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イータークラウン ~邪龍と少女の冒険録~  作者: なんちゃら竜
第二章 三大迷宮攻略編
49/140

49話 vsビーゼル


「狂震のビーゼル……」

「ネオン、何か知ってるの……?」

「今から9年くらい前かしら。アニマ国で大規模な暴動事件があったの。確かその暴動を起こした首班格の人間がそんな名前だった気が……」


 眉間に指をあてながらネオンが思い出すように話す。


「ですが彼は当時、五大天楼に就任したばかりのシリオ様とその時居合わせたアスピダ様にあっけなく倒され、王都の地下牢獄に閉じ込められていたのでは?」


 その話を補足するようにしてサントリナが声に出す。


「おいっ! 茶髪の女! その言い方は語弊がありまくりだぜ! 俺はシリオと熱い戦いをしていただけなんだよ! だというのに、そんな俺らの戦いにアスピダとかいうクソ野郎が水を差しやがったんだ!」

「へー。でも負けた事には変わりないんでしょ?」

「うぐ……最近のガキは生意気なんだな。へっ! まぁいいさ! どうせその復習もいずれは果たされる。すべては時間の問題なんだよ……」


 ビーゼルが顔を不敵な笑みを浮かべながら拳を握りしめる。

 

「それはそれとして、どうやって脱獄したのか知らないけど、罪人には牢屋に戻ってもらわないとね!」


 ビーゼルに対して、ネオンが大剣を指し向ける。


「おっと、俺様と殺る雰囲気のところ悪いがな、お前たちの相手は俺じゃなくて後ろにいるあいつだぜ~!」 


「ウルガァァァァ!」


 後ろでデスベアーの頭角マザーベアーが、再び雄叫びを上げる。

 突然現れたビーゼルと言う男に気を取られて一瞬忘れかけていたが、状況は最悪なままだった。

 マザーベアーは一度吠えると、地響きを起こしながらこちらにその歩みを進めていく。


「ほらほらぁ! 速く倒さないとお前たちが食われちまうぜ!」 


 今、何かを考えている余裕はない。ソティアはモーゼを構えマザーベアーの頭を捉える。


「ウガ……ウガウガ」

「デべ?」


 マザーベアーを打ち抜こうと引き金に手をかけた途端、デベがソティアの服の裾に噛みついて軽く引っ張る。


〈どうやらあいつに攻撃をしてほしくないようだ〉

「ど、どうして……」

〈デベにとってあれは群れのリーダーだ。大切な仲間なんだろう。デベはそんな彼女が傷つくのを見たくないんだ〉

「た、確かに……、それは……辛いよね……」


 仲間が傷つく姿を見ることがどれだけ辛い事か、それはソティアにも分かる。だが、マザーベアーは待ってはくれない。こうしている間にも、彼女はこちらへ向かってきている。デベの話では彼女は突然暴走を始めたと言っていた。何か暴走を止めることのできるきっかけでもあればいいのだが。


「ウルガアアアアア!!!」


「どうするソティア。このままだと流石にまずいわよ……!」


 ビーゼルに剣を向けたまま、ネオンがソティアに声をかける。


「カ、カフィー……」

〈……今はこれに賭けるしかないか。ソティア、マザーベア―と目を合わせろ〉

「分かった……!」


 カフィ―の指示通り、ソティアはすぐさまマザーベアーと目を合わせる。マザーベアーの目は狂気に満ちており、恐怖で顔を逸らしそうになってしまいそうなほどだった。


「残念だが、お前たちの冒険ごっこもここで終わりだな。あばよォ!」


「ウルガアアアアア!!!」


〈いくぞ、"インベイジョン"〉


 今すぐにでもソティアたちに向かって振り下ろされようとしていたマザーベアーの腕。その攻撃がピタリと止まる。

 

「……あ?」

 

