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イータークラウン ~邪龍と少女の冒険録~  作者: なんちゃら竜
第一章 邪龍と少女
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1話 前兆


(なんで……私はこんなことをしているのだろう。)

 少女はひとり薄暗い地下の中で奴隷のように、台車に置かれた荷物を運ぶ。

 松明でまばらに照らされた地下道で、少女は孤独に働いていた。

 正確には雇われている身なのだが、もはや奴隷と待遇は何ら変わりなかった。


 荷物の中に何があるのだろうか……? 

 そんなことは考えたこともない。

 中を勝手に覗けば自分は恐らく無事では済まされない。

 少女はまだ子供の身でありながらに、自身の立場を悟っていた。

 

「おい! 何ボサッとしている!!」


 地下道の監視員が突然少女を蹴とばす。

 少女は石畳の床に倒れこみ、鈍い音があたりに響いた。

 

「今日は重大なオークションが執り行われるんだ! 本来ならば貴様らも奴隷として売られてしまうかもしれないところをパクトル様が引き取ってくださったのだぞ! だというのにお前たちはそれを仇で返すというのか!!」


 監視員は少女にまくしたてるようにして忠告をする。

 パクトルとは、ゆくあてのない子供たちを保護するという名目で引き取っているリデアの管理主だ。

 施設から引き取るといったものの、その後の扱いはあまりにもひどいものだった。

 それがこの奴隷のような労働環境である。

 彼らにとって少女たちはただ使い捨ての道具に過ぎないのだ。

 

 そして今日はこの辺境の地ヴリムで重大な取引が行われる。

 そのため監視員たちもいつもより緊張した面持ちであった。

 

 台車の取手を掴み直し、少女はよろけながらも進み始める。


「何かあったか?」 


 別の監視員が薄暗い道の奥から駆け足でやってくる。


「いや、少し馬鹿どもに自分の立場を再教育していただけだ。それよりもそっちの様子はどうだ?」

「ああ、招待された方々が着々と集まってきておられる。予定通り行えるはずだ」


 後ろで監視員同士の会話が聞こえる。

 しかし少女にとってはもはやどうでもいいことであった。

 自分はただ言われたとおりにするだけ。

 少女にはそれ以外、考える余裕は無かった。


 以前はただ普通の生活を送っていたはずの家族だった。

 優しい父と母の間で育ち平和な日々を暮らす、どこにでもいる家族。

 しかし、ある日突然、両親が行方不明となってしまったのだ。

 当時、母に家で留守番をするよう頼まれ、それからずっと両親の帰りを待っていた。


 あれからどれだけ時間がたってしまったのだろうか……。

 もうどれだけ考えても意味はない。

 あの時からずっと少女は孤独だった。

 頼れるような人も当然、いなかった。


 自分は元々こういう人生だったのだと思い、悲しさを必死に堪える。

 来ても来なくてもいい明日のために生きるだけなのだから……。

 

 「ん……?」

 

 坑道を進んでいると、少女は荷台などが置かれた物陰の隅に不思議な模様の記された記号を見つけた。

  

(これは……魔法陣……?)

 

 辺りの監視員たちが残したものなのだろうか。

 あまり余計なことをすると、また監視員に脅されるかもしれない。

 少女は深く考えずその場を去ることにしたのだった。

 

 


------




 時計の針が三時を指す真夜中の頃、各地の賓客達が出揃いまもなくオークションが始まろうとしていた。 

 地下に広がる広大なホール内で人々がざわつき、声が響く。

 

「素敵なパーティーがはじまる会場はここであってるのかなぁ~!」

 

 長身に細身の少しパーマのかかった白髪の男が喋りだす。

 

「おい、サキア静かにしろ」 

 

 もう一人の男が注意を促す。

 眼鏡をかけており、鋭い目つきで睨む。

 

「計画を遂行することだけ考えろ。不用意に目立つな」

「ああ、分かっているさリーゴ、安心してくれ」

  

 サキアという名の白髪の男は不敵に笑いながら答える。

 

「それよりもさぁ……さっき表面上だけとはいえ豚共と握手しちゃったんだよねー。 ハンカチ持ってないかい?」


 不機嫌そうな顔をしながらサキアが話しかける。


「はぁ……。おっと、これでいいか」


 リーゴは右ポケットにかけかけた手を反対側に直してハンカチを取り出し、手渡す。

 

