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イータークラウン ~邪龍と少女の冒険録~  作者: なんちゃら竜
第二章 三大迷宮攻略編
40/140

40話 ex淵底

 

「オォ! これはこれは皆さん揃いも揃ってごきげんよウ。本日はお日柄も良く、我々がこうして話し合う場としてはもってこいですネ!」


 この世界のどこかにある場所。その部屋の天井には小さな源力光源が1つ設置されているだけで、薄暗い。外部からは誰も発見できることができない秘匿されたこの場所にて、誰かが声を出した。


 しかし、その声を出した者は人間ではない。全身を黒く覆われた甲殻に、人間のような体格。額からねじれたように伸びた2本の角。そして薄暗い広間の中で一際目出す赤い目。彼は、この世界で言うところの人型イーターだった。そんな彼の風貌はさながら漆黒の騎士のようである。


 そんな黒い人型イーターの周りを囲むようにして、真っ黒な外套に身を包んだ者たちが30名ほどいた。ここにいる者は全員、黒い仮面で素顔を隠している。


「おい、エレボス。今は夜だ。日なんて出てないぞ。それにそんな前置きはどうでもいい」


 そこに、仮面をかぶった青髪の男が苛立ったように言い放つ。

 

「オゥ……、つれないですネ。でも私、最初ここに来た時、本当に驚いたんですヨ? 知らない結界があったので壊したら、同胞が皆殺されていたんですかラ。だから私、皆さんに会えてうれしかったでス!」


 エレボスという名の人型イーターは手を大きく広げて喜びを表現する。


「……俺たちはお前にあえても何も嬉しくはない。俺たちが求めているものはただ1つだけだからな」

「ンー、酷い言われようですネ……。私とても悲しいでス。私があなた方の立場でしたら、ここはもっと温かく歓迎するところですヨ?」


 エレボスはそう言うと、手のひらを上にしてやれやれといった仕草をする。


「ところで、えーっと、計画の方は順調そうですカ?」


 エレボスが先ほどの青髪の仮面の男に話しかける。


「それか。実は研究用の奴隷の供給がここ最近途絶え気味でな。予定より少し遅れそうだ。しかし、なんでもお前のお仲間がそのための駒を殺したって話だが?」

「おゥ、それはきっとギャギちゃんの仕業ですネ。本当にすみませン。あの子は頭が弱く、教えたことをちゃんと守れないところがありましテ」


 その男にぺこぺこと頭を下げながらエレボスは謝る。


「ちっ、もういい。で、本題だがあの話は本当なんだろうな?」

 

 青髪の男は仮面の裏からエレボスを見据えて問う。


「えぇ、本当ですヨ。ただ私が認められるのはあくまで参加する許可を渡すところまででス。イータークラウンは本来、彼が持つべきものだったのですかラ」 

「何だと!?」


 エレボスがそこまで言うと、突然後ろの席に座っていた1人の男が声を荒げる。


「どうかしましたカ?」

「どうもこうもねぇ! 俺はそれが確実に貰えるって聞いたからここまで協力してきてやったんだ! なのに命を懸けてもらえる報酬が参加の権利までだと!? ふざけてんのか!」


 その男も仮面をかぶっているため表情は見えなかったが、声と態度からして、かなり激怒していることが分かる。


「それは悲しいですネ。そう言えばあなたはここまで、病気の妻と子供を置いてはるばるやってきたそうですネ。なんともいたたまれなイ……。こうして悲劇は繰り返されてしまうのですネ。私、涙が止まりませン」


 何一つ流れていない顔の表面をエレボスは腕で擦り始める。それはただの人間のまねごとのようであった。それを見た男は、さらに怒りの感情を高めていく。


「……お前らイーターがここじゃどういう扱いされてるか知ってか? お前らは魔法兵器のいい材料なんだぜ」

「おヤ? そうなんですカ?」

「そうなんだよ! なぁお前、見たところかなり上質そうな見た目じゃないか。そんな訳の分からないものを追い求めるより、ここでお前を殺して素材を売った方がよっぽど儲かると思わないか?」


 男はコートの裏に隠していたナイフを取り出す。


「おい、やめろ」


 青髪の男は、ナイフを持って息を荒げている男を呼び止める。


「黙れ! 予定変更だ!」

 

 男が叫ぶと、周りに座っていた者達の内数十名が立ち上がる。そして魔法兵器を取り出し、エレボスに向けた。


「チッ」

「これはこれは、内部崩壊というやつですかネ……」


 エレボスは手を上げて自分に敵意が無いことを示す。


「どうか皆さん落ち着いテ。私たちは仲間ですヨ? ここは争いではなく、平和的解決ヲ……」

「うるせぇ!! そもそもイーターなんて気持ち悪い奴と仲良くする方がどうかしてる! 殺せ!!」


 席を立ちあがった者たちは男の合図を受けると、エレボスに向けて一斉に攻撃を開始した。


 エレボスは最後まで抵抗しようとしなかったが、彼らは容赦なくエレボスに攻撃を続ける。一斉攻撃はさらに激化し、彼らの集まっていた広間は崩壊していった。


「そこまででいい。あんまりやりすぎると、素材が取れなくなる」


 指示により一斉攻撃が止まる。落ち着いたのを見計らって、指示を出した男がエレボスの近くへ移動する。

 

