒せる奴なんて、この辺りじゃもうヤツしかいないじゃないか」


 邪龍の力を使役する少女。

 サキアにとってはこの事態はあまりにもイレギュラーだった。

 彼女と接触することも考慮したが、今はまだリスクが大きい。

 

「まったく、プラン変更だ」


 サキアは人差し指と中指を立てると耳元にあてる。


「やぁリーダー、元気にしてたかい?

 そんなことよりも状況が変わった。僕は一度そっちに戻るよ」


 会話をやめると、ソティアを遠くから見つめる。


「フフフ、これはこれで面白くなりそうだ」


 その瞬間、塔の上にいた男は風が吹くと同時に、サッと姿を消し去るのだった。


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