お兄ちゃんと見上げた流れ星
僕と、兄弟のように生きて来たラブラドールのハルは、老衰の為、生命は、風前の灯だった。
ハルは、僕にとっては、お兄ちゃんみたいな存在だった。
ハルと、一緒に流れ星を見た思い出がある。
もう、1回、ハルに流れ星を見せてあげたい、僕の気持ちを、お父さんとお母さんは、プロジェクターを使用して、お願いを叶えてくれた。
夏休み ・・・
最悪な、夏休みのスタートになった。
暑い、暑い、夏の日 ・・・
僕と、ハルと、お母さんは、動物病院に急いで向かった。
動物病院の診察台で ・・・
ハァ ハァ ハァ・・・って、ハルは、苦しみながら ・・・ 息をする。
獣医さんが、首を橫に振っている。
お母さんが、ハルのお腹を撫でている。
僕は ・・・ なにも出来ない
僕が、生まれた時から、君がいた。
君の名前は ・・・ハル
ラブラドール・レトリバーの犬
そして ・・・ 僕のお兄ちゃん
僕よりも5歳も年上で、犬の年齢だと12歳、人間の年齢だと、89歳になるんだってね。
獣医さんに、教えてもらったよ。
僕が、楽しい時も、寂しい時も、側にいてくれたね。
しかし、僕は、君に、何かをしてあげれただろうか? ・・・
老衰 ・・・ なんだよ ・・・ それ ・・・
頼むよ ・・・ 先生 ・・・ ハル を ・・・
助けてくれ ・・・ 助けてくれ ・・・
「 コラ、さとる、獣医さんから離れなさい。」
僕は、獣医さんに掴みかかっていたみたいだ。
7歳の僕は、何も出来ない、お母さんに、しがみつき、お願いをする。
「 お母さん、動物の先生に、お金をたくさんあげてよ。ハルを元気にしてよ ・・・ハルを ・・・ 」
僕は泣いた、生まれた時から、ハルがいた。
その、ハルが死ぬって ・・・
死ぬって ・・・ なんだよ?
ただ、ただ、泣くだけの僕 ・・・
動物病院の診察台で、ハルは、ハァ ハァ 苦しそうに息をする。
ハルと、キャッチボールをした。河原を走り回った、散歩もした、怖い夢を見て泣いていたら、一緒に寝てくれた。
なのに ・・・ なのに ・・・
子供の僕は、何も出来ないのか?
動物病院の診察台の橫で、ただ、ただ、泣いている僕に ・・・
獣医さんは、しゃがみ、同じ目線になって、僕に、お話しをしてくれた。
「 さとる君、動物にも、人間にも、生命には、寿命があるんだよ。君に出来ることは、ハルの側にいて、たくさん、頭を撫でてやり、ハルとの思い出をたくさんお話しをしてあげるんだ。 」
僕に出来ることを、獣医さんは教えてくれた。
「 ツラいかも知れない、泣くかも知れない、しかし、さとる君は、ハルの弟だろう、お話しをしてあげれるのは、さとる君にしか出来ないことなんだよ。 」
獣医さんは、そう言って、僕の頭を撫でてくれた。
そして、獣医さんは、お母さんとお話しをし出した。
「 先生、ハルを、家に連れて帰ります。 」
お母さんは、そう、獣医さんに言った。
「 お力になれず申し訳ありません ・・・ 」
獣医さんは、お母さんに、頭を下げている。
動物病院の看護師さんが、ハルを、お母さんの車に運んでくれた。
僕と、ハルと、お母さんは、家に帰った。
家に帰る途中、お母さんは、運転をしながら、助手席の僕に言った。
「 さとる、お医者さんが言っていたの、ハルは、夏休みが終わるまでは、生きていてくれる可能性があるって、だから、お世話をしてあげてね。 」
夏休みが終わるまでは ・・・
じゃあ ・・・ 夏休みが終わったら、ハルは、いなくなるの?そんなの ・・・ イヤだよ。
助手席から、後ろを向いて、後部座席で橫になって苦しんでいるハルを眺める。
お母さんは、お話しを続ける。
「 だからね、さとる、夏休みは、遊びには行けないのよ。遊園地もデパートも、海も山も ・・・ 」
「 お母さん、うん、大丈夫だよ。 」
運転中の、お母さんも泣いている。
僕が、生まれる前までは、ハルが、お母さんとお父さんの子供だって言っていたからなぁ ・・・
お家に到着 ・・・
お母さんは、車から、ハルを抱き抱える。
僕は、先回りをして、玄関の扉を開ける。
お家のリビング ・・・ 到着
