15話 依頼達成
デスベアーとの騒動は一件落着した。
しかし、まだ依頼は完了していないため素材集めに戻る。
採取よりも何か大きなことを成し遂げてしまったような気もするが、あまり深く考えないようにする。
「え―っと……」
「ウガ」
デスベアーはあの後、ずっとソティア達の後をついてきていた。
背後から襲われるのではないかと心配もしたが、どうやらデスベアーに敵意は無いようだった。
「このデスベアー大人しくなったのはいいけど、ずっとついてくるわね……」
(カフィー、どうしよう……?)
〈うん? そいつはもうお前に服従している。煮るなり焼くなり好きにすればいい〉
(そうは言っても……)
ソティアはデスベアーの方を見る。
「ウガ」
デスベアーはソティアに見られていることに気づくと、そのたびに鳴き声を出す。
「これ凄くいいわよ! ソティア! めちゃくちゃ快適!」
「ネ、ネオン……」
ネオンはデスベアーの上に乗っていた。
ソティアを見下ろし、手を振っている。
さっきまで戦い合っていたことが嘘のような光景だ。
〈こいつ熊だよな?〉
「デスベアーだからそうだと思うよ……」
〈という事は鼻が結構利くんじゃないか? 試しにこいつに必要な物を探させるというのはどうだ?〉
「な、なるほど……!」
熊の鼻は人間よりもはるかに優れている。
デスベアーに乗って移動し、ついでに素材を集めれば一石二鳥だ。
「そうと決まれば……」
ソティアはデスベアーの毛を掴み、上によじ登ろうとする。
「ん? ソティアも上に乗る? なかなか楽しいわよ」
ネオンが上から手を伸ばす。
ソティアはその手を掴んで引っ張り上げてもらう。
「うわぁ……高い……!!」
デスベアー乗って上から見る景色は先ほどとは全く違うものに見えた。
ソティアの身長からはまず見れない高さだった。
位置が高いため、見える範囲が段違いなのだ。
森の中にいるためそこまで周囲を見渡せるわけではなかったが、歩いていくよりも全然良い。
「お願いがあるんだけど……」
「ウガ?」
「素材集めに協力してほしいの」
ソティアはデスベアーに声をかける。
「岩苔茸がどこにあるか分かる?」
「ウガァ……?」
デスベアーは何のことか分からないというように首を傾げる。
〈おい、熊〉
「ウッ!」
〈お前ここに棲んでるんだろ? だったらどこにあるかくらい分かるよなぁ? 見つけられなかったらどうなるか……知ってるな?〉
「ウガウガ! ウガー!」
カフィーがデスベアーに何かを語り掛ける。
するとデスベアーは何かに怯えたようにして、森の中を駆けだした。
「あっはっはー! 速い速い!」
「ひいいい!」
デスベアーの足はとてつもなく速かった。
先ほど戦っていた時よりも早いかもしれない。
ネオンは歓喜の声を上げるが、それとは正反対にソティアは目を閉じてデスベアーの背中に掴まるのが精一杯だった。
「ウガウガ、ウガウガ」
デスベアーは途中で立ち止まり、においを嗅ぎ出す。
「本当に見つけてくれるのかしら?」
「は、はぁ……助かった……」
デスベアーは何かを嗅ぎ分けているようだ。
おそらく素材を探しているのだろう。
「ウガ! ウガー!」
「あわわわわ」
デスベアーは何かを発見したように再び走り出した。
「ウガ」
「着いたみたいね」
「はぁはぁ……」
デスベアーがたどり着いた場所には大きな水たまりがあった。
辺りが大きな木に覆われ、日が落ちない場所だ。
「あ! あれ!」
「……あれは」
その水たまりの中に丸くて大きい岩がどしんと浸っていた。
周りを苔に覆われ、暗闇の中でも薄く光り輝いている。
そこに何本か灰色のキノコが生えていた。
「間違いないよ……あれが岩苔茸だ……!」
「やったわ! デスベアーって凄いのね!」
ソティアはデスベアーの背中から降りて、岩の近くに移動する。
「やっぱり完全に日の当たらない場所じゃないと駄目だったんだ……」
〈なるほど、まぁこいつも少しは役に立ったな〉
