7 成長が早すぎる
「よし、じゃあいくね」
私はぐっと集中すると、水とその辺の草が入ったバケツに魔法をかけていく。
すると、水はぐるぐる回り、みるみるうちに夕日のような赤色に変化していった。
ずいぶん久しぶりだからちょっと不安だったけど、無事成功してるっぽいな。
「凄い……ポーションってその辺の草から作れるんですね」
「結構むりやり作ってる感じかなぁ。その分品質も悪いし、正直魔力消費を考えたら回復魔法の方が効率良いんだよね」
ちゃんと材料を厳選すればそんな事もないんだけど、それなら買ったほうが安いからね。
だから冒険中も一回も使わなかった魔法だ。
ただ、今回はとりあえずポーションさえできれば問題ないので、これでいい。
私はそのままバケツ三杯分のポーションを作った。
「このぐらいで足りるかな?」
「いけると思います」
まぁ足りなければまた作ればいいって事で。
それから私たちはポーションを畑に蒔き、ひたすら鍬で混ぜまくった。
そして大体混ざったら、見様見真似で畝を立てる。
「あとは種を蒔けば終わりかな?」
「じゃあ私とってきますね」
セーナが家から種を持ってきてくれたので、二人でせっせと種まき。
「よし、これで貰った分全部蒔き終わった!」
「地味に疲れる作業でしたね……。でも、今から成長するのが楽しみです!」
というわけで今日の作業は終了。私たちは家へと戻っていった。
収穫は早くても3、4ヶ月後とかになると思ってたんだけど───
1時間後、私たちは畑の前で絶句していた。
理由は簡単、蒔いた種のうち、一種類が何故かもう膝下くらいの高さまで成長していたからだ。
「なにゆえにこんな事に……」
「成長するの楽しみでしたけど、こんな速攻で育たれたら逆に引きますよ……」
収穫できるほどではないけど、多分明日には実がなってる。
そのぐらいの成長速度だ。
「ポーションって成長速度上げる効果でもあるの?」
「いやぁ、私も冗談で言っただけなんで知らないですけど、これを見ちゃうとそうなのかもですね」
驚きの新事実すぎる。
私たちが異様な光景に苦笑いしていると、
「いや違うぞ。それ、試作の魔法道具で早く育つよう改良した種だからな」
後ろから急に声がした。
「「うわっ!!」」
振り向くとそこにはレイラがいた。
「そんな驚かなくてもいいだろ」
「いや、急に後ろにいたら驚くよ!」
「そうですよ! どうやって来たんですか! 王都からここまで急いでも5時間はかかる距離でしょう」
「そりゃ転移魔法でだよ。私だって一応魔法学校卒だからな、それくらいはできるさ。……まぁ準備に30分はかかるし一日一回が限度だけど」
まぁ転移魔法ってかなり高等技術ではあるもんな。
魔力消費も激しいし、それが普通だろう。
「え、それなら帰りはどうするつもりなの?」
「そりゃあ泊めてもらうか、リノンに送ってもらうかしようかなぁと」
なんて他人任せな……。
別にいいけどさ。
「というか、こんなところまで何しに来たの?」
「そりゃ、あげた種の様子を見に来たんだよ」
レイラはそう言いながら畑の方を指差した。
そういえばレイラからもらった種だったもんな。そりゃ気になりもするか。
「そういえば、早く育つよう改良って、どういうこと?」
確かさっき、そんな事を言っていたはずだ。
「そのままの意味だぞ。植物の本質をいじってやって、違う性質を持たせられる魔法道具を作ったんだよ」
「……えっと、つまりどういう事?」
正直何言ってるのかよく分からなかったぞ。
本質……とは?
「あー、何というか、二つの野菜の持つ特徴を合わせて一つの野菜を作る、みたいな感じだ。正確には植物に囚われないんだが、とにかく、それで種ができたはいいけど、家庭菜園なんてするスペースないし、リノンに押し付けたって感じだ」
つまり、育つの早いけど実は小さい野菜と、遅いけど大きい野菜を混ぜて、早いし大きい野菜を作るって感じか。
ずいぶん難しいことしてるんだな。
……というか、今、押し付けたって言わなかった?
「でもそれだと悪いところだけ引き継ぐ可能性もありませんか? やたら遅いみたいな」
「可能性としては大いにあるな。ま、その辺はトライアンドエラーで数打つしかない」
なるほど、確かに今回育ってるのは一種類だけだもんな。
狙った通りのものはなかなか作れないんだろう。
でも、繰り返せばいずれ狙った種が作れるのなら、結構画期的な発明なんじゃないだろうか?
例えば米の大きさが1.2倍になったら、一つ一つは小さくても合計で見れば結構な増量になるだろう。
これが広まっていけば、食糧不足とかは無くなっていくかもしれない。
「まぁ、理由は分かったんだけど、いくら何でも早すぎない? まだ植えて1時間とかだよ?」
「あ、私もそれ思ってました。私の知る限り1時間で成長する植物とか無いと思うんですけど」
「いや、そんな事ないぞ。あるじゃないか、すごい早く育つやつ」
はて? そんな植物あっただろうか?
隣を見ると、セーナも首を傾げていた。
そもそも私たち大して植物に詳しくないもんな。
「ごめん、全く想像つかないんだけど。答え、何?」
「ほら、リノンの創作魔法であるだろ、拘束魔法」
拘束魔法は魔王戦でも使った、私オリジナルの魔法だ。
地面からツタが出て対象を縛るっていう結構便利な魔法である。
「あぁ、確かにあれなら一瞬で成長してますもんね」
「魔法学校時代にちょっと研究させてもらってたからな。そのデータを色々やって流用した感じだ」
あぁ、そういえば昔なんか色々調べられたな。
あの時は結局ツタが自然発生してるとしか思えないって結論だったけど、こんな形で生かしてくれてるとは。ちょっと嬉しい。
「ま、そういうわけで別に異常ってわけじゃない。味は分からんが、明日には収穫できると思うぞ」
そこは味も保証して欲しかったなぁ……。
まぁでも、レイラがそういうなら危険性は無いってことかな?
というわけで、私達は明日の収穫を心待ちに今日はもう畑仕事を終える事にした。