「イーターの分際で人間ぶりやがって……言葉を話すな気持ち悪い。まぁ素材が手に入ればそれで……、は?」


 男はランタンを取り出し、エレボスの死体を確認しようとする。だが、見えたものは死体ではなく、黒煙の中で輝く赤い光だった。


「満足いただけましたカ? では、一度落ち着いて……」

「生きてるだと!? もう一度だ! 奴を撃て!」

 

 男はエレボスから一度離れると攻撃の指示を出す。そして再び、黒煙の中に見える赤い光を狙って銃撃が放たれた。

 

「馬鹿どもが……」


 青髪の男は呆れたようにしてそれを見ている。そして他にも数名、それを黙って見守っている者たちがいた。なぜなら彼らは知っていたからだ。ここにいる全員が束になってもアレには敵わないことを。


「な、何故だ……。これだけの攻撃を喰らってなぜ死なない!?」

「最後の警告でス。大人しくしなさイ。でなければ……」

「奴の声に耳を貸すなァ! 撃てェ!」


 男はナイフをエレボスに突き立て、大声で叫ぶ。だが、彼らに次の攻撃の機会は訪れなかった。


「"インベイジョン"」


 エレボスが唱えると、外で雷が発生した。雷が広間を揺らし、暗がりの広間を照らす。その時だった。エレボスに対して魔法兵器を構えていた者全員が、その場で頭を抱えてうずくまった。


「な、何が起きたんだ……」


 エレボスの正面に立っていた男は、辺りを驚いたように見渡す。自分の仲間たちが全員武器を投げ捨て、怯えているのだ。


「何をしている! 早く目の前の化け物を殺せ!」

 

 男は周りの者たちに必死に呼びかける。しかし、誰も先ほどのように指示を聞いてはくれなかった。


「彼らにはもう戦意がありませン。何を言っても、無駄ですヨ」


 エレボスが男の前に歩み寄って行く。


「お、おい……何をする気だ……?」

「私、秩序を乱す人は嫌いなんでス」


 エレボスが男に手を伸ばす。


「す、すまん! 俺が悪かった! だから、だからッ! 命だけは!」


 何をされるのか察したのか、男はエレボスの前で手を合わせて命乞い始める。


「残念ですが、私一度嫌いになった人はもうずっと嫌いなんですよネ。

 "アビス"」


 その場から逃げようとする男の頭をエレボスが掴む。そしてそのまま男を頭から腕の中へと吸収していく。


「ああ……うわあああああああ!」


 男は恐怖に怯え、泣き喚く。体をジタバタとさせるがもはや意味など無かった。男はあっという間にエレボスの中へと飲み込まれていってしまった。


「いやあああ!」

「ひっ、ひいいいいいい!」


 それを見た男の仲間たちが次からへとエレボスから逃げるようにして散って行ってしまう。


「おい、あいつらは放っておいていいのか?」

「構いませン。彼らもそのうち恐怖に飲まれて自殺してしまうでしょうかラ。そうなった時はあの子たちの餌にしてあげてくださイ」


 青髪の男の質問に、エレボスは淡々と答える。そして静まり返った広間を一瞥した。

 

「残ったのは11名だけですカ。随分と減ってしまいましたが、大丈夫そうですかネ?」

「別に構わん。もとは俺1人でもやり遂げるつもりだった」

「フフフ、そうですカ。では、後はよろしくお願いしますネ。精々人として頑張ってください、期待していますヨ。タルタロスの淵底に終わりのないことを……」


 エレボスはそう言うと暗闇に紛れ、忽然と姿を消してしまった。それはまるで嵐が去った後のようであった。周囲に張り詰めていた緊張感のようなものがほどけていく。


「やぁリーダー。さっきまで騒がしかったようだけど……何かあったのかい?」


 エレボスが去った後すぐに、新たに1人の男がこの広間に現れた。


「サキアか。なに、バカという名の人口が減っただけだ、気にするな。それよりお前は今まで何をしていた? あれからまたどこかへ出かけていたようだが」

「いや、まぁちょっとね。面白いものを見つけて観察してただけだよ」

「……そうか。だがこれからは忙しくなる。のんびりはしていられないぞ」


 青髪の仮面男はそう言うと立ち上がり、エレボスのいた広間の中心点に立つ。


「俺たちの目的はただ1つ。この世界を混沌に陥れ、万物の頂点たる証、イータークラウンの所持者になることだ。いいか、これは人類のためだと知れ。俺は人間だ! 人間のために戦っている。そのための犠牲など、取るに足らない!」


 彼は腕を掲げた。そしてこの場に残った12名の者たちに語り掛ける。


「俺はあなたについていくと決めた。今更迷いはない」


「ウヒヒ、イーターってやっぱりすごいなぁ~。もっとあの方を近くで見させて欲しいくらいだ!」


「……ええ」


「俺たちは無敵なのさー! あのアスピダだって敵じゃねー!!」


 青髪の男の声に、周りの者たちが思い思いの反応を見せる。


「よし、まずは来る大襲来に備えての準備だ。それからできる限り邪龍の魂の結晶の在りかについて調べろ。あれは誰の手にもわたってはならないからな」


 青髪の男はそこまで言うと、広間の中央から離れる。そして最後にこう言った。


「我らタルタロスの淵底に終わりのないことを……」


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