「ウガ」
ソティア達は無事2つ目の素材を集めることに成功した。
「これで後いくつなの?」
「後は……3つだね」
ネオンが尋ねてくるので依頼書を確認し、答える。
「それならほら、次行くわよ!」
ネオンがデスベアーの背中に飛び乗り、ソティアに乗るよう手を伸ばす。
「え……また乗るの……?」
「当たり前でしょう! これが一番早いし、何より楽しいし!」
「は、はい……」
ソティアはあまり乗りたくなかったが、しぶしぶデスベアーの背中によじ登った。
「次なる素材を求めて、しゅっぱーつ!!」
「ウガー!」
「とほほ……」
こうして残りの素材もデスベアーの背中に乗って探すのだった。
「今日1日費やしてやっと終わるかと思ってたけど、この子のおかげで凄く順調に進んだわね!」
「ウガ」
残りの素材についてもデスベアーがすべて見つけた。
どうやら彼にはソティア達の考えが通じているようで、頼むとすぐ行動に移してくれたのだ。
これから集めた素材を、森の入口近くに建設された冒険者用のキャンプ地点に持っていくところだった。
〈そろそろこいつとも離れた方がいいな〉
「そうだよね……」
さすがにデスベアーを連れてキャンプまで行くことはできない。
連れて行けば大騒動になることは目に見えていた。
「ソティア、どうしたの?」
ネオンがソティアに声をかける。
ソティアは事情をネオンに説明した。
このままデスベアーと行動はできないことを伝える。
ネオンは少し残念そうにしながらも、ソティアの意見を聞き入れた。
そのため、デスベアーとはキャンプに着く前に分かれることにする。
「じゃあそろそろここでお別れだね……」
「そうね……」
「ウガ」
デスベアーの顔を見る。
暴れていた時に比べて、すっかり丸くなったような表情をしていた。
〈もう会えないみたいな雰囲気出してるが、呼べばいつでも来るぞコイツ〉
(え、そうなの……?)
〈こいつはもうあれだ、何だったか。そうあれ、ペットだ〉
(ぺ、ペット!?)
迷宮の森に棲む怪物がペットというのはなかなかに奇妙な話だ。
だが、カフィーとってはデスベアーでさえもそれくらいの存在でしかないのだろうと、ソティアは思った。
「せっかくだしこの子にも名前つけてあげようかな……」
「あ、賛成! どういう名前にするー?」
ネオンがソティアの意見に食い気味に反応する。
「ウガ?」
「うーん……」
「アルティメット・ナックルベアーとかどう!?」
ネオンが意見する。
〈ダ、ダサくないか……〉
「それは……ちょっと……」
「そう? いいと思ったんだけどねー」
一同はその場に立ち止まり3分ほどの時間が過ぎる。
「デベ」
ソティアが言葉を口に出す。
「え?」
「デスベアーだから、デベ」
「随分間抜けそうな名前になったわね……」
「そうかなぁ……?」
「うーん、まぁでもいいんじゃない? もとはと言えばソティアが仲間にしたんだし、ソティアに決める権利があるわ」
こうして仲間になったデスベアーの名前はデベに決定となった。
「今日はお別れだけど、また依頼があった時はお願いねデベ」
「ウガ!」
ソティアの話を聞くとデスベアーことデベは森の奥へと帰っていった。
〈なぁ〉
「うん……?」
〈俺の時もカタストロフィスだからカフィーとか、そういう理由でつけたんじゃないだろうな?〉
「え……? そうだけど……」
〈変更を希望する〉
「ええー!」
そして、ソティア達は迷宮の森近くに設立されたキャンプにようやく到着した。
冒険者のための拠点と言うだけあって、テントというよりも建物と言った方がいいような設備があった。
その場所でソティア達は集めた素材を依頼書と共に受付に渡し、依頼達成の達成書を貰った。
これを王都内にある冒険者連盟の支部に持っていけば報酬と交換できるようだ。
こうしてソティア達の初めての依頼はおかしな現象に巻き込まれながらも無事成功することができたのだった。




