17話 作戦に向けて
初めての依頼を達成して以降、2週間が過ぎようとしていた。
これまでソティアはカフィーと共に、ネオンやデベと協力しながら冒険者連盟の依頼をこなしていた。
冒険者連盟の階級制度にはポイントがあるようで、自身のランクにあった依頼をこなすことでポイントが溜まっていく仕様だった。
その集めたポイントが一定の値に達すると昇格することができる。
正確には
Eランク~Dランク 100ポイント
Dランク~Cランク 1000ポイント
Dランク~Bランク 5000ポイント
Bランク~Aランク 10000ポイント
Aランク~Sランク 100000ポイント あるいは
偉業の達成、五大天楼の承認のいづれか
といった具合になる。
ソティア達は現在50ポイントを取得していた。
採取依頼では指定場所の危険度にもよるが、大体平均5ポイント程度だった。
そのため採取依頼をこなしながら、王都近辺に現れるイーター討伐も行っていた。
イーター討伐ではネオンが非常に活躍している。
星の低いイーターであればネオン1人でほとんど片付いてしまっていた。
彼女の実力は既にBランク、あるいはAランクにまで至るほどなのではないだろうか。
ソティアはと言うと、カフィーの力が凄まじく人前であの力を使うにはそれ相応のリスクが伴ってしまい、そこまで活躍できずにいた。
威力が強力なため周囲の人間を巻き込んでしまう恐れがあるのだ。
冒険者として昇格する前に、誰かを間違えて殺めてしまうとなってはいけない。
そんなことをしてしまってはおそらく王都の地下牢獄に幽閉されてしまうだろう。
カフィー自身も威力の制御が難しいというため、この問題に対しての対応策を何か考えなければならないだろう。
いつまでもネオンに頼ってばかりではいられないのだ。
当面の目的は、Dランク冒険者を目指すために必要なランクポイントを稼ぐこと。
さらにはソティア自身も戦えるように強くなることだ。
そして現在、ソティア達は迷宮の森近くの人気のない場所に集まっていた。
理由はソティア、ネオン、デベの3人で特訓を行うためだ。
デスベアーと仲良く特訓している現場を他人に見られるとよからぬ誤解を招く可能性もある。
そのためには人気のない場所で行う必要があったのだ。
デベはさすがに強力なモンスターと言われるだけあって、模擬戦闘を行うには最適の相手だった。
ソティア達は特訓の合間に休憩を挟んでいた。
「イーターの殲滅作戦……?」
「そう! 何でも近々、冒険者連盟が多くの冒険者を集ってイーターの根城を徹底的に殲滅するらしいわよ」
ネオンの話によると、どうやら近々イーターが数を増やしているらしい。
そのため冒険者連盟が軍と協力して、イーターの巣窟を殲滅を行う作戦を決行する方針を立てたという。
そこにはSランクからEランクまでの全ての冒険者が参加することができるという話だった。
ソティア達は今、それに参加するかどうかで話し合っていた。
「でもイーターがたくさんいるところに向かうんだよね? それってかなり危険なんじゃ……?」
「私たちEランクなんだしそこまで危険な所にはいかないんじゃない? それに、今回参加した者達には50ポイントが貰えるらしいわ。
しかも、倒したイーターの数だけポイントも加算されていくって話よ」
ソティアの疑問にネオンが話を付け加える。
〈そいつはいいな。この作戦に参加するだけでDランク昇格は確定だ。
さらにポイントを多く稼いでいくチャンスにもなる。この機会を逃すのはもったいないぞ〉
カフィーは参加する気満々と言った様子だ。
「うーん、皆がそう言うなら……」
「皆?」
ソティアの発言にネオンが首を傾げる。
「ああっ……! 違うの! えっと、そう! デベもそう思うよね!!」
「ウガ?」
デベに視線で合図を送る。
「ウ! ウガウガ!!」
デベはソティアの考えを察したようで、激しく首を縦に振った。
「あれ、デベも作戦に参加したいの? でもあなたはさすがに厳しいんじゃない? ほら……いろいろと、ねぇ……?」
「ウガ……」
「そ、そっかー。それは残念……」
デベとソティアは俯いて悲しそうな素振りをする。
とりあえず疑いを晴らすことはできそうだった。
カフィーの存在をほのめかすような話は、控えるようにしなければならない。
〈何やってんだ……〉
(ごめんなさい……)
カフィーはやれやれ、といった口調だった。
「それじゃあまぁ、私たちも参加するって言う話でオッケー?」
「うん。出来る限り頑張ってみるよ」
「そうこなくっちゃね! ソティアなら絶対大丈夫だから!」
ネオンはソティア以上にソティアの力を信用してるようだった。
デスベアーを従えるというのは、それほどのポテンシャルがあるということなのだろうか。
「そうと決まれば、特訓の続きね!」
「お願い……!」
休憩を終わりにし、再び特訓の続きをする。
最初は依頼の合間に行うだけのつもりだったが、今は新しい目標ができたためより真剣に取り組まなければならない。
特訓は昔ネオンが行っていたものを教えてもらっていた。
主な内容は剣術の稽古だったり、基本的な体力向上のための運動だったりだ。
近くに落ちている手頃な木の棒を拾って打ち付け合う。
「そこ!」
ネオンが木の棒を斜め上に振り上げる。
ソティアの持っていた棒切れがはじかれて、手から離れる。
棒切れは宙に舞い、ソティアの後方に落ちていった。
「剣術ならまだまだ私の方が上ね」
