1 呪いの内容
それから私たちは魔王討伐を王様に報告し、祝賀会やら、受勲式やら、慰労会に引っ張りだこになった。
これまででは考えられないほどの多額の報奨金を貰い、豪華なご馳走を食べ、いろんな人から称賛を浴び。
そして、気付けば魔王討伐から1週間もの時間が経っていた日のこと。
私はセーナを連れて古い友人の店に来ていた。
「あの、失礼ですが、本当にここにリノンのご友人がいるのですか……?」
「いや、言いたい事はわかる。だけど、悪い人では無いから安心して」
私の横で不安そうに怯えるセーナ。まぁ、無理もありますまい。
なぜか?
それは、友人の店の外観がえらく不気味であるためだ。
三角帽のようにとんがった屋根は不気味に曲がっており、窓は全て遮光カーテンで閉ざされている。その上扉にはめられた窓は霞んでおり、壁の板もつぎはぎだらけ。
平たくいえば、悪い魔女とかが住んでそうな家だった。
「そもそもこの『時計仕掛けの蝙蝠屋』ってなんのお店なんですか……?」
「魔法道具を専門に取り扱ってる店だよ。店名の由来は知らないけど」
開店祝いの時に聞かされた気もするけど、もう忘れたな。
「まぁ、思ってるより怖く無いから。ほら、行こ」
「えっ───」
いつまでも固まってても仕方ないので、セーナの手を引いて店の中に入った。
店の中は魔法道具が所狭しと飾られており、暗い照明も相まって、外観に負けず劣らずの不気味さを醸し出していた。
「いらっしゃ……って、リノンじゃないか。久しぶり」
「レイラ、久しぶり〜」
腰まで伸びる黒髪に特徴的な大きなとんがり帽子。
相変わらずレイラらしい格好だ。
「初めてだと思うけど、こちらがセーナ。私の相棒で、魔王を倒した勇者です」
「あぁ、君がか。私はレイラだ、よろしくな」
「へっ、あっ、はい! よろしくお願いします!」
何か下の方をじっと見ていたセーナは、ハッとしたように頭を下げた。
よくよくみると、いつの間にやら指を組むように手が握られていた。
これっていわゆる恋人繋ぎじゃ───。
「で、今日はなんの用事できたんだ? うちはドロップアイテムの買い付けなんかはやってないぞ。魔王の物とかなら話は別だが」
「魔王関連のやつは国に全部納めたから残ってないよ。そうじゃなくて、今日はちょっと呪いの検査をして欲しくて」
「呪い……? まさかリノンがやられたのか?」
「いや、そうじゃなくてセーナがね」
「なるほど……大体わかった。とりあえず奥の部屋に来ると良い。検査しよう」
さすが話が早いレイラは、私たちを奥の休憩スペースに案内してくれた。
その間ずっとセーナは幸せそうな心ここに在らずって感じの顔をしてたんだけど、大丈夫だろうか?
小さく『てが』って呟いてたんだけど、一体どういう意味なのか……。
ともあれ、休憩スペースに移動した私たちは、机を挟んでレイラと向かい合う形で座った。
「よし、じゃあとりあえず両手を出してもらっていいか?」
「え、両手をですか……?」
セーナは一瞬すごい嫌そうな顔をして、渋々手を差し出した。
なんだろ、触られるの嫌とかなのかな? でも、私とずっと手繋いでたんだけどな。
「ふむふむ、なるほど……」
レイラは虫眼鏡でセーナの手をまじまじと見ていた。
多分あれも魔法道具なんだろう。
「つまりはここがこうだから……うん、分かった」
「え、もう内容がわかったんですか……?」
「いや、さすがにそこまではまだだが、一つ残ってる呪いを見つけた」
残ってるって事は私が解呪したのまで分かってるって事だろう。
さすが、腕は確かだ。
「じゃあ、その呪いの内容調べてもらってもいい?」
「別に構わないが、さすがにここからは有料だぞ?」
「あ、別にそれは気にしなくていいから」
お金なら国から報奨金をたんまり貰ってるので余裕はあるのだ。
「じゃあ先払いで100G頼む」
言われるがまま、私は机に100Gを出した。
それとほぼ同時に、セーナも机の上にお金を置く。
「いや、セーナは私に連れられてきただけだし、気にしないでよ」
「いや、でも私のための検査ですから」
あ、これは譲り合い合戦が始まると思った瞬間、
「じゃ、2人から半分ずつもらっておくよ。これで皆ウィンウィンだ」
レイラがすぐさま止めてくれた。
さすが、魔法学校時代から色々頼りになる。
それから私たちは、魔法道具に息を吹き込んだり、魔力を流したりした後、結果がわかるまで店で時間を潰していた。
そして、1時間後。
「2人とも、待たせた。結果が出たぞ」
そんなレイラの声で、私とセーナは休憩スペースに戻った。
「早速呪いの内容についてなんだが、正直私も初めて見る反応でね。悪いんだけど、確証は持ててない」
レイラにしては随分歯切れの悪い言い方だった。
いつもなら分かるか分からないか、はっきりさせるんだけどな。
「別にそれでも大丈夫。教えてもらえる?」
「私も大丈夫です。教えてください」
「よし、じゃあ驚かないで聞いてほしいんだが……」
そこでレイラはグッとためをつくると、
「セーナには、『自分の気持ちに正直になる』呪いがかかっている」
すごい大真面目な顔でそう言った。
…………ん?
「えっと、正直……?」
頭に大量のクエスチョンマークが浮かぶ。
隣を見ると、セーナも似たような反応をしていた。そりゃそうだ。
「正確にいうと、自制心のハードルがちょっとだけ下がって、言いたい事とかやりたい事を表に出しちゃう感じだな。
これまでギリギリ我慢できてたことができなくなるくらいで、ちょっと生活しにくいだろうが、真面目に生きてれば問題ないと思うぞ」
なるほど、つまり、リンゴが欲しいけどお金がない時、普通なら我慢できてもこの呪いにかかると万引きしちゃうかも知れないって感じか。
でも、セーナはすごい真面目だし、ちょっとハードル下がる程度なら、犯罪とかを犯すこともないだろう。
「な、なるほど……わかりました……」
セーナもギリギリ理解できたようだった。
ただ、この時私たちはこの呪いの効果をあまりに軽視しすぎていたと思う。これからの日常生活に、多大な影響を与えることになるとも知らず……。
──────まぁ、そんなシリアスなことにもならないんですけどね。
納得いかなかったのでガラッと話を差し替えました。
ご迷惑をおかけしてすみません。