11話 冒険者連盟へ
アニマについた後、ソティアたちは近くの屋台で食事をとっていた。
アニマ王国は農業が盛んな国のようで、豊富な野菜や穀物を使った料理が、多く並んでいた。
豊穣の国と言われているだけにとても作物が豊富だった。
特にポテトを油で揚げたものが、素朴ながらも素材の味がしてソティアのお気に入りだった。
「ところで、どうやったら冒険者になれるかな……?」
食事を終え、一息ついたところでソティアはネオンに尋ねる。
冒険者になると意気込んだのは良いものの、肝心の冒険者になる方法が分からなかったのだ。
「それね、めちゃくちゃ簡単よ!」
ネオンがはっきりと答える。
「アニマ王国には、冒険者連盟の支部があるわ。
そこで受け付けをするの。
そして諸々書類にサインをしたりすれば、晴れてEランクの冒険者になれるって訳」
自信満々にネオンは説明をする。
「そ、そんな簡単になれるものなの……?」
ソティアは不安げに質問を投げかける。
命を落とす危険性だってあるかもしれない冒険者。
そんな職業に簡単に慣れてしまって大丈夫なものなのだろうかと疑問に思った。
「以前は実力を計る試験もあったみたいだけど、今はイーターの脅威なんかも影響しているせいなのか冒険者になりたがる人がめっきり減ったの。だから冒険者連盟はその制度を廃止して少しでも人手を確保することにしたのよ。
肝心の制度の方だけど、依頼の達成度合いによってEランク冒険者からどんどん昇格していく、完全実力制のようね」
〈強い者はより上のランクへ、弱い者はEランクのまま……というわけか〉
「な、なるほど……」
ネオンの話によれば、最初は皆Eランクからのスタートのようだ。
ソティアにとってこれは都合のいい話である。
試験などがあった場合ソティアにとっては大変な道のりになってしまうかもしれないからだ。
これまでまともに勉学に勤しめず、戦闘訓練さえ積んでいなかったソティアでは、試験などクリアできる予感さえしない。
「ていうか、今から行けば速攻で冒険者になれるじゃない! 最高だわ!
今すぐ行くわよ!」
「ええっ……!」
ネオンは立ち上がり、即座に行動に移す。
ソティアの腕を掴んで、引っ張っていく。
その手は力強く何の迷いも感じられない。
ネオンの行動力にソティアは既に呆気にとられていた。
「ま、まだ心の準備が……」
〈いいじゃないか。こやつの意見に俺も賛成だ〉
カフィーもネオンの考えに同意していた。
(カ、カフィーまで……!!)
「どいてどいて! 私たちはこれから冒険者連盟に行くんだから!」
ソティアの腕をつかんだまま、ネオンは人込みの中をどんどん突き進んでいく。
「あいた……! イタタ……!」
人込みの中で人々達と容赦なくぶつかっていく。
「着いたわ! ここが冒険者連盟よ!」
ネオンに連れられたまま、しばらくすると冒険者連盟の目の前まで来ていた。
「つ、疲れた……」
〈ほう……!〉
ここまでの道のりで完全に体力を削がれたソティアはげっそりとしていた。
そんなソティアに気にも留めず、カフィーは建物を見て何か考えている様子だ。
カフィーが珍しく感心しているような反応を示しているので、ソティアも顔を上げて建物を見渡してみる。
見た目はいかにも集会所らしく、立派な石と木でできた小さな城のような構造だった。
建物の真ん中には大きな時計が設置されている。
「す、凄い……!!」
目の前の建物にソティアも感嘆の声が出る。
「当たり前でしょ! 冒険者のための施設なんだから。
さ、中に入るわよ!!」
ネオンがそう言い、入口の両開きの扉を開けて建物の中に足を踏み入れる。
「おっ邪魔しまーーーす!!」
ネオンが集会所の中で大声を出して叫ぶ。
中にいた人達が一堂に、視線を向けてくる。
「こ、声が大きいよ……!」
ソティアは慌ててネオンの後ろに隠れるよう動く。
リデアで町長に紹介されていた時もだが、大勢の人に注目されることはソティアにとってやはり慣れない。
恥ずかしさで、早くここから逃げ出したいくらいだった。
「おいおい、なんだぁ……?」
「ガキ2人じゃねーか」
「まぁかわいらしい」
「迷子かー?」
「尊い」
あちこちから、いろんな声が飛び交ってくる。
ネオンはそんな言葉を気にも留めない様子だ。
「どう? 変な奴ばっかりだけど賑やかでしょ?」
