13話 初依頼挑戦
「何かいい依頼ありませんか?」
ネオンがEランク担当の受付嬢に声をかける。
「そうですねぇ……今ある依頼だとここに載っているもので全部ですかね」
受付嬢はそう言うと後ろにある棚から1冊の本を取り出す。
その本を開け、ソティア達に手渡した。
「うん? どれどれ……。ネフレー王都内の伯爵領から脱走した猫探し、サイレスまでの荷台の運搬、カルコス山までの護衛と偵察……」
ネオンが本に書かれた依頼の一覧を声に出して読んでいく。
「うううううう……!!」
「ネ、ネオン……?」
依頼を一通り読み終えると、ネオンがわなわなと震えだした。
「全然面白そうなのがないわ……! もっと強いモンスターやイーター達と戦えるって期待してたのに……!!」
どうやらネオンは依頼の内容にガッカリしていた様だった。
彼女はもっと派手な依頼を期待していたらしい。
「私はこれでも全然いいと思うよ……」
「嘘ー! 絶体ソティアだったらもっと凄い依頼だってこなせるはずよ!」
ネオンがソティアの目の前に接近して言う。
「そ、それはどうかな……」
「すみませんねぇ、Eランクであるうちは、Eランクの方のみに指定された依頼しかこなせないんです。それはどのランクも同じでして、自身のランクより上の依頼を受けることは禁止されているんです」
ネオンとソティアの会話を聞いていた受付嬢が説明をした。
どうやらEランクはこの本に載っている依頼以外は受けることができなさそうだった。
「仕方ないか、じゃあ手っ取り早くこの中から決めましょ。
ソティアはどれがいい?」
「私? 私は……」
ソティアはネオンから渡された依頼書の一覧にもう一度目を通す。
正直な所ソティアは依頼が受けれるのであれば、なんでもいいとは思っていた。
しかし、せっかく自身で選ばせてもらえるのなら、なるべくリスクの少ない依頼にしておきたかった。
(カフィーはどう思う?)
〈特にパッとするものが無いなら適当に選んでいいんじゃないか。
ここは考えるより早く行動に移した方がいいだろう〉
(そうだね、分かった)
「じゃあ……これとかどうかな……?」
ソティアは1枚の依頼書に手伸ばした。
「ん? どれどれ……迷宮の森付近のみに群生する薬草等の採取ね。こんなのでいいの……?」
「うん。薬草採取なら危険も少なくていいかなって。それにほら、報酬金も他のに比べたら小さいリスクで結構貰えるかなって」
他の依頼には1回の依頼で1万や2万zを超えるものもあった。
しかしそれらはどれも、遠い距離を移動する必要があり危険性の高い依頼ばかりだったのだ。
ソティアは冒険者になったばかりで、右も左も分からない状態だ。
ネオンがついているとはいえど、なるべく安全性を優先したいと思っている。
薬草採取はそういった面で理にかなっていると考えた。
「まぁしょうがないわね、ソティアがそう言うならこれにしましょ」
ネオンはソティアが選んだ依頼を受付嬢の元に持っていく。
「あのー、この依頼受けたいんですけど」
「採取依頼ですね、分かりました。依頼主はこの王都内で薬剤師をされているクリフという方です。これはクリフさんから頂いた森で採れる植物に関する資料です。これを見て必要なものを探してみてくださいね」
受付嬢はそう言ってソティア達に資料を手渡す。
そこには森で採れる植物の種類や説明、今回の依頼で必要な物に関するリストなどが載っていた。
「それから迷宮の森の中までは入らないように気を付けてくださいね。
あの場所は危険ですから。途中に立ち入り禁止の看板が見えると思います。そこが迷宮の森との境界線だと考えてくださいね」
「わ、分かりました」
こうしてソティア一行は森に向かって薬草の採取に向かった。
「受付の人が言ってた迷宮の森ってどんな所なのかな……?」
森へ向かう最中、ソティアがネオンに質問をする。
危険と言われている迷宮の森に少しだけ不安があったからだ。
「迷宮の森はね、この世界にある3大迷宮の1つよ」
「3大迷宮?」
「そうよ、ファジア国西部にある迷宮の洞穴。ハゴノス国とユウエン国の間にある海、竜口湾の海底にある迷宮の遺跡。そしてこのアニマ国の北西に広がる巨大な森林地帯、迷宮の森。これらが世界の3大迷宮だって言われているわ」
ネオンが3大迷宮についてザックリと説明をする。
〈うーむ。かつてもそんな名前の場所があったような無かったような……〉
「そんな場所があったなんて私知らなかったよ……」