ハルの寝床、クッションがある。
お母さんは、ハルを寝かす ・・・
ハァ ハァ ハァ ・・・って、苦しそうな ・・・ ハル
お母さんは、僕に言った。
「 さとる、お母さん、晩ごはんの準備があるからキッチンに行くね。さとるは、ハルの事を看病してあげてね。 」
お母さんは、僕の頭を撫でて、キッチンに行った。
リビングに取り残された、僕と、ハル ・・・
僕は、ハルの顔を見て、頭を撫でる。ハルも、僕に、笑顔を向けてくれている感じがする。
僕は、ハルと遊んだ思い出を、ハルに語ることにした。
「 ハル、覚えてる、僕と、ハルと、お父さんとお母さんで、キャンプをしたよね。グランピングって言うんだって、お肉、美味しかったよねー、川でも遊んだし、夜は、星が綺麗だったし、あっ、そーそー、ハル、ハルと流れ星を発見したよね。ハルったら、流れ星に吠えてさ、お父さんに静かにしなさいって、怒られたよね。 」
バウッ ・・・
ハルが、弱々しいけど ・・・ 吠えた。
僕に、返事をしてくれたの? ・・・
ハル ・・・と、もう1度、見たいなぁー、流れ星、ねっ、ハルも見たいでしょ ・・・って、
僕は、ハルに、言ってみた。
「 ハルも、流れ星、見たいでしょ ・・・ 」
そしたら、ハルは ・・・
バウッ
弱々しいけど、吠えて、返事をしてくれた。
僕は、晩ごはんが出来るまで、ハルの橫で、体育座りをして、ハルの頭を撫でていた。
そして ・・・
お父さんが、会社から帰って来た。
「 お父さん、お帰りなさい。 」
お父さんは、僕に言った。
「 ただいま、さとる、どうだ、ハルの調子は? 」
僕は、お父さんに答える。
「 あのね、お父さん、ハルとの思い出を、ハルにしてあげたら、ハル、バウッって言ったんだよ。 」
「 そうか、そうか、良かったな、じゃあ、晩ごはんを食べるか? 」
そう、言って、僕の頭を撫でた。
そして ・・・ ダイニングテーブルで、僕とお母さんとお父さんは、お母さんが料理をした晩ごはんを食べる。
食事中 ・・・
僕は、お父さんとお母さんにお願いをしてみた。
「 お父さん、お母さん、僕、ハルと見た流れ星を、また、ハルに見せたいんだ。お願い、お父さん、お母さん、僕とハルを、流れ星を見た、あの場所に連れて行って、お願い ・・・ 」
食事中、僕のお願いに、お父さんとお母さんは、困った顔をしてる。
お父さんは、お母さんに言ってる。
「 お母さん、さとるは、ペルセウス座流星群を見に行った事を言っているのかな? 」
お母さんは、お父さんに答える。
「 そうみたいね、お父さん、どうする? 」
お父さんとお母さんは、僕に言った。
「 さとる、でも、ハルは、寝かさないと ・・・ 」
僕は、お父さんとお母さんに言った。
「 さっき、ハルは、言ったんだよ、バウッって吠えて、見たいって言ったんだよ。」
お父さんは、僕に言った。
「 さとる、わかった、ハルと流れ星を見に行こう。夏休み中に行こうな ・・・ 」
お母さんは、お父さんに言った。
「 あ あ あなた ・・・ 」
お父さんは、お母さんに言った。
「 ハルの最期なんだ、さとるとハルの思い出作りに協力をしてやろう。 」
お父さんと約束をした、そして、晩ごはんを食べ終わって、ハルの元に行った。
そして、僕は、ハルに言った。
「 ハル、お父さんが約束してくれたよ、夏休み中に、流れ星を見に行けるよ。 」
僕は、ハルの頭を撫でて、思った。
流れ星を見たら、ハルは、まだまだ、長生きをするんじゃあーないかって ・・・
・・・ 考えていた。
しかし ・・・ 現実は、残酷だった。
日に日に、衰弱をしてゆく ・・・ ハル
老衰は、ハルから、立つことを奪った。
うつ伏せ状態のまま、無反応な ・・・ ハル
僕は、ハルの頭を撫でる事しか出来ない。
ハルの、ドックフードのお皿、そして、お水を入れたお皿は、そのまんまだった。
僕は、ハルに言った。
「 ハル、お願い、ごはん ・・・ 食べてよ、お水を ・・・ 飲んでよ。 」
僕は、ハルの頭を撫でて、涙を堪える。
ハル は ・・・
もう、バウッって ・・・
言ってくれない ・・・
しんどいの? 苦しいの? 痛いの?