「に、賑やかだけど……」
広間にいる人たちがソティア達の存在に気付くや否や、まじまじと見つめてくる。
ソティアはネオンの服を掴み背後をべったりとついていく。
「もしかしてだけど……ソティアってこういうの苦手?」
ネオンの質問にソティアは無言で頷く。
「……ふふ~ん、しょうがないわね~! 私がリードしてあげる!」
ネオンが胸をポンと叩く。
心なしか嬉しそうにも見える。
「受付はあっちね! さっさと終わらせちゃおう!」
そういうとネオンはまたソティアの腕をつかんだまま、受付のある場所へ歩いていく。
「すみませーん! 私たち冒険者になりたいんですけどーーー!」
ソティアを連れてネオンが大声で受付に向かって話す。
受付には、1人の女性がカウンター越しに座っていた。
「……えっ!? ぼ、冒険者登録ですか!?」
受付の人は驚いたような表情をする。
そして、手に持っていた書類をパサリと机に落とした。
「ん? どうかしたんですか?」
ネオンが首を傾げて尋ねる。
「あっ、いえいえ! お気になさらず……。分かりました、冒険者登録ですね。今回登録される方はこの場におられるお三方でよろしいですね?」
「「え?」」
ネオンとソティアは同時に声を出す。
そしてソティアは同時に焦っていた。
(お三方……? ももも、もしかしてカフィーの事がばれている!?
た、大変だ……今すぐここを離れないと火炙りの刑に……)
〈待て〉
カフィーが慌てだしたソティアに声をかける。
ソティアはとっさに気配を感じて、ネオンのいる方向とは逆を振り向く。
「……なんですか?」
そこには茶髪に赤色のサーコートを着た少女が立っていた。
その人物はソティア達が自分を見ていることに気付いて、睨んできている。
「……なんですか? じゃないわよ! それどう考えてもこっちのセリフでしょ。ていうかあなたはまず誰なのよ!」
睨みつけてくる彼女にネオンが対抗するように口を出す。
「別に名乗る必要なんてありません。ただあなたたちの隣に並んでいただけなんですから」
彼女は素っ気ない態度で答える。どこか機嫌が悪そうにも見えた。
「あれサントリナじゃないか……」
「え、誰……?」
「聞いたことないのか、なんでもあのSランク冒険者のナルシスが認めた実力者らしいぜ」
「まじかよ、すげーヤツじゃねぇか……!」
周囲の人々が彼女についての話題で盛り上がっている。
「ふーん、サントリナって言うのね。随分人気者みたいだけど?」
「周囲の噂なんてどうでもいいんです。それよりも、登録はまだですか?」
ネオンの話に乗るそぶりも見せず、サントリナは受付に問いかける。
「は、はい! こちらが登録用の書類になります! 要項をよく読んでいただき、理解した上でサインをお願いします」
3人は受付嬢からそれぞれ書類を渡された。
「えーっと……」
ソティアは急いで書類に書いてある文に目を通す。
「………」
〈どうした?〉
「読めない文字がところどころあって……」
ソティアは十分に文字を教わることができなかった。
教わっている時期半ばで、ソティアの両親は姿を消してしまったのだ。
パクトルに引き取られて以来、何も学ぶことができなかったソティアにはところどころ難しい文字があって読めないのだ。
〈俺が代わりに読んでやろう〉
「ご、ごめん……」
ソティア視界を通して、カフィーが文を読み始める。
〈ふむ……、まぁ大体基本的な事しか書いてないな。
少し注意すべき点を言うならば、自身の怪我や命に関しては完全に自己責任といった部分だけだろうか〉
「それって、結構重要なんじゃ……?」
〈安心しろ、俺がついている。俺がいる限りお前を死なせたりしない〉
「カフィー……ありがとう……」
ソティアはカフィーの言葉に安心すると、近くにおいてあるペンを持って書類にサインを書き始めた。
〈名前は書けるのか?〉
「うん。名前は最初に教えてもらったから……」
〈そうか……。なら今度時間があるときにでも俺がお前の知らない文字を教えてやろう〉
「いいの……?」
〈余裕があるときな〉
「うん……! 分かった……!!」
カフィーとそんな約束もしつつ、ソティアは書類にサインを書き終えた。そのまま書類を束ねて受付嬢の元の持っていく。
