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イータークラウン ~邪龍と少女の冒険録~  作者: なんちゃら竜
第一章 邪龍と少女
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30話 合体奥義


「デベ! 助けに来てくれたのね!」

「ウガ!」


 ネオンはデベを見て安心したのか、すぐさまデベに抱き着いていった。

 そう。ソティアではなく、カフィーは戦いの最中に、デベをこちらに向かうよう知らせていた。


 デベは以前、カフィーの力によって支配下に置かれた。カフィーはその力で支配下に置いた者と常に連絡を取ることができるのだ。こうして自身の新たなる主の危険を察知したデベは迷宮の森を抜け出し、ここまで駆けつけてきたという訳だ。


 ここは迷宮の森近くにある場所ということは知っていた。そのためか、デべがここまで来るのに時間はそうかからなかった。


「さっきこれで終わりにするとか言ってたな? ククク。望み通り、終わりにしてやる」

「グギギ、ムカツク」


 人型は怒りで体をワナワナと震わせている。デベがカフィーの前に立ち、人型イーターを威嚇して近づけさせないようにしている。


 おそらくこれが、こいつとの最後の戦いになるだろう。

 カフィーはその小さな体に、力を溜める。


「ソ、ソティア……じゃ、なくて……」

「ん? カフィーでいい」

「カフィー……?」

「ソティアは俺のことをそう呼ぶ」


 カフィーはネオンにそう伝える。


「じゃあソティアもあなたのことは……?」

「当然知っている。俺たちはずっと共にいた。時折裏で話を合わせていたりもな」 

「そうだったのね……」


 ネオンはカフィーの言葉にどこか納得しているような反応だった。


「それで……、あいつは倒せるの……?」

「さっきまでは分からなかったが、デベがいればまた話も変わってくる。そして今、あいつを倒す方法も思いついた」

「本当!?」 

「ああ、そこでだ。ネオン、サントリナ。お前たちの力を貸してくれ」

「わ、私もですか……!?」


 いきなり会話に加えられ、サントリナの体がピクッと跳ねる。


「あ? 当然だろうよ」

「し、しかし……私にあの化け物の相手など……」


 サントリナは人型に完全に怯えている。どうやら人型に相当なトラウマを植え付けられてしまったらしい。

 

「安心しろ、俺たち全員でだ」

「私たち……全員で……」

「そうだ」

「……分かりました。今ここであれ打ち破ることができるなら、何でも強力します!」


 そう言うと、サントリナの目の色が変わった。

 どうやら決心はついたようだった。


 そしてカフィーはネオンたちに作戦を伝える。

 

「合体技?」

「そうだ、今の俺ではかつての力の半分にも満たない。今の俺たちがあいつに致命の一撃を食らわせるはこれしかないだろう」

「でもそれをどうやって、素早いあいつに与えればいいのですか?」


 サントリナの言う通り、人型はかなり素早い。

 最初は相手も油断していたため攻撃を当てることができていたが、次も上手くいくとは限らないだろう。


「確かにそうだな。だから俺とデベ、サントリナであいつの動きを制限する。そして決め手はネオン、お前に任せた」

「私が、あいつを……」

「そうだ。俺たちのイデアをその剣に乗せる。それであいつの心臓をぶった切れ!」


 イーターの弱点は心臓だ。心臓さえ破壊できればやつらは消滅する。逆に心臓さえあれば、何でも蘇ってしまうが。


「……分かったわ! 必ずあいつをぶった切ってやる!」

 

 ネオンは手のひらに拳を合わせて気合を入れる。これが彼女のやる気の出し方なのだろう。


「よし、それでいい。じゃあ、行くぞ」

「「了解!」」


 作戦を伝えたところで、人型の方を振り向く。デベと人型が激しく戦闘をしている最中だった。人型の丸い拳が、デベの爪先と何度もぶつかり合う。これまでにいくらか人型にダメージを与えてはいたが、それでもデベが少々押され気味だった。


 イーターは戦いの中で疲弊してはいるものの、それでもまだデベを圧倒するだけの力は残っていた。早く助けてやらないと、デベもやられてしまう。


 カフィーは人型の後ろに回り込んで両腕を掴む。そして人型の腕を完全にロックした。


「今だ!」

「"フレイム・バレット"!」


 動きを封じた人型の胸元にサントリナが炎の弾丸を打ち込む。だがしかし、人型の外殻は頑丈で、胸元に火傷の跡がつくだけだった。


「グギギ、"ショック・ボルト"!!」

「む!」


 人型は拘束を解くため電気を体中から放電する。カフィーは相手の動きをとっさに見て攻撃を受ける前にその場から離れた。


「それは、ナルシス様の……!」

「どうした?」

「あの力はナルシス様のイデアのはずなんです!」

「なに? ちなみにそのナルシスってやつは?」

「あのイーターに殺されました……」

「そうか……そういうことだったか」

 