「ウラァ……」


 ドシーン


 マザーベアーは次の瞬間、ソティアたちのすぐそばでぐったりと倒れ込む。


「カフィー、これって……」

〈ああ、上手くいったぞ〉


 マザーベアーは倒れた後、起き上がる気配もなくじっとしていた。


「ウガー! ウガウガ!」

〈安心しろ。気絶してるだけだ〉

「ウガ……? ウガ!」


 デベは倒れたマザーベアーに駆け寄り心配していたが、カフィーの話を聞いて落ち着いたようだ。


「おいおいおいおい! 何がどうなってんだ!?」

「あんたが思っている以上にこっちが一枚上手だったてことよ!」

「はぁ? くっそー。なんだってだよぉ、ありえねーよ、聞いてねーよぉー」


 予想外の出来事に動揺を隠しきれないようで、ビーゼルは地面を蹴り始める。雑草がくしゃくしゃに踏みつぶされ、小さな砂埃が舞った。


「これで敵はあの人だけになりましたね。早いところケリをつけましょう」

「そうね、みんなで一気に叩きましょ!!」

 

 ネオンとサントリナが武器をそれぞれ武器を構えてビーゼルに威嚇を行う。皆の言う通りここは一気に攻撃を仕掛けた方がよさそうだった。あのビーゼルと言う男からソティアは異様な気配を感じるのだ。


「ハハハ! まぁいいさ! 所詮あいつはお前たちの実力を測るだけの道具に過ぎない。予想外ではあったが、俺にとっちゃ問題にもならねぇ」


 ビーゼルは自分に喝を入れるように腿を手で叩くと、外套の裏に隠していた音叉を取り出す。その音叉を中指の爪ではじき周囲に鈍い音を鳴らした。

 

「何のつもり?」

「へへへ……」


 ネオンの問いかけに、ビーゼルはただ笑うのみだった。


「気味が悪いですね……"フレイム・バレット"!!」


「おっと~」


 サントリナの炎弾をビーゼルはさらりと避ける。

 その足取りはあまりにも軽やかだった。


「私があいつと前を張るから横から援護をお願いできる?」

「わ、分かった……!」

「ええ」

「お願いするわ! はぁぁぁ!」


 ネオンは大剣で地面を斬りつけながらビーゼルに接近する。その勢いを保ったまま大剣をビーゼルに向かって振り上げる。

 しかしビーゼルも攻撃をくらうつもりは一切ないらしく、ネオンの大剣を手に持っていた音叉で固定しガードする。


「おお~?」

「くっ!」


 ネオンが攻撃を防がれ、じりじりとビーゼルに詰め寄られている。狙うなら今しかないはずだ。


「"バースト"!」

〈いや! 待つんだソティア!〉

「カフィー?」


 発動しようとしていたイデアをカフィーに突然、止められてしまう。


「このままだとネオンが!」

〈あいつ、ネオンを盾にして俺たちの攻撃を防ぐつもりだ〉

「えっ……!」


「んんー? 攻撃してこなかったか。結構勘が良いんだな、お前の仲間はよぉ?」

 

 ビーゼルがにやけながら音叉で挟んだ大剣をグラグラと揺さぶる。


「ええ、そうよ……。こんなところであんたみたいな奴に負けるつもりがないからねッ!」


 腕を力づくで動かし、ネオンは音叉に挟められていた大剣を引き抜く。そして再びビーゼルに攻撃を開始した。


「ハハハ! すげーじゃねぇか! 熱いねぇ~!」

「たぁぁぁ!」


 ネオンとビーゼルの激しい攻防が始まった。何度も何度も互いの武器で攻撃、防御を繰り返し、激しく打ち付け合う。ビーゼルの武器があの音叉のせいなのか、ぶつかり合うたびに鈍い音が鳴り響く。

 あまりに激しい動きにソティアもサントリナもなかなか狙いを定められずにいた。




「お前はそこの奴らと違ってイデアの使い手じゃないみたいだな! その身一つでよくやるぜ!」

「褒めてるつもり? 随分余裕があるのね?」

「なぁに、正直な感想を言っただけだ! でもよ、俺たち教団はお前のような非イデア覚醒者たちの味方でもあるんだぜ?」

「は?」


 ビーゼルが突然、妙なことを話し始める。


「お前は知っているか? ここ十数年の間でイデア覚醒者が異常に増えていることに」

「それは薄々感じていたわ。でもそれが何だって言うのよ……」


 近年イデアに目覚める者が増えていることについてネオンはなんとなく分かっていた。以前のナルシスのようなSランク冒険者の増加。そしてソティアやサントリナなどの若い世代におけるイデアの覚醒率の上昇。ソティアに関してはかなりイレギュラーではあるが、それでもイデアを使う一人の覚醒者に他ならない。

