一話 女の子として転生
「おい、五十嵐。この仕事やっといてくれ」
「五十嵐! いいところにいた! ちょっと今日彼女とのデートがあるからさ、掃除当番変わってくれない?」
「ちょっとこのプリント私の代わりに職員室までもっていってくれる? あ、あなたに拒否権無いから」
と、まあこのように俺は学校で扱き使われていた。なぜこんな風になってしましたのかは自分でも分からない。
今更断ることもできず、俺は学校での生活が嫌になっていた。
俺の生きている意味といえば家に帰って深夜までやり続けるネトゲと理想の女の子が溢れているアニメだ。それがあるから学校に行けているようなものだ。
今日も今日とて急いで帰路を走っていると面倒くさいやつに絡まれてしまった。
そいつは俺に命令してくる奴の中でも取り分けウザい奴だった。
「あ、五十嵐じゃーん、偶然だね。今から彼女とデート行くんだけどさ、最近金欠でさ、お金貸してくれなーい?」
こいつにお金を「貸す」というのは「あげる」に等しいことを俺はもう知っている。そんな奴のために俺はまた命令に従うのか?
「…やです」
「あ? なんて言ったんだよ、聞こえねえよ」
「…嫌です」
そういった瞬間俺は汚い拳で殴られた。俺は地面に倒れこみ、殴られた頬を左手で抑えていた。
「お前みたいな童貞が俺に逆らっていいとでも思ってんのか? そうやって口答えするから俺に殴られるんだよ」
あいつはそう言い終わる前に俺の頭を数回踏み付けると、勝手にバッグの中を漁り始めた。
俺が強かったらよかったのか? 俺が美少女だったら奴は俺に媚びていたのか? そんな考えても仕方のないことを朦朧とした意識の中で考えていた。段々と意識が遠のいていく。
「じゃあ、精々そこで悔しがりながらくたばってるんだな」
立ち去るあいつを見たのを最後に、俺の瞼は閉じてしまった。
★ ★ ★
目が覚めると俺はベッドに横たわっていた。きっと気絶していたところを誰かが発見し、救急車でも呼んでくれたのだろう。
体を起こし、ぼーっとあたりを見回した。そして分かった。
「ここ、どこ?」
なんか声も変になっている。でも今はそんなことはどうでもいい。
俺がいる部屋の壁と床、天井は木の板で出来ており、柱には細い丸太が使われていた。内装はとても質素で、机と椅子が一つずつ部屋の中心に置いてあり、クローゼットが部屋の端っこに置いてあった。
窓の外を見ると同じような家が遠くに何件か見え、空にはウサギが飛んでいた。そう、ウサギが空を……いや、ウサギは空を飛ぶはずないだろ。
ついに幻覚まで見え始めたのだろうか。
俺がベッドの上にいるまま呆然としていると、突然家の扉が開かれた。
「あ、お嬢さん。起きたんですね!」
家に入ってきたのは何かがパンパンに入った茶色い紙袋を抱えた男の子だった。
彼を一言で言い表すなら『美少年』という言葉が一番だろう。水のような透明感がある水色の髪の毛に、見つめたものをすべて浄化してしまいそうな透き通った瞳をしていた。男の俺ですら惚れてしまいそうだ。
そんなことより、彼は気になる発言をしていた。
「お嬢さんって誰ですか?」
「何を言ってるんですか、この家の中にいるお嬢さんなんて、あなた一人ですよ?」
彼は紙袋を机の上に置きながら何の疑いもなく言ってきた。
俺が女の子? そんな訳がない。俺は正真正銘、下半身にエクスカリバーだってある男の子だ。
疑問に思いながらふと下を見ると、そこには衝撃のモノがあった。そう、『アレ』である。クラスの女の子の誰よりもでかい『アレ』が。
俺は急いで股間を触ってチェックした。エクスカリバーは無くなっていた。髪の毛もよく見たら長い。
起きたら見覚えのない家におり、空にはウサギが飛んでいた。そして俺は『女の子』になっていた。
これはどう考えても、『異世界転生』だろう。