14 そこそこ人気なチケット
アイドルのユア……。なんか聞いたことある気がするけど、どこだったか……。
「ベルカはライブ、行ってみたいの?」
「もし行けるなら行ったみたいのだ!」
そういう事なら行ってみるか。
開催日も明後日から3日間らしいし、用事もないから問題ないだろう。
「────ってあ、これ、前売り券はもう販売終わってるみたいだね」
張り紙によれば、一週間以上前に前売り券は売り切れているらしかった。
「それだと、もう行けないのか……?」
ベルカがしゅんとした顔になる。
そんなに行きたかったのか。
「いや、当日券もあるみたいだから、当日早起きして並ぼうか」
「本当か! 約束なのだ!」
ベルカの顔がぱぁっと晴れやかになった。
表情がコロコロ変わっておもしろ可愛い。
1週間以上前に売り切れるあたり、そこそこ人気あるのかもだけど、早起きすれば多分買えるだろう。
「じゃあセーナにも行くか聞かないとね。お土産にクッキーでも買って帰ろうか。……あ、ついでにレイラのとこ冷やかしに行ってもいい?」
「冷やかしって、迷惑じゃないのか?」
「あー、クッキーでも持っていけば大丈夫じゃないかな?」
レイラも甘いものは好きだったはずだし。
邪魔するつもりはないし、忙しそうならクッキーだけ渡して帰ればいいだろうからね。
私たちは早速セーナとレイラ用のクッキーを買うと、例のお店に向かった。
お店の前に着くと、扉に張り紙がしてあった。
「あれ? どうかしたのかな?」
張り紙を見てみると、『大量発注につき、明後日まで休業します』との文字が。
レイラが店を閉めるほどの発注って、どんな量頼まれたんだ……。
「残念だったな、ご主人様」
「まぁ、取り立てて用があったわけじゃないからね。クッキーはみんなで食べちゃおうか」
このまま王都にいても仕方がないので、転移魔法で早速帰宅。
家に帰ると、リビングにセーナがいた。
「あれ、もう帰ってたんだ」
「はい、二人は里……じゃなくて、王都に行ってたんですか」
セーナは私たちが持っていたクッキーと魔導書を見ながら言った。
こんなハイカラなもの、里じゃ売ってないからね。
「うん、これお土産のクッキー。セーナは用事済んだの?」
「は、はい! と、滞りなく!」
少し動揺しながら答えるセーナ。
なんか隠してる……? 呪いのせいで反応がわかりやすいな。
まぁでもセーナに限って悪巧みはしてないだろうし、深く追及するのはやめておこう。
「あ、そうだ奥様、明後日は予定空いているか?」
「え? 明後日ですか?」
「あぁ、王都で『あいどる』の『らいぶ』があるらしいのだ! できればみんなで行きたくて」
「あぁ、ユアさんのやつですか」
なるほどと手を打つセーナ。
「あ、セーナ、そのアイドルのこと知ってるんだ」
セーナってあんまりそういう娯楽を嗜むイメージがないから驚きだ。
「え? リノンは知らないんですか?」
不思議そうな顔でこちらを見つめるセーナ。
ん? どういう事だ?
そんな言い方するってことは、過去にあったことがあるんだろうか?
そういえば、なんか聞き覚えある名前だったし、冒険中にセーナが話題に出したりしてたのかもしれない。
「で、どうだ? 予定は空いているか……?」
ベルカは答えが返って来ず、不安そうに上目遣いで聞いた。
「はい、その日なら大丈夫ですよ。もともと私も二人を誘おうと思っていましたから」
あら、それはすごい偶然だ。
というか、この感じだとユアとかいうアイドルとは、以前何かしらの関わりがあったんだろうな。じゃないとセーナがライブなんて行かないだろうし。
ライブ当日までに思い出さねば……。
「じゃあ、明後日はみんなで早起きしてチケットを買いに行くのだ!」
「あ、それなら問題ないですよ」
拳を突き上げて気合を示すベルカを落ち着かせつつ、セーナは長方形の紙を3枚取り出した。
「これ、ユアさんのライブのチケットです。ちゃんと3枚ありますから、並ばずともみんなで入れます」
「おぉ、いつの間に! さすが奥様なのだ!」
ベルカは両手を上げ、全身で喜びを表していた。
「ほんと、いつの間に買ってたの? それ、1週間以上前に売り切れたって書いてたけど」
「え、そうな───」
セーナは驚いた様子を見せたと思ったら、ゴホンと咳払いをして続けた。
「そうなんですよ〜。前から楽しみで買ってまして〜」
なんかすごい棒読みだ……。何を隠してるんだ一体……。
悪い事じゃないにせよ、流石にちょっと気になるな。
まぁ、わざわざ問いただそうとも思わないけどさ。
「ま、これでチケットの不安も無くなったし、あとは当日になるのを待つだけか」
「だな! いやぁ、『らいぶ』ってどんなやつなのか、今から楽しみなのだ!」
「そうですね、私もいろいろ楽しみです!」
そんなこんなで、それぞれが期待を胸にしつつ、二度夜が明けてライブ当日。
結局私はユアなるアイドルとの接点を思い出せずに、朝を迎えていた。