 サントリナの話を聞いて人型がイデアを使う理由が分かった。どうやら、あの人型は既にイデア覚醒者を食ったらしい。となると、やはりこの戦いは少し面倒になる。早めにけりをつけなければ。

 

「サントリナ、一度ネオンのいる場所で待機してくれ」

「分かりました」


 カフィーがそう言うと、サントリナはその場から退いていく。


「デベ、行くぞ」

「ウガ」


 ここは一度、自身とデベで限界まで人型の体力を削った方がいいだろうと判断した。カフィーとデベは2手に分かれていく。そして左右から人型に対して打撃による波状攻撃を仕掛けた。

 

「ウガ!」

「ギギッ!」


 デベのビンタがイーターの顔面を殴打する。その瞬間、イーターの体がふらつく。カフィーはその隙を見逃さなかった。

 

「どうした、体がふらついてるぞ? "バースト"」


 イーターの火傷している胸部に手を当てる。その手の中から赤く輝く源力弾を生成し、破裂させた。

 破裂の勢いで、イーターは近くの斜面に衝突する。


「グガガ、ギゴ……」

「ウガァ!」


 窪みの斜面にめり込んだ人型が再び体を起こそうとするが、デベがその手足を抑え込んでいく。やるなら今しかないだろう。


「サントリナ! ネオン! 今がチャンスだ、やるぞ!」

「オッケー!」「分かりました!」


 カフィーの合図で隣に、ネオンとサントリナが並ぶ。そしてネオンが大剣を持って目の前にかざした。


「今からお前の剣にイデアを乗せる、その剣であいつの心臓目掛けて振りかざしてやれ」

「分かったわ! まかせて!」


 カフィーの言葉にネオンが強く頷く。気合は十分といった具合だ。イデアを扱う際、心の状態というのは最も重要になる。この様子なら大丈夫だろう。


「よし、では始めるぞ。サントリナ!」

「は、はい!」


 カフィーとサントリナの手が刀身に触れる。そして、自分たちの源力をイデアとして刀身に乗せていく。すると、ネオンの大剣がみるみるうちに赤く輝き始めた。


「わぁ……凄い……!」

「もう少しだ……」


 あと少しで、あの人型を葬り去れることができる。

 このまま順調にいけば、必ずあいつを倒せる。


「イヒ」

「ウガ?」

「イヒヒヒヒヒ」


 その時人型イーターが突然、笑い出す。


「こいつッ、まさか!」 


 カフィーは直ぐに理解した。この人型が良からぬことを考えていることに。間違いない、あの攻撃がくる。とっさに判断したカフィーは、刀身に力を込める作業を一時中断する。


「ど、どうしたの?」

「まずいな……、一旦洞窟に戻るぞ!」


 カフィーはネオンとサントリナの手を引き、洞窟の中へと連れて行こうとする。


「ヒエエエエエエエエエエエ!」


 人型があの時と同じ叫び声を上げる。


「アエオォォォォォォォォォン……」


 その声に共鳴するように、あの巨大イーターも再び天に向かって咆哮する。そしてその長い首をこちらに振り向けた。


「急にどうしたのよ!?」

「だから、まずいのがくるんだよ。ここにいると全員死ぬぞ?」

「そうなの!?」

「ああ、そうだ。おい、デベ! お前も一度そこから離れろ!」


 カフィーはデベにも声をかける。しかし、デベは人型の体を抑えたまま、一向に離れようとしなかった。


「何をやっている? 離れろと言っているんだ! 死ぬぞ!」

「ウガ」


 カフィーはもう一度デベに呼びかけるが、それでもデベは離れようとしない。返事をしているため、聞こえていない訳ではないはずだが。

 

「お前まさか……」

「ウガ」


 デベはここで人型イーターと共に死ぬつもりだ。おそらくデベはあの巨大イーターの砲撃を近くから見ていた。あの砲撃に直撃すれば、流石の人型イーターでも確実に消滅するだろう。デベはここで自分諸共、人型を道ずれにしようとか考えているのだ。


「クソッ! お前馬鹿だぞ! そこまでする必要……」

「ウガ!」


 キィィィ……


 巨大イーターの口に源力が集まっていく。狙いは間違いなくこちらのいる方向だった。次の瞬間にはビームが放たれ、周囲を消し飛ばすだろう。


 

 そう思った時には既にカフィーは洞窟から飛びだしていた。そして巨大イーターの方に向かってその両手を差し向ける。

 

「ウガ!?」

「勘違いするなよ、お前が死んだらソティアが悲しむから仕方なくだ!」

 

 あの時は不意を突かれたが、次は違う。巨大イーターの砲撃を完全に迎え撃つ態勢を取っている。ソティアの体は既に限界を超えているが、あともう少しだけ耐えてくれと願うばかりだ。


「シネ」


「アエエエエエエエエオオオオオオオオオ」


 巨大イーターの口から強力無比な源力砲が放たれる――

 


 ――かに思われた。


「んッ……!? 何が起きているんだ?」


 カフィーの目にはあり得ない出来事が映っていた。あの巨大イーターが宙を舞っていたのだ。体をひねらせ、背と腹が反対になっている。あの巨大イーターが飛んだという訳ではなさそうだった。あれは間違いなく、何者かに打ち上げられている。


 跳ね上がった巨大ーターはそのまま地面へと真っ逆さまに落ちていく。


 ズドォォォォォォン!