「いや~ありがとう。それにしても君も豚どもの相手をしていたようだけど、平気なのかい?」


 手をハンカチで入念に吹きながら疑問を浮かべたような表情でサキアは問いかけた。


「私なら大丈夫だ。こういうことにはもう慣れている。」 


 リーゴは眼鏡のフレームを軽く持ち上げ、淡々と答える。


「へぇ、それは凄いや尊敬しちゃうね」  

「それはもういいがもうすぐ始まるぞ。気を引き締めろ」

 

 サキアの少しふざけた嘲笑うかのような態度は少々癪に障るが、リ-ゴは会話を流しつつ話しを戻した。

 

「この計画に我々の命運がかかっているのだからな」

「ああ、まったくその通りだ。」

 

 サキアは再び、不敵な笑みを浮かべたのだった。




 

------




 

 ホールの奥から1人の太った男がカツカツと足音を響くようにしながら歩いてくる。

 

「皆さん! 本日はようこそおいでくださいました。私は今回この一大オークションを主催させていただきます、パクトルと申します」


 パクトルは立派な黒いスーツ姿に身を包み、

 指にはあらゆる宝石が装飾された指輪を身に着けていた。

 にやけた表情からは金色に輝く前歯もちらりと見える。


「私はこのようなオークション会場を開くことをなにより夢見てきました

 ここにお越しいただいた皆様が後悔してしまうようなことなど万に一つもございません!

 世界の各地の有名な宝物や財宝が、ここに集まったのです!!」


「オオオオオーーーーー!!」

「ヒューヒュー!!」


 客席からは早くも熱狂的な歓声が上がる。


「ありがとうございます! これもすべてここにいる皆様のご協力あってのものです」


 手を挙げながらパクトルは観客席に向かい謝辞を述べる。


「皆様待ちきれないご様子ですので早速ですがオークションを始めさせていただきます。最初の景品はこちら!」


 パクトルが片手をステージの中央に伸ばすと、緞帳が真ん中から両サイドに開かれていき、中から商品が姿を見せた。

 

「最初に出てきたのは、かつてアニマ帝国から魔獣を追い払った際にアニマの英雄が用いたとされる伝説の宝剣!! 1億z(ゼニー)から!」

  

「ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


「2億五千万!!」

「3億!!」


 客席から激しく声が上がり始める。

 

 オークションでは世にも珍しい景品が多く出品された。


 ・天界から降りた天使たちが残した羽

 ・空から落ちてきた星の欠片

 ・大海の神獣の鱗

 ・迷宮の森の奥深くにあるとされる万能キノコ  など


 観客席はさらなる大盛り上がりをみせた。

 そうして地下で行われる闇のオークションは景気よく進行していった。




* 


「名残惜しいですが、今回のオークションもいよいよ大詰めでございます!」


 ざわついていた会場はスゥっと静まり返った。


「これまでの景品もどれもこれも素晴らしいものですが、おそらく今回この商品を超えるものは無いでしょう!」


 パクトルは声を張り上げ高らかに宣言する。


「本日の目玉商品、赤く光輝く謎の宝石です!!!」


 目の前に現れたのは赤い宝石。

 ただ赤く光輝くだけの宝石だった。

 

「おい! 最後の最後でただの宝石とは何のつもりだ!」

「我々を馬鹿にしてるのか! パクトル!」

 

 ステージの中央に現れた宝石を見た人々がたちまち罵声の声を浴びせ始める。

 

「皆さん! これはただの宝石ではありません。感じませんか? この宝石から感じるただならぬエネルギーを。

それもそのはず、この宝石にはイデアの力が宿っているのですから!」

 

「イ……イデアだと!?」

「だとしたらあの宝石、世にも珍しい代物なのでは!?」


 パクトルの言動1つで皆の反応が一気に変わる。


 イデア。

 この世界、ミソロギアでごく限られたものにしか扱えることのできない異能の力。

 誰もがその力に憧れ、求める。

 その力に目覚めたものはこの世界で数少ない実力者の1人として認められるのだ。 

 そんなイデアの力を秘めた宝石は、誰もが喉から手が出るほどに欲しがるだろう。


「わしだ! わしが貰う! 3億zだ!」

「いいや! 貰うのはこの私だ! 4億z払う!」


 その事実を知るや否や、人々は目の色を変えて騒ぎ出す。


「いやはや、皆さんお目が高い! さぁ! 他に欲しい方はおりませんか!? これが最後のチャンスですよ!」


 パクトルは満面の笑みで受け答える。


「サキア」

 

 リーゴがサキアに声をかける。


「ああ、間違いない。きっとあれだろうね。

 フフフ。では、始めるとしようか」


 パチンッ!!


 サキアは右手で指を鳴らした。

 

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