「うん……」
「まぁでもあんまり気にしないで! 私も最初は全然だったから!」
「あ、ありがとう……」
ネオンが転んだソティアに手を差し伸べる。
その手を掴んで起き上がった。
「そういえば、ネオンはどうして冒険者になろうと思ったの?」
「え? どうしたの急に?」
「ネオンが冒険者を目指す理由が気になって……」
「確かに、今思えば話してなかったわね……」
ネオンが近くの木の下に、座り込みもたれかかった。
ソティアもその隣に座り込む。
「最初に言っておくけど、そんなにいい話じゃないわよ?」
「いいよ、私にとってつまらない事なんてないから……」
「そう、じゃあどこから話そうかしら……」
ネオンが空を見上げて昔を思い出そうとする。
「あれは私がまだ……」
「ウガ!!」
ネオンが続きを話し出そうとした時、デベが吠えて話を中断させる。
「ど、どうしたの!?」
デベが突然吠えたため、ネオンが驚いて後ずさる。
「ウガ! ウガウガ!」
デベはソティアの袖を咥えて軽く引っ張る。
どこかに連れて行きたそうな雰囲気だった。
〈何か異変に気付いたようだぞ〉
「……分かった。行ってみよう」
「ウガ」
ソティアは立ち上がり、デベが向かっていく方向についていく。
「ちょ、ソティア? 何かあったの?」
「ネオンごめん……! 話は後でもいい?」
「しょうがないわね……! 急ぎましょう!」
ネオンはソティアの顔を見ると、何かを察したように起き上がる。
そして全員でデベの後を追っていった。
「ウガ!」
デベが途中で立ち止まる。
「あれは……」
〈イーターだな〉
ソティア達の目の前に、カマキリのような姿をしたイーターが現れた。
白い甲殻に覆われ、鋭い4本鎌の腕を持っていた。
「ソティア! ねぇ! あそこに!」
ネオンが指をさす。
そこには1人の小さい女の子がいた。
籠が隣に落ちており、中から薬草が飛び散っていた。
おそらく薬草を集めている最中に、イーターに狙われいたのだと考えられる。
カマキリ型のイーターは口元をモゴモゴと動かし、その女の子から視線を外そうとしない。
イーターに見つめられ、その子は恐怖で身動きを取れそうになかった。
「こうしちゃいられないよ……! 今すぐ助けないと!」
イーターは今すぐにでも女の子に襲い掛かりそうだった。
「おりゃあああ!!」
ネオンが手で握っていた大剣をイーターに狙いをつけて投擲する。
大剣は見事に女の子を切り裂こうとしていた一本の鎌を貫き、切断した。
「キュリイイイイ!」
イーターが突然の攻撃に苦しみだす。
「ネオン……!」
「ほんとは頭を狙ったつもりだったんだけど、この距離だとさすがに厳しいわね」
ネオンは肩を抑えて膝をつく。
先ほどの投擲で肩を痛めてしまったようだ。
〈今しかないな、デベ行け!〉
「ウガ!」
カフィーの声に反応し、デベがイーターめがけて走り出す。
そして女の子の前に守るような形で立ち上がる。
「私がデベの援護をするから、ネオンは女の子の保護をお願いッ……!」
「でもソティア、特訓で疲れて……」
「私は大丈夫! それにネオンは今手元に武器が無い。
だからここは私に任せてほしい……!」
「……分かったわ。気を付けてね、ソティア」
そう言うと、ネオンは女の子の元に駆けつけていった。
〈威勢がいいのは結構だが、本当に大丈夫なんだろうな?〉
「分かんない……。けどやるしかない!」
〈はぁ……仕方ないな。デベ、頼むぞ〉
「ウガ」
ソティアとデベが横に並び、イーターに対して相対する形で位置取る。
〈デベに隙を作らせる。その間にお前は相手の間合いに近づいてくれ〉
「うん!」
「ウガアア!」
デベが相手の攻撃をはじきつつ、詰め寄っていく。
「キュリイイ!」
デベの攻撃に押され、イーターはその場からじわじわと後ずさっていく。
「キュリッ!?」
イーターの体を支える4本の足の内、後ろ側の足元が地面のくぼみに入り込む。
その瞬間、イーターはバランスを崩してよろける。
「ウガアア!」
デベがその隙をついて体当たりをする。
突撃されたイーターは、たまらず後方に吹き飛んでしまう。
「よし、今だ。あいつに狙いを定めろ」
「分かった!」
ソティアは走り出し、イーターに近づく。
イーターは倒れた体を起こそうとしていた。
「そうはさせないッ……!」
ソティアはすぐさまイーターに向けて手をかざす。
「キュリイイイ!!!」
イーターはソティアの存在に気付くや否や、その鎌をソティアに向けて振りかざす。
〈残念だったな、 "バースト" 〉
カフィーが唱えると、手のひらで生成された赤い光が破裂する。
破裂した光は凄まじい衝撃はとなって、目の前のイーターを跡形もなく消し去り、破壊した。
「か、勝てた……」
ソティアは緊張がとけ、その場にガクリと膝から崩れ落ちる。
「ウガ」
デベがソティアの近くに歩み寄り、頬を舐める。
「デベもありがとう……。デベが気づかなかったら大変なことになってたよ」
「ウガ~!」
デベの頭に手を伸ばして撫でる。
頭を撫でるとデベはとてもうれしそうにしていた。
〈ふん、俺が従えているのだからこれくらいはしてもらわないとな〉
「カフィーもありがとう。これも全部カフィーのおかげだもんね」
〈べ、別に礼を言う必要はない。これくらい、俺にとっては国ひとつ滅ぼすくらい簡単なことだ〉
「た、例えが物騒だよ……」
こうしてソティア達はイーターから1人の女の子を助けることに成功したのだった。