「そうだったの。まぁ3大迷宮は冒険者にとっての憧れだからね、覚えておいて損はないわよ。それに迷宮を踏破することは冒険者にとってこの上ないほどの名誉だもの」
「ネオンも目指してたりするの?」
「それは……まぁ当然ね。でもわたしでは無理かもね……」
そう言うと、ネオンはらしくもなく落ち込んだように俯いた。
「ど、どうして……?」
「迷宮に潜むモンスターたちは他の地域に生息する生物たちよりも桁違いの強さを持っているの。イデア覚醒者であっても相手をするのが厳しいような強者たちよ」
ネオンにここまで言わせるモンスターが迷宮の中には潜んでいるという事だ。
ソティアは受付嬢の話を思い出す。
「そうか……! だから受付の人も気を付けるように言ってたんだ……」
「そういう事ね、ソティアもイデア覚醒者だけど十分気を付けるに越したことは無いわよ。今回は入口付近だから大丈夫だけどね」
そうしてネオンと会話をするうちに森の入口に到着した。
「ここが、迷宮の森……」
「そうね……、でも森の入口付近は比較的安全だし危険度も二つ星くらいのモンスターしか生息してないから大丈夫よ」
森の中に足を踏み入れる。
(この場所どこかで……)
ソティアは森に入った途端、森に広がる景色に既視感を覚えていた。
1度この森にいたような気がするのだ。
〈多分俺たちが地下から出た際にいた森と同じ地域なんだろうな。
あの場所はサイレス国近くの森だったが。
国を挟んで広がる森林地帯ということはやはり、それだけ広大なのだろうな〉
(なるほど……そういう事なんだ)
ソティアがパクトル領の地下から出た時も森の中だった。
どうやらあの場所も迷宮の森の近くだったらしい。
「どうしたのソティア? 急にぼーっとして」
「え!? あ、いや……! 大丈夫だよ! それより植物探さないと……!」
「……? そうね」
(とりあえず今は薬草を探さないと……!)
ソティアは気を取り直し、入口の周囲の探索を始める。
「確か必要な物は……」
受付嬢から貰った資料を確認する。
(岩苔茸、ツルツル蔓、ハシリ草……カフィーはどれがどれか分かる?)
〈ふむ、俺も別に詳しい訳ではないが岩苔茸は湿気た場所に群生しているだろうから、水辺の近くを探すといいんじゃないか?〉
(そうだね……まずは分かりやす物から探そう)
「ネオンー?」
とりあえずの方針を決めたソティアは、少し離れた場所でウロウロしていたネオンに声をかける。
「どうしたのー? ソティア」
「とりあえず岩苔茸を探したいから水辺に行こうかなと思って」
「オッケー、じゃあそうしましょ。分からないもの探してても埒が明かないしね」
そう言ってネオンはソティアの所まで戻ってくる。
「あれネオン、それって……?」
ソティアはネオンが手に何か持っていることに気付く。
そこには蔓のようなものがあった。
「そうだったわ! さっきとってきたんだけど、ツルツル蔓ってこれのことじゃない? 名前の通りすっごくツルツルしてるわよ」
手に持っている物をネオンはソティアに渡した。
「ほんとだ……ツルツルだ……」
〈どうやらこれで間違いないようだな〉
ソティアも触って確かめるが、ツルツルとした肌触りだった。
資料に書いてある情報とも一致しており、同じものであると考えられる。
「これは……どこで拾えたの?」
「この蔓? あの木の上にあったわよ」
ネオンは1本の木を指さす。
そこには周りの木よりも少し高くそびえた木があった。
「え……まさかあれに登ったの……?」
「うん? そうよ。あの木の上に蔓っぽいのが見えたから気になっちゃってね」
ソティアは少し驚いてしまった。
この短い時間の間でネオンがあの登りずらそうな木に登っていたことに。
以前、ネオンがイーターを討伐するときに大剣を振り回していたことをソティアは思い返した。
彼女の身体能力は普通の人よりも優れているのかもしれない。
「……凄い」
ソティアはネオンが登っていた木を見上げながら言う。
「何言ってるの、地面を抉るくらい強力な技を手から出すソティアの方がよっぽど凄いわよ……」
ソティアの発言に呆れたようにネオンが返す。
「いや、でもあれは……」
「どうしたの?」
〈おい、ソティアそれ以上は〉
「あ……そうだった、あはは、はは……」
ソティアは話そうとした口をふさぎ、笑ってその場をごまかす。
「うーん? 変なの」
ネオンはソティアのおかしな反応に疑問を浮かべるも、水辺に向かって進み始めたのだった。