僕は、ハルの顔を眺める。
お父さんの会社が夏休みになったら、流れ星を見に連れて行ってくれるんだから ・・・
頑張ってよ ・・・ ハル
しかし ・・・ ハル の生命は、風前の灯だった。
その晩 ・・・
僕は、お父さんに言われた、流れ星を見に行けないって ・・・
「 お父さんの嘘つきーー、僕とハルに、流れ星を見に連れて行ってくれるって約束をしたじゃあーないかぁー 」
老衰の犬を連れ出すことは酷なこと、大人としての判断、正しい選択だ。しかし、7歳のさとるにとっては、酷なことの意味を理解していなかった。
お母さんが、さとるに言った。
「 さとる、さとるが、風邪をひいて、お熱が38度あっても学校に行きなさいって、お母さんに言われたら行けるの?行けないでしょ?ハルは、現在、そう言う状態なのよ。 」
お父さんも、さとるに言った。
「 さとる、ハルは、もう、外に行く元気はないんだ。老衰で、歩くことも出来ないんだ。お家で、ゆっくり寝かしてやる事が、ハルの為なんだよ。なっ、さとる、わかるよな。 」
死を待つだけの ・・・ ハル
何かをしてあげたい ・・・ さとる
泣きべそをかいている僕に、お父さんは言った。
「 さとる、でも、お父さんは、嘘つきではないぞ。明日、お父さんが会社から帰って来たら、そこのリビングで流れ星を、さとるとハルに見せてやる。 」
お家で流れ星が見れる ・・・
お父さんは、さとると約束しました。
さとるは、約束の安心感に涙を拭き、ハルの元に行き、体育座りをして、ハルの頭を撫でる。
そして、ハルに語りかける。
「 ハル、明日の晩、ここで、お父さんが、僕とハルに流れ星を見せるって約束をしてくれたよ、楽しみだね。 」
僕の言葉に無反応なハル、目が開いていてくれることが、さとる、お母さん、お父さんにとって ・・・ 救いだった。
僕は、その晩、お母さんに頼んで、ハルの橫にお布団を敷いてもらって、ハルと一緒に寝た。・・・
次の日の朝 ・・・
お父さんは、僕に、男と男の約束は必ず守るって言って会社に行った。
そして、お母さんは、僕に言った。
「 さとる、リビングにある、さとるのオモチャ、自分の部屋に運びなさい。」
僕は、お母さんに聞いた。
「 どうして? 」
お母さんは、僕に言った。
「 流れ星を眺める為よ、さとるも手伝ってよ? 」
朝から、お母さんの弟の健二叔父さんも来て、お母さんと健二叔父さんで、ソファーなどを移動させていた。
そして、すぐ、ハルの周辺には、なにもなくなった。
白い壁の汚れを、お母さんは拭いている。
健二叔父さんも、白い壁の汚れを拭いている。そして、健二叔父さんが僕に言った。
「 さとる、今晩、楽しみだな、流れ星 ・・・
」
僕は、健二叔父さんに言った。
「 流れ星、見れるの?絶対?絶対に? 」
健二叔父さんは、僕に言った。
「 お父さんと叔父さん、嘘、言わない。 」
そして、健二叔父さんは、お母さんに言った。
「 ねーちゃん、ご褒美に缶ビール下さい。 」
健二叔父さんに言われた、お母さんは、健二叔父さんに言った。
「 缶ビールは、売り切れですよ、それにしても健二が、仕事が休みで助かったよ。 」
お母さんに言われた、健二叔父さんは怒っている。
「 ただ働きをさせる気かぁーー! 」
でも、なんやかんやで、健二叔父さんは、お母さんに、缶ビールをもらって飲んでいた。
その晩 ・・・
ハルの周りには、なにもない、僕は、お父さんに、ハルの橫で仰向けになるように言われた。
相変わらず、ハルは ・・・ 動かない?
お父さんとお母さんは、プロジェクターって、名前の機械を触っている。
そして、お父さんは、僕に言った。
「 さとる、お父さんは約束は守る、天井を見ときなさい。 」
突然、お部屋が、真っ暗になった。
「 え 」
お家のリビングの天井は、夜空に変身をした。
僕は、橫で、寝そべっているハルに言った。
「 すごい、すごい、ハル、お星さまが、たくさんあるよぉー 」
興奮をしている僕は、ハルのお腹を撫でている。
「 え 」
流れ星が流れた ・・・ 瞬間
バウッ
・・・って、弱々しいけど吠えた。
ハルは、流れ星に反応したのだ。
そして ・・・
うつ伏せのまま ・・・
ハルの目は ・・・ 閉ざされた。
もう、永遠に開くことは ・・・ ない。
流れ星と僕とハルの奇跡 ・・・
ハルの目に、流れた星が見えていたのか?いないのか?
それは、ハルにしか ・・・ わからない。
僕は、ただ、ハルに抱きついて、泣くことしか出来なかった。
僕の、お兄ちゃん ・・・ ハル
永眠 ・・・ 享年12歳
「 終わり 」
大切な存在の生命が終わる、人間であれ、動物であれ、皆、平等に訪れる。
生命の終わりを、いかにして受け入れるか、環境であれ、投げ掛ける言葉であれ、その時、思った最善策をしてあげれる行動をすることが、大切な事だと思います。
では ・・・
最後まで、お読みいただき、ありがとうございました。