6 畑を作った
帰宅後、家庭菜園を始めようかとセーナに相談したところ、
「いいじゃないですか! それなら私も手伝います!」
とのことだった。
必要な道具はセーナが里から借りて来てくれるというので、しばらく待って、家の前のスペースを耕すことにした。
「あ、今回魔法は禁止ですからね!」
ガッツリ魔法を使おうとする私を、セーナが止めた。
「え、何で? 魔法使った方が早いし楽だよ」
本当は知らない魔法だと作ったりする手間はあるんだけど、私の場合なんとなくで作れちゃうので確実に魔法の方が早い。
「いいですか、リノンは魔法にかけては天才的だと思います。私もそれにたくさん助けられてきました」
おぉ、面と向かって天才とか言われると照れちゃうな。
素直に嬉しい。
「でも、それに頼りすぎてるきらいがあると思うんです」
「それはまぁ否定しないけど……」
正直魔法は便利すぎるくらい便利だ。
それこそ本気を出せば丸一日、微動だにせず生活することもできると思う。
流石に私もそこまでする気はないけど、やっぱり面倒そうだったり、疲れそうなことは魔法でチャチャっと済ませてしまいがちなのだ。
「今回の目的はリノンの健康を取り戻すことなんですから、今回は魔法無しです!」
ビシッと言い放つセーナ。
まぁ、最近ちょっと太った気もするしな……。
膝枕するたびにセーナに『ふにふに』言われちゃってるし、ダイエットも兼ねてやるか。
というわけで半ばしぶしぶ生えてる草をむしっていった。
そして、大体むしり終わったら、セーナが里から借りて来てくれたスコップで地面を掘り返していく。
そんな作業を5時間ほどすると、それっぽい畑が出来上がっていた。
種を撒くにはここから肥料とか加えなきゃなんだろうけど、日も暮れてるので今日はここで終了。
結論から言うと、けっこう楽しかった。
疲れはしたけど久しぶりに汗をかくと、なんだかんだストレス発散になったのだ。
まぁ、別にストレス溜まってたわけじゃないんだけどね。
こう、緩みからくる心の怠さがスッと抜けていく感じだ。
「これ、お水です。よかったらどうぞ」
私が玄関ポーチで休んでいると、セーナが水筒を持ってきてくれた。
「ありがと〜」
それを受け取ると、一気に半分ほど飲み干す。
「ふぅ、それにしても久しぶりに動くと気持ちいいね。いい汗かいたよ」
「リノンが汗かいてるところなんて久しぶりに見ましたよ。つい舐めたくなりました」
セーナは私の横に座りながら言った。
…………何を!?
サラッと凄いこと言わなかった今!?
「それはそうと、私も結構なまってましたね。冒険してた時ならこのくらいなんてことなかったはずなんですけど」
「まぁ、それだけ平和になったってことだよ」
そう、本来このぐらいで疲れるのが丁度いいのだ。
動かなきゃ死ぬ中で冒険するとか、尋常なものではないと、こんな生活を送っていると改めて思う。
「こんな日々が続くといいですね」
「そうだね、この時間を守っていこう」
あぁ、柄にもなくしんみりしてしまった。
きっと疲れてるんだな、うん。
「よし! 今日はもうご飯食べて、お風呂入って、寝よう! どの道続きは明日だし」
「ですね。あ、なら今日は私が背中流してあげますよ! 疲れてるでしょ?」
「大丈夫! 魔法使えば一瞬で綺麗になるし!」
「こら! 魔法使うの禁止ですよ!」
「畑じゃ無いんだからもう良く無い!?」
ギャーギャー騒ぎながら、私たちは家の中に戻っていった。
疲れたから、暗くなったから、やる事を明日に回す。
これもきっと、平和で幸せな日々だからこそできる事だと思う。
─────────
そして翌日、私たちは畑に肥料を撒こうと思ったんだけど、一つ問題があった。
「そういえば、肥料って何撒けばいいの?」
「さぁ? よく聞くのは貝殻とか灰とかですかね?」
私たちは肥料への知識が乏しかったのだ。
そこで、餅は餅屋、肥料は農家って事で、里におりて、農家さんの話を聞くことにした……んだけど。
農家Aさんの話
「うちは家畜の糞だな! 今朝とれたてのあるけど、持ってくか?」
もちろん、丁重にお断りしましたとも。
流石にうら若き乙女にフンはきついものがあるからね。効果があっても使う気にはなれない。
農家Bさんの話
「私のとこは魚の骨だねぇ。親戚が王都で料理屋やってるから、粉にして纏めて送ってもらってるのさ。今はもう使い切ってるから無いけどねぇ」
魚なんてこんな山奥じゃそうそう流通しないので、実質入手不可。
王都まで買いに行ってもいいけど、2人であの畑全てを賄えるほどの量は食べられないしね。
農家Cさんの話
「うちは休みの期間に植物育てて、それをまとめて耕してますね。なんで特に肥料とかは入れて無いです」
言わずもがな、これは実現不可能だ。
その後も三者三様、十人十色な意見があったんだけど、どれも生理的にキツかったり、実現不可能だったりして参考にはならなかった。
「はぁ、この際ポーションでも入れちゃいます? 人が回復するなら土も回復しますよきっと」
セーナがずいぶん投げやりな感じで言っていた。
ただ、個人的にはありなんじゃ無いかとも思う。
「ものは試しだし、一回やってみる? 私、中位ポーションまでなら魔法で生成できるし」
「え、本気でやるんですか?」
「別に一回で成功しなきゃいけないわけでも無いんだし、色々試しながらゆっくりやってみない?」
何事も初めて挑戦した人がいるから今の常識があるはず。
時間はたっぷりあるし、そういう挑戦はしてみてもいいんじゃ無いかと思うのだ。
「まぁ、それもそうですね。試行錯誤でやりましょうか」
というわけで、私たちの畑の肥料は中位ポーションに決定した。