8 怒らせちゃいけないタイプの人
───そして翌日、畑の植物はさらに成長し、立派なトマトを実らせていた。
「おぉ、これは凄い」
「本当に成長早いですね」
「凄いだろ?」
結局我が家に泊まっていったレイラが自慢げに言った。
いい加減にお店空けすぎじゃともおもうけど、本当に大丈夫なんだろうか?
流石にうちに通いすぎて潰れましたとか言われても、責任取れないよ?
そんな私の心配をよそに、レイラはトマトの様子をじっくりと観察していた。
まぁ魔法道具の実験といえば実験だし、仕事と言えなくもないのか。うん、そう思っておこう。
「あ、これまだ青いな。収穫するには早い」
レイラが少し残念そうに言った。
確かに、よくよく見ると少し赤らんでいるだけで、上の方はまだまだ緑色だ。
ここで収穫してもあんまり美味しくないんだろうな。
「後どのくらいで収穫できそう?」
「多分、2時間くらいだな」
今6時だから、収穫できるのは8時ごろか。
これでもちょっと遅いと思ってしまうから、レイラの発明は恐ろしい。
「あ、それならもうちょっと待って採れたてを朝ごはんに使いませんか?」
「おぉ、いいね!」
正直軽くお腹空いてきてるけど、我慢してでも食べてみたい。
採れたてって響きがいいよね。家庭菜園の醍醐味だと思う。
「あ、それ、私も食べていいか? 魔法道具で作った野菜の味を確認しておきたいんだが」
レイラは少し恥ずかしそうに言った。
「そりゃこんなタイミングで帰れなんて言わないよ」
「はい、お皿もちゃんとありますから安心してくださいね」
「すまん、助かるよ」
それから私たちはレイラの持ち込んだトランプで遊んだ。
ただ、セーナがものすごく弱かった。
まぁ、呪いのせいで全然表情隠せてなかったからね。
仕方ないと思う。
「次こそ負けません!」
「じゃあまずポーカーフェイスの練習からだな」
レイラは勝者の笑みを浮かべていた。
「それだと呪い解くしかないかもね〜」
セーナの元々の強さを知らないけど、多分呪い解かなきゃ勝ち目ないと思う。
「うぅ……初めて呪いが煩わしいです……」
セーナは口を尖らせて拗ねていた。
ちょっと可愛いな。
あ、ちなみに私とレイラは五分五分でした。
どちらも強いってわけじゃないから、まぁ妥当だろう。
と、そんなこんなで2時間後。
トマトももう熟しただろうということで、畑に出たんだけど───
「なに……これ……」
「これはひどいな」
「誰がこんなこと!」
私達は一様に衝撃を受けていた。
あんなに実っていたトマトが全て取り尽くされていたのだ。
畑は獣の足跡で踏み荒らされて、茎も何本か倒れてしまっている。
一言で言えば、畑が荒らされていた。
「残った足跡からして野生動物ですかね……」
セーナが畑の様子を調べながら呟いた。
肥料について聞いた時、農家さんからは特に畑荒らしの被害は聞かなかったんだけどな……。
でも山の中だし、立地の問題なのかもしれない。
こうなったらもう、あれしかないな。
「ごめん、レイラ、トマトの種ってまだ残ってる?」
「あぁ、店に残ってはいるが……また育てるのか? 次もこうなりかねないぞ?」
「いや、大丈夫。次は罠を仕掛けるから」
自然の摂理で言えばなってる物を食べるのは自由であると思う。
でも、せっかく畑を耕してまで作った物を横取りされて黙っていられるほど私は優しくなかった。
「まだ見ぬ野生動物め……絶対捕まえてやる……!」
まぁ捕まえたからってどうするわけでもないんだけど。
というわけで、早速罠の作成に入る事にした。
「さて、どんな罠にしようか」
「あの、さすがに命を取るようなのはやめてあげてくださいね……」
「やだなぁ、さすがに私もそこまで鬼じゃないよ〜」
さすがに野菜くらいで命は取らないよ? うん、命は取らないよ。
「なぁなぁセーナ、どう思う?」
「あれは若干怒ってる時のリノンですね」
「だよなぁ……。リノン、怒ると何するか分からないもんな」
「冒険してる時も一回ありました……。あれは怖かったです……」
「こら2人とも、聞こえてるからね」
私って怒ったらそんなに怖いだろうか?
そもそも怒る事自体少ない方だから、あまり実感がない。
「基本温厚というか、傍観的だからより怖いんだよ」
「まぁジト目でキリッと睨まれるのも悪くないんですけどね〜」
「私にそっちの趣味はないから分からんが、昔はずっと───」
「レイラ、昔の話は禁止」
私はすぐさまレイラの言葉を止めた。
昔は私もキャラが結構違ったからね。
そのあたりをセーナに話されるのはちょっと恥ずかしいものがある。
「あ、あぁ、すまんすまん」
「え? 昔がどうかしたんですか?」
「魔法学校時代の話だよ。まぁ気にしないでくれ」
本当、気にしないで欲しい。
誰しも知られたくない黒歴史の一つや二つあると思うんだよね。
と、そうこうしているうちに、私の罠魔法陣も完成した。
「よし、これでいいかな」
「どんな魔法にしたんですか?」
「とりあえず、動物の侵入を感知したら拘束魔法が自動で発動する感じかなぁ。一応虫なんかは捕まえないよう大きさに制限かけてるけどね」
足跡から想像できる動物よりも一回り小さいのを最低基準にしてるから、多分捕まえられるはずだ。
次に私はその辺に落ちてる枝を2本拾うと、それに魔力を込めた。
「はい、罠張ってる間はこの枝持っとくようにして。私の魔力がないと人間相手でも発動しちゃうから」
「はい、分かりました!」
「OK、了解した」
よし、これでとりあえず大丈夫かな?




