12 子供ではない
「2人とも、罠になんか掛かったみたいだから、家戻ってもいい?」
「それはもちろん」
「同じくなのだ!」
2人共なんの用事もないっぽいので、早速帰宅。
家への帰り道は当然、軽い山道になるんだけど、ベルカは何食わぬ顔で登っていた。
メイド服とか着てて動きにくいはずなのに、さすが獣人だ。
「そういえば、なんで罠なんて張ってたのだ?」
帰り道、ふとベルカがそんなことを尋ねてきた。
そういえば罠の説明とか一切してなかったもんな。
「ちょっと動物を捕まえようかなぁとね」
「動物を……捕まえる……?」
ベルカはクエスチョンマークが浮かぶような感じで首を傾げていた。
これは、伝え方が悪かったな。
「実は畑荒らしがいてね。それを捕まえて注意してやろうと思ってたんだよね」
「まぁ、言葉も通じないのでほぼ脅しになりそうなんですけどね……」
いや、まぁそうなんだけどさ。
私としてはできれば対話を所望してるよ。手段がないから結果脅すしかないかもだけどね。
そんな私たちの会話を聞いて、ベルカが元気よく言った。
「動物と会話なら、ベルカできるのだ!」
「え? そんなことできるの?」
獣人とはいえ、動物と会話するなんて聞いた事ない。
「あぁ! まぁ、獣人の中でもごく少数なんだが、ベルカの家族はみんな出来るぞ」
なるほど、獣人って未だに国単位での交流とか無いし、私が知らなかっただけか。
原理としては、特定の血筋だけ使える魔法みたいなのに近いのかな?
まぁとにかく、出来るというのならやってもらうに越したことはないだろう。
「じゃあ、動物の説得はベルカにお願いしてもいい?」
「ああ! もちろんなのだ!」
家に帰ると、畑のところで猪が3頭ほどツタに絡まれていた。
「一応確認だけど、犬じゃ無くても大丈夫なんだよね?」
「もちろんなのだ! 多少勘はいるけど、概ね問題ないのだ」
ベルカは犬の獣人だから、猪はどうなんだろうと思ったんだけど、どうやら問題ないらしい。
ベルカは捕まった猪の元まで移動すると、「バウバウ」と犬っぽい声を出す。どうやらあれが動物語らしい。
そしてしばらくすると、ベルカは駆けて戻ってきた。
「猪たちも、納得してくれたのだ! とりあえず仲間にも伝えておくけど、柵は立てておいた方がいいそうだ!」
なるほど、柵か……。
そういえば里の畑にはあったし、柵があれば襲わない、みたいな暗黙の了解があったのかもしれない。
「それなら早速作っちゃいますか? 木ならそこらじゅうにありますし」
「それもそうだね。ベルカも手伝ってもらえる?」
「もちろんなのだ! ベルカ、頑張るぞ!」
それから私たちはサクサクと柵を立てていった。
……ダジャレじゃないよ?
そして20分ほどで概ね作業は終了する。
出来はまぁ、素人クオリティでタックルすれば余裕で壊せそうだけど、これもまた味って事で。
「よし、柵もできましたし、ベルカさんには家事を覚えてもらいます」
「あぁ、教えて欲しいのだ!」
ベルカはセーナの後ろにくっついて家に入っていった。
私もそれに続いて入る。
教育係はセーナにお任せする事になりそうだな。
いや、私も普段は家事やってるよ? 洗濯とかは魔法の方が早いし。
ただ、だいたい魔法で片付けているので、教えるのはセーナの方が適任だなと思ったのだ。
「私やる事ないな……」
この感じだと教えるついでに家事は終わるだろうし、暇になるっぽい。
「まぁ、二人の様子でも見とくか」
私はリビングが見渡せる場所に座って、二人の様子を観察していた。
見ている限り、ベルカもまじめに頑張ろうとしてくれてるので、セーナも教えやすそうだった。
というか、ベルカが家事をやり出したらいよいよ本物のメイドと化しそうだな。
そんな事を思いつつ、私は一日を過ごしたのでした。
▼△▼△▼△
後日、私たちはベルカを連れてレイラのお店までやってきた。
一応いろいろ協力してくれたので、結果の報告と、ベルカの紹介をしておこうと思ったのだ。
「レイラ、いる〜?」
店に入ると、奥の椅子に座って暇そうに天井を眺めるレイラがいた。
ほんと大丈夫なのかこの店……。
「ん? おお、リノンにセーナ……と、メイド?」
ベルカをみて、首を傾げるレイラ。
そりゃ急にメイド連れて現れたらびっくりもするか。
「色々あって、うちで預かる事になったベルカです」
「ベルカというのだ! よろしくなのだ!」
「おぉ、よろしく。私はここの店長のレイラだ」
雑な紹介だけど、レイラは納得して握手していた。さすがの柔軟さだ。
これなら二人も良好な関係を築いていけそうだね。
「いやぁ、てっきりリノンとセーナで子供でも作ったのかと思ったよ」
「いや、私もセーナも女子だから。子供作れないから」
「でも、魔法使えば何とかなりそうじゃないか?」
「え!? そんな魔法あるんですか!?」
「ないない! 流石に魔法でも無理だから!」
私の言葉にセーナはがっくりと肩を落としていた。
どんだけ期待してたんだよ。
というか、今のところ100%私とセーナの子供と思われているのは何故なんだ……。
似てないどころか、種族違うんだけどな……。
ともあれ、こうして我が家に犬耳メイドがやってきたのでした。