プロローグ
新連載です! よろしくお願いいたします!
「たぁ!」
私は大声を上げながら、魔王に向けて小さなファイアーボールを10個ほど飛ばす。
「ふん、この程度!」
魔王はそれを軽々と手で払いのけた。
まぁ声なんて出せばバレバレだし、そもそもファイアーボール程度じゃ魔王相手にはダメージもいかないからね。
でも、別にそれでいいのだ。
「さすがです、リノン!」
声とファイアーボールで作った隙を狙って、相棒のセーナが魔王を斬りつけた。
「グ、グァァァ!!」
魔王に結構なダメージが入る。
さすがに斬られるのはキツいらしい。
でも倒れたりしないのは、さすが魔王か。
「よし、決めるよセーナ!」
「分かりました!」
合図とともに、私は魔王に向けて拘束魔法をかける。すると地面から現れたツタが手足を拘束した。
万全の状態の魔王なら簡単に引きちぎれるんだろうけど、さっきの傷もあって苦戦しているようだ。
その隙に、セーナは剣に魔力を込めはじめる。
そして、私のツタが全て千切られるのとほぼ同時に、セーナの準備が完了した。
「リノン! 援護頼みます!」
「オッケー!」
私はすぐさま魔王に視界暗転魔法をかけた。
魔王を封印するには、勇者が魔力を込めた剣で心臓を一突きする必要がある。
その為、さっきのような拘束魔法だとセーナの邪魔をする可能性があったからだ。
流石の魔王といえど、手負の上、目が見えない状態で勇者と渡り合える訳もなく、気付けばセーナの剣は魔王の心臓を捉えていた。
「グゥ……貴様ら、絶対に許さんぞ」
胸を押さえ後退りながら、魔王は声を絞り出す。
「素晴らしい連携……しかし、それがなければ我の勝ちであった……」
確かに、ステータス的には圧倒的に魔王の方が強いし、私1人でもセーナ1人でも倒せはしなかっただろう。
でも、そこについて文句を言われるのは心外だ。
「確かにね。でも、そんなの負け惜しみにすぎないでしょ」
「はい、私たちは2人で最強の勇者パーティーですから!」
「そうか……ならば、これで終わりだな」
遺言のようにつぶやいた瞬間、魔王から黒い瘴気が溢れ出した。
これは……呪いか!
「セーナ! 避けて!」
とっさに叫び、防壁魔法を展開する。
防壁魔法は私を中心にすぐさま周囲へ広がっていく。
だが、あと一歩のところでセーナは瘴気に飲まれてしまった。
「ぐあぁぁぁ!!!!」
「フハハハハ!! これで貴様らも終わりだ! これで我が復活した時誰も止められまい!」
魔王は気味の悪い笑い声をあげながら、霧となって消えた。
本当にちゃんと封印できたか確かめたいところだけど、今はそれどころではない。
「ぐぅ……!」
「セーナ! 大丈夫!?」
急いで駆け寄ると、セーナは胸を押さえながら倒れ込んでいた。
「えっと……と、とりあえず解呪魔法を!」
急いで解呪魔法をかけると、少しだけ楽そうになった。
「はぁ……はぁ……ありがとうございます。おかげさまで楽になりました」
「いやごめん、完全に油断してた……。まさか最後に呪いをかけてくるとは……」
「いえ、油断していたのは私も同じです。すぐにリノンの方に駆け寄るべきでした……」
さすがセーナ、あの状況でも私が防壁魔法を展開したのに気付いていたとは……。
「とりあえず、帰還魔法だけ展開しとくね。発動まで3分くらいかかるけど、なんかやって欲しいこととかある?」
「そうですね……じゃあ、膝枕をお願いします」
「膝枕? そのくらいなら別にいいけど……」
あれ? もっと『もう一回解呪魔法を』とか『回復魔法を』とかを予想してたんだけどな。
まぁでも寝る体勢としては枕ぐらいあった方が楽は楽か。
「あぁ……フニフニでいい感じです」
セーナは頭を乗せるや否や、幸せそうな顔でそう呟いていた。
一応気にしてるから、フニフニとか言わないで欲しいなぁ……。
「極楽浄土です……」
「え、そこまで……?」
「はい、これに勝るものはこの世にないです」
えらい高評価だな私の太もも。
……これはダイエットでもしたほうがいいか?
「それにしてもリノン、私たちやりましたね」
「あぁ、うん、そうだね」
そう、呪い事件のせいでなんとも言えない気分だけど、私たちはついに魔王を討伐したのだ。
まぁ正確にいうと封印に近く、50年もすれば新たな魔王が生まれるんだけど、それでも討伐は討伐だ。
「これでようやくですね……」
「うん、ようやく……」
「一緒に暮らせますね!」
「世界が平和になるね」
…………あれ?
「えっと、一緒に暮らす?」
「そうですよ、以前約束したじゃないですか! 魔王が討伐出来たら田舎で一緒に静かに暮らそうって! ……もしかして忘れたんですか?」
あれ? そんな約束してたっけな……?
確かに魔王討伐が終わったら、田舎でゆっくりしようとは思ってたんだけどね。
まぁでも、別にセーナと暮らすのも悪くないだろうし、断る理由もないか。
「ごめん、正直覚えてないや……。でも、一緒に暮らすのには賛成だからさ。王都に帰ったら田舎の一軒家でも探そうか」
私の言葉を聞いて、セーナはガバッと起き上がった。
「本当ですか! 約束ですよ!」
どうしたんだ、すごい興奮してるな。
「うん、今度は忘れないから。だからとりあえず安静にしておかないと」
「いや、でも、約束ですからね! 絶対ですよ!」
「分かってるってば」
「むぅ……。あ、それなら───」
セーナは何か閃いたような顔をすると、改めて私の方を向き直し、
「……っ!」
それはそれは静かにキスをしてきた。
え、なにこれ!? すごいナチュラルにキスされてるけどなにこれ!?
セーナは動揺しまくる私をよそに、3秒ほどで私から唇を離すと、
「じゃあ、これが誓いのキスってことで」
そう、いたずらっぽく微笑むのだった。
─────────へ?
大きな疑問と、生々しい唇の感触を残しつつ、帰還魔法は発動し、目の前は真っ白に染まっていった。