 だが、それだけの事でもある。今この状況とこのビーゼルが話している内容の意図がネオンには理解できなかった。


「今はまだイデア覚醒者の数が非覚醒者の人間よりも少ないからいいだろう。だが今後、イデア覚醒者が非覚醒者の数を上回った時、お前のような非覚醒者は一体どうなると思うよ?」 

「どうって……?」

「奴隷としてごみのように扱われて、死んでいくだけだよ!」


 吐き捨てるようにして、ビーゼルが叫ぶ。その様子には今この状況ではなく別の事に対しての怒りが垣間見えた。


「非覚醒者が少数派になる。これはつまり非覚醒者の人権そのものがなくなることに他ならねぇ。ふさわしくないものが力を持てば、先に見える未来は破滅だけだ。その時お前がどうなっているか、仲間がいつ裏切りるかなんて分かったもんじゃねぇ」

「………」

「理解したか? 自分の立場を。分かったならお前もこっちにこい。お前の実力を俺は買ってやるよ」


 ビーゼルは音叉を持つ腕を下ろし、片方の腕でネオンに握手を求める。


「……断るわ」

「あぁ?」

「あんたは一つ勘違いしてるわ。私の仲間が裏切るって? そんなの分かりきってるじゃない。だって、そんなこと絶体にあり得ないんだもの!」


 大剣を握りしめ、振りかぶる。


「それに人を躊躇なく殺そうとしたり、命を道具扱いするような人を信用するなんて、無理のある話だわ!」


 そしてビーゼルを叩き切るようにして、力の限り体験を振り下ろす。

 しかし、


「あーあ、そうかよ。そりゃ残念だ」


 ビーゼルはネオンの攻撃を容易く受け止める。


「じゃあもういいか、お遊びはこのあたりで。俺も今は組織に身を置く者。仕事を最優先としようか」


「ネオンさん!」


 ビーゼルが再び音叉に指をあてようとした時、サントリナがとっさに前に出てビーゼルに至近距離から攻撃を仕掛けようとする。


「遅い。震わせろ"レゾナンス"!」

 

 サントリナが攻撃を仕掛けるまもなく、ビーゼルは音叉を人差し指ではじく。その瞬間だった――。


 音叉をはじくと、ビーゼルは目にもとまらぬ速さでサントリナの攻撃を躱し、そのまま足の脛で蹴りを入れる。そしてすかさずネオンの頭を掴んで、サントリナを蹴飛ばした方向へと勢いよく放り投げた。


「かはぁっ!」


「二人とも!」


 ネオンとサントリナはビーゼルの攻撃により奥にある神木に衝突してしまう。


「お、お二方! 大丈夫なのですか!」

「おいプチッチ! 余計なマネをするなァ!」

「きゃあああ!」


 負傷した二人の場所へプチッチが駆け寄ろうとする。だが、ビーゼルの瞬間移動じみた凄まじい挙動に対処することも叶わず、プチッチも小石を蹴るかのように飛ばされてしまう。




「み、みんなが……」

〈あいつが音叉を指ではじいた途端、あいつの中の源力量が何百倍にも膨れ上がった……。イデアか〉


「後はお前だけか? へへ、安心しろ! 全員仲良く、だ」

 

 負傷し動けなくなったネオンたちを確認すると、ビーゼルはソティアに視線を向ける。そしてその姿をフッと消した。


〈……ソティア、後ろだ!〉

「! "バースト"!!」


 カフィーの声を聞いて迷わず後方に手をかざす。そして確認する間もなく攻撃を放った。


「うおっ……!」


 ソティアのとっさの攻撃はビーゼルも予想外だったのか、驚いたように攻撃を大げさに退いて躱す。


〈避けたか……〉


「ハハハハッ! やはりお前は他とは何かが違うようだな!」

 

 ビーゼルは体勢を立て直すと、再びソティアに狙いをつける。


〈気をつけろソティア。分かりきっていることではあるが、こいつ、相当強いぞ……〉

「はぁ……はぁ……」


 先ほどのネオンとサントリナの光景が浮かび上がる。目の前の脅威に対峙しソティアの動悸が激しくなっていく。


 邪龍崇拝教団を名乗るビーゼルと、ソティア・カフィーの戦いが始まった。

 

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