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19 お客様は幼女です

「そういえばご主人様たちは、魔王を倒した英雄なのだよな?」


 昼下がり、リビングにみんなで集まってのんびり過ごしていると、ふとベルカがそんなことを尋ねてきた。


「そうですけど、それがどうかしましたか?」


 セーナが思わず聞き返していた。


 私たち自体、あんまり言いふらしたりしないので、そんな質問をされることが少ないのだ。

 普通に過ごしていれば一般人と何ら変わりないからね。魔王を倒した勇者とか、まずばれない。


「いや、せっかくならどんな冒険をしていたのか聞いてみたいと思ったのだ」


 なるほど、確かにそういう話はあんまりしたことなかったか。

 せっかくだし、思い出話というのも悪くないかもしれない。


「でも、いろいろありすぎて何を話そうか……」

「ですね、結構いろんな事件にあってますから」


 受難体質なのか、私たちの旅は結構多難なものだった。

 話そうと思えばいくらでも行けるけど、その分エピソードの選別が難しい。


「それなら、魔王以外で一番厄介な敵って誰だったのだ?」


「それなら、四天王にいた吸血鬼かな」

「私も同じくですね。あれは厄介でした」


 セーナも同意見らしい。

 まあ、唯一私たちが倒しきれなかった相手だからね。


「その吸血鬼は、どんな奴だったのだ?」


「赤髪の色っぽい女性だったよ。魔力を吸う魔法のせいで戦うのが大変でね」


 私の言葉に、セーナも大きくうなずいていた。魔力を吸われて困るのは、剣士も同じだからね。

 剣に魔力を込めて攻撃すると威力が上がるので、剣士も魔力が必要なのだ。



『ドンドン』


 それからしばらくベルカに吸血鬼との闘いの話を聞かせていると、玄関ドアが強くノックされた。


「誰だろ……?」


 ノックの強さ的に、里の人ではなさそう。

 あんな雑にノックする人はいないはずだ。


「ベルカが出るか?」

「いや、私が行ってくるよ」


 若干敵意のようなを感じるので、ベルカはいかせられない。

 セーナも今は剣を持ってないので、この家だと今は私が一番戦闘能力が高い。


 少し警戒しつつも扉を開けると、そこにいたのは10歳ほどの女の子だった。

 きれいな赤髪と赤目に、雪のように白く透き通った肌。高級そうな洋服に身を包み、どこかの貴族の子供のように見える。


 ただ、その服は土で汚れており、結構な旅をしていたことがうかがえた。


「えっと、どなた?」


 我が家にこんな子がやってくる心当たりはなかった。


「どなたとは失礼だな、人間。我のことをもう忘れたか」


 少女は、あきれた様子で言った。


 ん? 私こんな子見たことないけどな……?

 あ、でも、もしかしたら魔王討伐後の祝賀会とかで会ってたのかもしれない。


「ごめんね、ちょっと思い出せないからお名前教えてもらってもいい?」


「ふむ、まぁ良いじゃろう。我の名前はリモナ、世界最強の吸血鬼じゃ!」


 少女──改め、リモナは腰に手を当てて、胸を張りながら言った。


 ……って、え? この子今なんて言った?


「吸血鬼……?」


「そうじゃ! 忘れたとは言わせんぞ、あの日、我の魔力吸収(ドレイン)魔法を模倣された屈辱! 今こそ晴らしてくれる!」


 リモナはそう叫びながら私に向かって拳を突き出した。

 その右ストレートは私のおなかにヒットしたけど、全然痛くない。


 一瞬いたずらかと思ったけど、魔力吸収(ドレイン)魔法のことは祝賀会じゃ話してないしな。

 ちょっと信じられないけど、本当にこの子があの時の吸血鬼なのか……?


 いや、でも、あの時はもっと威厳みたいなものがあったし、そもそもセクシーな大人の女性だったよな?


「なんか大きな声がしましたけど、大丈夫ですか?」


 私が悩んでいると、リモナの大声を聞きつけたセーナがやってきた。


 それを見て、またリモナが叫ぶ。


「お前はあの時の剣士! お前もまとめて始末してやる!」


 リモナは無謀にも、セーナに立ち向かうと、さっきと同様右ストレートを打つ。

 しかし、それはあっさりと止められていた。


「あの、この子誰ですか?」


 セーナは、リモナの両腕をぐるぐるして繰り出すやけくそパンチを軽くさばきながら聞いてきた。


「いや、それがついさっき話してた吸血鬼らしいんだけど」

「え、これがですか?」


「これがとはなんじゃ、これがとは!」


 セーナの言葉に腕のぐるぐる速度を上げるも、やっぱり軽くいなされる。

 頭を押さえちゃえば終わりな気もするけど、そうしないのはやさしさなのかな。


 それから十秒眺めていると、リモナの体力も尽きたらしく、肩で息をしてダウン気味になっていた。

 あんなに燃費の悪そうな動きしてればそりゃそうなるよ。


「くう……我が全盛期ならこの程度……」


 リモナは悔しそうに呟いていた。


 全盛期ならってことは、今は能力が落ちてるってことか。

 なんで幼くなってるのかは謎だけど、吸血鬼の生態なんて知らないし、そういうものなのか……?


 まぁ、それはともかくとして


「ねえ、とりあえずうち、上がったら? 」

「な……! 我を家に入れて、何をする気じゃ!」

「いや、何もしないって。服とか汚れてるし、お風呂くらい入っていったら? その代わり、詳しく話を聞かせて」


 貴族の娘にせよ、吸血鬼にせよ、できれば詳しく話を聞いておきたかった。

 もし吸血鬼なら里の人に危害とか加えかねないからね。


「くう……まあ良いじゃろう! すぐに我を本陣に入れたこと後悔させてやるわ!」


 精一杯の強がりを言いながら、リモナは家の中に入っていった。

 ベルカもいるけど、この感じならすぐ対処できそうだし問題ないだろう。

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