「ソティアも書けたようね。書類を見ながら何か呟いていた様だったけど何か問題でもあった?」
「え! いや、大丈夫だよ……」
「そう? ならいいのだけど」
ネオンは自身の書類もソティアと同時に提出する。
「はい! ソティアさんとネオンさんですね。確かに受け取りました。
冒険者証明書は後日発行されますので、また明日のこの時間にでも伺いに来てくださいね」
「分かりましたー」
受付嬢の言葉にネオンが返事をする。
「はい! サントリナさんですね。あなたも冒険者証明書をまた明日、受け取りに来てくださいね」
「どうも」
受付嬢に書類を渡すと、サントリナはそのままどこかへ去って行ってしまう。
「…………」
「あんな愛想の悪い女の背中なんて見たって意味ないわよ。
そろそろいい時間だし私たちもお暇しない?」
「う、うん」
サントリナの去っていく様子を眺めていると、横からネオンに声を掛けられ我に返る。
この場にいつまでいても仕方ないのでソティア達は冒険者連盟を後にすることにした。
未だに人々の視線を感じていたので、退散できてソティアは内心ほっとしてたりもする。
こうして色々あったが、無事に登録を終えてソティア達は建物の外に出る。
外は既に日が落ちかけていた。
1日中人込みに揉まれ、ソティアはもうヘトヘトだった。
「今日はアニマに着いたばかりだし、今日はもう休みましょう!」
「分かった……! それでネオン……明日なんだけど……」
「ええ! 明日も色々案内してあげるからよろしくね」
「……! うん……!」
ソティアが話しを終える前にネオンがさっと返事をする。
まるで、ソティアが何を言いたいのか分かっているかのようだった。
「ここが冒険者達のために用意された宿泊施設ね!
もちろん冒険者になればずっと使えるん便利な場所よ」
「こんな場所まで用意してくれるんだ……」
「ま、依頼を1週間こなさなかった者は強制的に退去させられるから気をつけた方がいいわよ~」
「うっ……がんばらないとね……」
ネオンに脅しのような言葉を言われ少しひやひやしつつも、部屋の中に入っていった。
部屋は個室のため、ソティアとネオンとは一度分かれることになった。
と言っても、すぐ隣の部屋同士ではあるが。
肝心の内装については豪華でもなく広いわけでもなかったが、最低限の設備が整い、落ち着ける雰囲気のある部屋といった感じだった。
木造りの建物のせいか、ところどころ床を踏むと軋むような音を立てるところもある。
「明日からもここで生活できるんだ……!」
ベッドで横になりながら、ソティアは喜んだ。
そして同時に明日からも頑張らなければと意気込むのだ
〈まずはスタートラインに立てたといった所か〉
「そうだね……」
まだ仮の冒険者証明書しか持っていないが、早くても明日にはEランク冒険者になれるだろう。
そうなれば目的のSランク冒険者にも一歩近づいたと言えるだろう。
「頑張ろうね、カフィー」
〈ふん、俺なんかのことは気にせずに自分の事だけに集中するんだ。
俺はお前に力を貸すだけなのだから〉
「そ、そうだよね……私が頑張らないと……。
じゃあ私はそろそろ寝るね……」
そう言ってソティアはベッドにうずくまる。
〈おい、待て〉
「……え?」
寝ようとするソティアをカフィーが呼び止める。
〈まだ寝るには少しばかり早いだろう。文字を教えてやるからそこの椅子にでも座れ〉
「え、ええ……でも今日は疲れたし、また今度でも……」
〈なぁに言っているんだ! 時間があるときといったら今ぐらいしかないだろう!〉
「で、でも……」
〈こんなところで弱音を吐いていたらこの先が持たないぞ。ほら立った立った〉
「うう……」
カフィーに頭の中で叩き起こされ、ソティアはしぶしぶ机に向かう。
〈本棚があるじゃないか。丁度いい、そこにある物から何を読むか決めるとしよう〉
カフィーが話す本棚という場所には、すでにいくつかの本が用意されていた。
この部屋をかつて利用していた人の物か、それとも冒険者全員に用意されている物なのか。
いずれにせよ、ソティアにとっては悪い予感しかしなかった。
〈源力基礎論か……悪くない、これを読むぞ。ついでに源力についても知ることができて一石二鳥だな〉
「ひ、ひぃ……」
こうしてソティアは寝る前にカフィー散々教え込まれる羽目になってしまったのだった。