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10 獣人少女

「もし、ちょっとよろしい?」


 とりあえず接触を試みようと声をかけてみる。


 しかし、しばらく待っても返事は返ってこない。


「あの〜もしもし〜」


 私は声のボリュームを上げてみるが、それでもやっぱり返答はなかった。


「あの、リノン。これってもしかして……死んでません?」


「え!? いや、私そんなに強くしてないよ!」


「でも昨日すごいウキウキで罠張ってたじゃないですか!」


 まぁ、確かに昨日のテンションは自分でもどうしたんだとは思ったけど……。

 確かにこれまで魔王を基準に調整してたから自然と出力が上がってたのかもしれないけど……。


 え、もしかして私、()っちゃった───?


 やばいやばい、いくら英雄でも人殺しはまずい!


「ど、どうしよう!」

「えっと、まずはスコップで穴を掘って埋めますか?」

「隠蔽する方向なの!?」

「でも、こんなのバレたら───」


『グゥウウーー』


 私たちが慌てふためいていると、声を遮るようにお腹の音が響いた。

 そして、獣人少女がポツリと一言。


「お腹空いたのだ……」


「「えぇ……」」


 死んでなくてよかったけど、なんとも気合の抜ける……。



 ▼△▼△▼△



 それから10分後、私たちは、獣人少女を含め3人でポーチに座っていた。

 ちなみに、獣人少女はまだ青いトマトを美味しそうにバクバク食べている。


「リノン、どういう状況ですか、これ?」


 隣に座るセーナが、小声でそう聞いてきた。


「いや、さすがに放置は出来ないかなぁって」

「いや、それもそうですけど、それでこの状況なります!?」


 セーナの言うことも、もっともだとは思うんだけどね。


「あんなにお腹空いてるってことは犯人でもないだろうし、飢え死にとか可哀想でしょ。あと、いろいろ話も聞いてみたいし」

「うぅ……まぁ、リノンのお人好しも今に始まった事でもないですし、いいですけど……」


 セーナは諦めた様子でため息をついた。

 私ってそんなお人好しだろうか……?


「ケプゥ……美味しかったのだ!」


 私たちがそんな話をしていると、獣人少女は満足そうにお腹をさすっていた。

 とりあえず窮地は脱したっぽいな。


「満足してもらえたなら何よりだよ」


 レイラのお陰でだいぶ短縮してるとはいえ、一応自分で作った野菜だからね。

 美味しいと言ってもらえたら悪い気はしない。


「お腹空いて死にそうだったから、2人はベルカの命の恩人なのだ!」


 獣人少女───もとい、ベルカちゃんは、屈託のない笑顔で言った。


「そうですよ〜心優しいリノンに感謝してくださいね!」


 セーナが胸を張って言った。


 なぜにセーナが得意げなんだ……。

 まぁ別にいいんだけどさ。


「それはもう感謝してるのだ! えっと、名前は確か……」


「あぁ、そういえばまだ名乗ってなかったね。私がリノンで、こちらがセーナ」


「おぉ、リノンにセーナ! ベルカの名前はベルカなのだ!」


 ビシッと手を上げて名乗るベルカちゃん。


 見た目が10歳くらいなだけあって、所作が幼くて可愛らしい。


「ちなみにベルカちゃんはどこから来たの?」


「どこからって、普通に村からだぞ」


「って事は、近くにお父さんかお母さんがいるのかな?」


 通常獣人は南の方の種族で、こっちにはそうそう来ないから、考えられるのは移住途中で迷子になったとかだろう。

 その場合、親探しくらいはしてあげようと思ったのだ。


「いや、両親はどっちも村に残っているぞ」


 あれ? って事は、こんな子供を一人で送り出したって事だろうか?


 ……いや、でも獣人のいるエリアまでは結構距離あるぞ。


 もう考えても分かりそうになかったので、ベルカちゃんに質問する。


「ベルカちゃんがどうやってここまで来たかって説明できる?」


「うむ、構わないぞ! ベルカは奴隷商人に捕まって王都に連れていかれる途中だったのだ! でも、魔物に襲われて馬車が壊れたから、逃げてきたらここに行き着いたって感じだ!」


 おぉ、思ったよりもハードな答えが返ってきた……。


 確かに獣人は奴隷として狙われやすくはある。

 身体スペックの高さだったり、丈夫さだったり、繁殖力が他の種族よりも優れているからね。


 ただ、話に聞くだけで実際に見た事は無かったし、実際目にするとなかなかショックは大きかった。


 倒れるほどお腹が空いていたのも、命からがら逃げてきたからなんだろう。


 結構明るく振る舞ってるけど、辛かったんだろうな……。

 微力でもいいから、力になってあげたかった。


「ねぇセーナ、ちょっと相談があるんだけど」


 というわけで、セーナに小声で相談。


「言いたいことは分かります。送り届けてあげようみたいな話ですよね」


 おぉ……見透かされてた。


「ダメかな?」


「ダメとは言わないですけど、獣人の町までひと月はかかりますよ?」


 うっ……確かにそのぐらいかかるよな……。


 行ったことないから転移魔法も使えないし。


「スローライフを送ろうって言ってたのに早速それじゃあ、今後もキリがなくなると思うんです」


 それもそうだ。

 まだ隠居から2週間も経ってない。なのにひと月かけて冒険っていうのは、ちょっと厳しいよな……。


「それに、多分、今のベルカさんの体力でひと月の移動は無理でしょう」


「確かに……」


「そこで一つ提案なんですが、体力が回復するまで、とりあえずベルカさんをうちにおいてあげるというのはどうでしょうか?」

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