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5 目標がない

 家建設から1週間、私たちは実に平和な日々を過ごしていた。


 冒険してた時のようなハラハラ感も、命の危険もない。

 貯金だって十分あるから、働かずともある程度は暮らせる。


 まさにスローライフって感じだ。


 そもそも冒険してる時って住所不定半無職みたいなものだったからね。

 こうして安住の地を見つけた今、心にも余裕ができたのだ。


 ただまぁ、そう言った余裕というのは、行き過ぎると弛みとして出てきてしまうもので……



「おはよー」


 私が階段を降りながら挨拶すると、セーナがリビングの掃除をしていた。


「あ、おはようございます……というか、もうお昼ですよ」


 時計を見てみると、既に針は11時を指していた。


 やべ、もうこんな時間になってたのか……。


「いやぁ、ついつい遅くまで魔法の研究しちゃってね。寝るの3時くらいになったからさぁ」


「もう、そんな事してたらお肌に悪いですよ」


「はは、ごめんごめん」


 そんな私を見てセーナはため息をついた。


 ただ、すぐさま嬉しそうに笑みを浮かべた。


「仕方ないなぁ、私が頬擦りで荒れ具合を確かめてあげましょう!」


「いや、大丈夫! 間に合ってる!」


 抱きついてこようとするセーナを手で静止する。


 荒れ具合確かめるのに頬擦りである必要ないでしょうに。


「仕方ないなぁ、じゃあちゃんと寝てるか見張りも兼ねて、一緒のベッドで寝るので妥協してあげます」


「それなら……ってダメダメ! 何の妥協になってるのそれ!?」


「チッ、騙されなかったか……」


 今、舌打ちしたぞこの子……!


「まぁ冗談はさておき」


 いや、絶対冗談じゃなかったでしょ……。

 どっちも目がマジだったよ。


「はっきりいうと、魔王討伐からというもの、ちょっと生活習慣乱れてると思いますよ。ずっとゴロゴロしてますし」


 うっ、痛いところを的確につかれた……。


「まぁ、目標がなくなるとなかなかねぇ」


 これまでは朝起きる必要があったから起きられてたけど、何もなければ基本私は自堕落な方だからね。


 やりたい事あっても、やりたいなぁと思いながらゴロゴロして、気づいたら夜になってるのでついつい深夜に行動してしまうのだ。

 案外、こんな人結構いると思う。


 ただ、スローライフ=自堕落な生活ってわけじゃないし、改めた方がいいのは確かか。


「目標、ないんですか?」


「今は目標って言えるほどのものはないかなぁ」


 魔王討伐とかいうでっかい目標を掲げてた手前、次の目標が迷子なのだ。


「魔法の研究は違うんですか?」


「あれは何となくやってるだけだからね。セーナの呪いも解けたらと思って進めてるけど、急ぐものでもないでしょ」


 何だったら、素直になるのはいい事とさえ思える。

 たまに激しくてびっくりするけど。


「まぁ、そうですね。……というか、私のために夜更かししてくれてたんですか? もうっ、こんなの相思相愛ですね!」


 多分そこにある愛は、形が違うんじゃないかなぁ。


「今度お礼に添い寝してあげます!」


 それ絶対セーナがやりたいだけだよね!?




 それから私は他の人の意見も聞こうとレイラの店まで移動した。

 ちなみにセーナも誘ったんだけど、やる事があるからと家に残っている。


「あのな、私の店は別に相談所じゃないんだからな」


「いや、そうだけど、一友人として何かアドバイスない?」


「ったく、まぁ丁度オーダーメイド品も作り終わって暇だったから良いけどさ」


 レイラはやれやれと言いたげな様子だった。

 なんだかんだ面倒見がいいのは優しい。


 というか、基本暇してるように感じるけど、これは多分仕事が早くて正確なお陰で、少ない作業時間ですんでるからだろうな。

 さすがだ。


「目標ねぇ……。私の場合は、魔法道具作りが仕事で趣味で目標だからな。それに当てはめればリノンは魔法を極めるとかだろうが……そこまでする気ないだろ?」


 レイラの質問に頷いて答える。


 魔法は好きだけど、それを極めろと言われるとちょっと厳しい。

 それにそもそも魔法の研究で夜更かししちゃってるからね。本格化すると多分キリがない。


「うーん、その場合、生活に役立つか魔法(趣味)に関連するかで考えると早いかもな」


 なるほど、確かにそれだと飽きにくそうだ。


 私とレイラは揃ってしばらく考えると、10秒ほどでレイラが思い付いたように手を打った。


「あ、それなら畑でもやってみたらどうだ?」


「畑? 素人ができるのそれ?」


「そりゃ本格的なのは無理だろうけど、家庭菜園くらいならやってる家も多いと思うぞ」


 まぁ確かに売り物にするわけじゃないなら、本格的に頑張る必要もないのか。

 ほどほどでいいっていうのは、けっこう魅力的。


「それに、野菜を作って食事の足しにすることもできるし、薬草を育てれば魔法研究の役にも立つだろ。土地なら家の前にかなりあるしさ」


 確かに理にはかなってるか……。


 それに、何事も試さなきゃどんなもんか分からないもんな。


「うん、それじゃあやってみようかな、家庭菜園」


「よく言った! そんなリノンにはこれをお裾分けしてやろう」


 そう言って渡されたのは4つの小さな紙袋。

 中には何やら黒い粒がいくつも入っていた。


「なにこれ?」


「種だよ種、中身はそれぞれ───いや、内緒にしておくから、完成したら回答がてらちょっと分けてくれよ」


「分かった、じゃあ目ん玉飛び出るくらい美味しい野菜作ってあげるよ」


「おぉ、それは楽しみだ。こっちは料理の腕でもあげて待ってるよ」


 こうして私はレイラから種を分けてもらったのだった。

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