 巨大イーターの落下した衝撃で、全員の体が宙にフワッと跳ね上がる。


「ナ、ナニ!?」


 この事態は予想外だったのか、人型は動揺している。

 

 さすがのカフィーも驚きはした。たが、それでも確かなのは、こちらにとってまたとないチャンスだということ。ケリをつけるなら今しかない。


「ネオン! サントリナ! やるぞ! これが本当の最後だ!」

「……ええっ! 分かったわ!」


 打ち上げられた巨大イーターを見てネオンたちもキョトンとした顔をしていたが、カフィーの呼びかけにハッと我に返る。そして再び集まり、大剣に力を込めていく。


 大剣はより赤くより強く光を放ち、その周囲を炎が包んでいく。


「ギギ。ナンダ、アレハ! キイテナイ! シラナイ! ユルサレナイ!」


 人型イーターは体をバタバタと動かし、文句を垂れていた。しかし、その体はデベにより固く抑え込まれている。デベを払いのけるため、人型は度々電撃をデベに浴びせが、それでもデベは微動だにしなかった。


 デベはおそらく我慢している。これ以上無理はさせられない。決着を早くつけなければ。


「今だ!」

 

 カフィーの合図でネオンが走り出す。 


「ウーガッ!」


 デベは人型の頭を鷲掴みにすると、ネオンの方向へと投げ飛ばした。


「ギギッ! ヤメロッ! ヤメロォォォォ!!」


「はああああああああ!!」


 投げ飛ばされた人型目掛けてネオンが飛び上がる。

 

「まったく、随分と手間取らせやがって……。だが、これで終わりだ」


 カフィー、ネオン、サントリナ、そしてデベ。

 全員の力が合わさった合体技、これぞ究極の奥義。



『 合体奥義!! "フレイム・バースト・スラッシュ"!!!! 』

 

 

 大剣は周囲に火花を散らし、太陽のような輝きを放つ。

 人型はとっさに腕を交差し、剣撃を受け止める。

 だが、その抵抗は何の意味もなさなかった。

 輝く刀身はその腕を容易く切り裂き、そのまま胸部に直撃、そしてその胸部さえも切断する。


 ネオンは力の限りその大剣を振り下ろし、イーターの心臓をぶった切った。



「ギギギ!! ギギャアアアアアアアアアア!!!!」



 人型イーターは断末魔の叫び声を上げ、爆散する。

 爆発した中心点はまるで第二の太陽のように、神々しく輝いていたのだった。



「終わったんですか……?」


 サントリナがまだ不安の残ったような声で呟く。


「ああ。あいつの生命反応が消えた。これで脅威は去っただろう」


 カフィーはそう言って、下ろしていた腰を上げる。


「ソティア……じゃなくてカフィー? どこに行く気なの?」

「決まっているだろ、イーターの巣を潰しに行くんだ」


 ネオンに呼び止められる。カフィーは自分のやろうとしていることについて、さりげなく答えた。

 しかし、歩く途中で足元がおぼつかなくなる。


「おっと……」

「もうこれ以上戦う必要なんてないわ……、あなたはもう十分に戦った」


 ふらついたカフィーはネオンに肩を持って支えられる。

 

「だが作戦がまだ……」

「いや、作戦は中止になったわ。それより後の事は連盟に任せて、私たちは一度帰るべきよ」


 ネオンがカフィーに目覚める前に起きた出来事を伝えてくる。どうやら巨大イーターの出現により既に作戦は中断されていた様だった。おそらくあの巨大イーターを討伐することに作戦を変更したのだろう。流石にあの巨体を野放しにするわけにはいかないだろうから。


「それに……あなたから色々と、話を聞かせて欲しいところだし?」


 そう言ってネオンが疑るような視線を向けてくる。まだカフィーのことを完全には信頼してはいないみたいだ。そういえば、人型との戦いですっかり忘れていたが、カフィーはまだ事の経緯を話していなかった。


「だぁ~、そうだった。仕方ない、話してやるとするか。ただ……」

「ただ?」

「まずはソティアの体を手当てしてからでいいか?」


 体のあちこちにできた怪我をみる。今はカフィーの力でどうにか耐えているが、正直ソティアの体は限界も限界、瀕死の状態に近かった。


「ほ、ほんとだわ! このままじゃ大変! 一刻も早く王都に戻らないと!!」


 こうしてカフィーたちは他の仲間たちと共に、一度王都へと帰還するのだった。


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