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在りし日の記憶1

こちらはリノンとセーナが冒険していた頃の回想の話になります。

作品が長く続けば、こんな感じで昔の話を出していこうと思っています。本編内でちょいちょい匂わせ発言させてますしね。


念のためですが、今回はセーナ視点からの文になっておりますので、そのつもりで読んでいただけると幸いです。

「あ、セーナ、これなんていいんじゃない?」

「たしかに生地もしっかりしてていい感じですね。……でも、結構いい値段しますよこれ」

「うわ、ほんとだ。言うほどお金ないもんね私達……」


 魔王討伐のための冒険を続けていたある日のこと。

 私達は冒険用品が売ってるお店の、寝具のコーナーにきていました。


 理由は簡単、夜が寒くなってきたからです。


 これまではガッツリ野宿してたんですが、流石にそれだと風邪引きかねませんからね。

 勇者といっても病気にはかかるのです。


 それから1時間ほどあれやこれやと物色した結果、セールのカゴに投げ込まれていたテントを買う事にしました。



 それからしばらく冒険して夜。



 早速買ったテントで寝ることになった───んですが。


 正直、ヤバかった。


 だって軽く肩が触れ合うような位置にリノンがいるんですよ!?

 二人用のテントって言ってたけど狭く無いですか!? ほぼ密着ですよ! えっちいよ!


「いやぁ、結構いい買い物出来たね〜」


 リノンの声がテントに反射して全身に染み渡ってくる。

 なんだこの幸せ空間は……!


「そ、そうですね。これで雨風も凌げます」

「そーそー、まあ今までが劣悪すぎただけかもだけどね〜」


 たしかに冷静に考えると、今までが酷すぎるだけな気もする。

 雨とか降ったら地獄でしたしね。


「それに二人いるからか、結構あったかいね。体温で空気あったまってるのかな?」


「た、体温……」


 リノンの言葉に思わずドキッとする。


 つまりこの暖かさはリノンの体温……? 今、全身を包んでいるこの空気がリノンの体温……? リノンの体温ってことは要はもうリノンそのものって事……。


 ってことはそんなのほとんど抱きつかれてるようなものじゃ無いですか!


「おーい、セーナ大丈夫?」


 興奮しすぎで頭が沸騰しかけていると、リノンが心配してくれた。

 優しい、好き!


「は、はい、ちょっとぼーっとしてただけですよ」

「あー、今日頑張ったから疲れたもんね〜。まぁ明日も早いしとりあえず寝ようか」


 そういうと、リノンは寝る準備に入った。


 やばい、隣でリノンが寝てるとか理性保てるでしょうか……?

 いや、いける! やってみせる! 正直、魔王討伐より難しいかもだけどやってやるぞ!




 そして朝───


 私はなんとかギリギリ瀬戸際のところで理性を保ちきりました。そう、理性はなんとか保ったのです。

 ただ、まぁそんな興奮した状態で寝られるわけもなく、気がつけば外はほのあかるくなっておりました。


 やばい、一睡もできなかった……。


 私は少しふらつきながらも、テントの中から這い出ると、火照った体を風で冷やします。

 体から熱が抜けるのがもったいない気もしますが、このままじゃ鼻血でも出して倒れそうですし。

 背に腹はかえられません。


「……あれ? セーナ、もう起きてたんだ」

「あ、すみません、起こしちゃいましたか?」

「いやいや、快適に眠れたから早く起きれただけだよ」


 リノンはそう言いながらテントから這い出てきました。

 絶妙に乱れた服の隙間から白い肌が見え隠れしています。……なんかまた暑くなってきたな。


「っていうか、(クマ)やばいよ! 全然寝てないんじゃないの?」

「えっ、いや、そんな事はなくて……なんというかですね───」


 私が必死に言い訳を考えていると、リノンは思い付いたと言わんばかりに手を打った。


「もしかしてセーナって枕変わると眠れなくなるタイプか! まぁ今回は枕っていうか環境だけどね〜」


 いや、正直そこそこ図太い方なので、そんな事は無いんですけど……。

 というか、そんな繊細な人がここまで野宿とか無理なんじゃ無いかと思います。


 まあでも、リノンを誤魔化せるならとりあえずなんでもいいので、盛大に頷いておきました。


「あ、やっぱり。でも寝ないと体に悪いよ〜」

「あはは、でも今日で慣れたんでこれからは大丈夫だと思いますよ」


 正直、自信はないですが。


「でも今日も冒険するんだから。ほら、私の膝でもなんでもいいし、寝た方がいいよ」


 そう言って自分の膝をポンポンと叩くリノン。


 ……え、いいんですか?


 自然とよだれが垂れてきそうなのをなんとか抑えると、恐る恐るリノンの太ももに頭を乗せました。


 まるで吸い付くような肌質に、引き締まりつつも程よくプニプニした肉感。

 食べていいと言われればそのままかぶりついてもいいくらい、心地いい代物でした。


 あ、やばい、よだれは止めたけど鼻血が出そう。

 そもそもなんでこんないい香りがするんですか! 全身お花畑かこの野郎!



 私が1人大興奮していると、ふとリノンが尋ねてきた。


「そういえばさ、セーナって魔王が討伐できたらどうするの?」

「どうする、ですか?」


 正直、討伐後のことなんて全く考えていませんでした。

 そもそも人生のソースのほとんどを訓練に費やしてましたからね。余生なんて想像すらしてませんでした。


「リノンは何か考えていたりしますか?」

「え、私? うーん、私はセーナが誘ってくれたから参加してるだけって感じもあるし、特に予定もないんだよね〜。まぁ、強いて言えば田舎で自由気ままな生活でも送ってみたいかな」


 田舎でスローライフ……。良いですね、それ。


 でも、そうなるともし魔王が討伐できたら、私たちの旅も終了。つまりはリノンとお別れになってしまうって事ですか……。


 それって、控えめにいって地獄じゃないでしょうか? いやまあ旅ができてる今が幸せすぎるんですけども。

 でも、できることならずっと一緒に過ごしていたい。


 だから、それなら───


「私も一緒に暮らしたいなぁ……」


 最後の考えだけ、思わず口から漏れていた。


 咄嗟に口を塞いだけど、そんなの間に合うわけもなく、ばっちりリノンに聞かれていた。


 一緒に暮らしたいとかそんなのほぼプロポーズみたいなものじゃ無いですか! 最悪だ、引かれたよ完全に……。


 私が絶望の淵に立っていると、リノンが少し楽しそうに笑った。


「ふふっ、まぁ、それもありかもしれないね〜」

「えっ!? いいんですか!?」


 私は予想外の答えに、思わず体を起こしていました。

 だってプロポーズがOKだったんですよ!? ……いやまぁ正確にいえばプロポーズでは無いですけども。


「そんな驚かなくても……」


「あ、いや、そうなんですけど……でも! まさかOK貰えるとは……!」


 個人的には引かれても仕方ないまで覚悟してましたからね。


「ほら、私孤児院の出だから身寄りなんてないしさ。セーナとの旅も楽しいし、一緒に暮らしてくれるなら、それもありかなぁとは思うんだよ」


 リノンは少し遠い目をしながら微笑んだ。

 それは少し寂しそうで、少し悲しそうで、諦めに似た何かを感じて……


「じゃあ、きっと魔王を倒して、一緒に暮らしましょうね!」


 必死に明るくそう言うのが私の限界でした。


「うん、きっとね」




 こうしてこの日、新たな目標ができた私は、今までよりも強く、魔王を倒す事を胸に誓ったのでした。

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