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異世界転移とそれぞれの幸福

異世界に行った姉の代わりに結果的に見返してあげた。ーー私の夫が。

作者: 夏月 海桜

前作【元の世界に帰るため子どもを産みます。】の妹視点でその後の元カレと元親友です。

私とお姉ちゃんは元々物凄く仲が良いわけじゃなかったけれど、だからといって仲が悪いわけでもなく普通の姉妹だった。仲がおかしくなり始めたのは多分私がデキ婚だったから。何となく順番を間違えた事が自分の中でショックだったんだと思う。それから悪阻がある中で結婚式の準備をして(式を挙げるつもりは無かったけど向こうの親が挙げろって言うから)結婚式を行って夫のマンションで新婚生活をスタートさせつつ妊婦健診で……。目紛しく環境が変わって正直辛かった。保険証一つだって名字を変えるから申請しなくちゃだし通帳だってそう。転居届とか友人に引っ越しましたハガキを出すとか。急遽決まった結婚だったから……というか何も考えていなかった私たちだったから、私は孤独感を覚えていた。

そんな私を夫よりもお母さんとお姉ちゃんが支えてくれて。お父さんが病で死んでしまってから1人暮らしだったお母さんが時々様子を見に来てくれる事が嬉しかった。やがて出産すれば今度は子育てに追われてずっと泣きっぱなしだから私も眠れないしオムツを替えてもミルクをあげてもなんで泣いているのか分からないし。そんな時もお母さんが抱っこ紐を使うと良いよと教えてくれて。そうやって何とかかんとかやって来た。夫の母親とはまぁ反りが合わないので付かず離れずの距離を保っている。突然マンションに来るからやんわりと前もって連絡を下されば有り難いって言うのに全く聞いてくれないし。夫は私の話を聞いてないのか自分の親なのに「まあまあ落ち着けよ」とか言って終わるから意味が無い。






そんな日々を過ごしておよそ3年。お姉ちゃんが娘を可愛がるけど甘やかすものだから疎遠になっていたら、いきなり手紙が届いた。曰く、お母さんをよろしくね。という短い手紙で。全くもって意味が分からない。取り敢えず夫に実家に顔を出す予定を話せば「分かった」と頷いた。私とお姉ちゃんが疎遠になっている状況にヤキモキしているのが、実は私の夫だった。なんでも夫に「あなたは冬華と結婚してくれた方ですから義弟ですね。冬華と結婚してくれてありがとう。あの子と子どもを守れるのはあなただけなのでよろしくお願いします」とお姉ちゃんは頭を下げたらしい。そういう事を言われて漸く自分が結婚した事を実感したそうで。

別に夫に守られる妻になる気は無いけど夫に自覚を促してくれた事は素直に嬉しく思えた。それもあって1年ぶりにお姉ちゃんとお母さんに会ったわけだけど。そこでまさか、イイトシしたお姉ちゃんが厨二病を発症するとはこれっぽっちも思ってなかったから、真剣に脳外科にでも連れて行く必要がある? と考えていた。








久しぶりに会ったお姉ちゃんからスマホのアルバム機能で見せられた外国人の男と子ども。一体誰? と尋ねれば夫と息子だって言うから驚き。更にはその荒唐無稽な話にお姉ちゃんが壊れた……と本気で考えた。でもお姉ちゃんは至極マトモだった。付き合ってたカレシはどうするのか確認すれば浮気していた、と教えてくれた。挙げ句最後にはお姉ちゃんの所為にしていたそうで呆れて物を言えなかった。話している最中に強烈な光が差し込んで目が開けられなくて。元気でね。って別れの挨拶を聞いて目を開けたらお姉ちゃんは忽然と消えていた。








正直、えっ⁉︎ マジ? 隠れてるとかじゃなくて? って思ったんだけど。お姉ちゃんの靴は全部あるしお母さんの靴も全部ある。ついでに私の靴もきちんとあって外へは行ってない。……さすがに裸足は無いでしょ。かと言って家中探しても居なくて。お母さんはお姉ちゃんの話を本気で信じていて。まぁ私も信じるしかない状態で。話している時にお姉ちゃんがメッセージアプリで送ってくれた外国人の男と子どもの写真を見て。結局信じたくないけど信じた。

ちなみに帰宅して夫に話したら夫は「異世界⁉︎ マジであるの⁉︎ 俺も行ってみたい!」と叫んでた。そういえばサブカル好きで異世界系の作品とか好きだったっけ、この人ってすんなり話を受け入れた夫の懐の深さをこんな事で知った。


「じゃあお義姉さんにはもう会えないんだね」


しみじみとした口調の夫。そう言われて改めて理解する。ああそうか。お姉ちゃんにはもう会えないんだって。だからこそお姉ちゃんは私と話したかったのだろう。……会って良かった。それから夫とお母さんと3人で話し合って。お姉ちゃんの貯金を通帳から引き出して娘の通帳に入れ替えた。姪っ子大好きなお姉ちゃんだったから姪……つまり私の娘に使うことはとても喜んでくれるだろう、と。







あれから2年が経つ頃。

夫の実家に帰省した後、今度は私の実家に帰省していたある日のことだった。チャイム音にお母さんが反応したので何とはなしに玄関に意識を向けていると聞きたくもない声が聞こえてきた。


「秋菜はここにいるんでしょ?」


「玲緒奈ちゃん。あなた常識外れね。久しぶりに会った私に対してまともに挨拶も出来ないなんて!」


ーーそう。何故かいきなり玲緒奈が現れた。


「それどころじゃないです! おばさん秋菜の居所を教えて!」


それどころじゃない? は? お母さんに向かって何様のつもりなんだ、この女。私が出て行こうとしたところへ夫が出て行った。……へ?


「お義母さん。どうかしましたか?」


なんて話しかけてる。玲緒奈も第三者が現れた事で黙った。


「あなた、誰?」


「人に名前を聞く時は自ら名乗ると聞いていますが?」


……えっ。ホント誰。夫が夫以外に思える。


「分かった! あなた秋菜の恋人ね⁉︎ それなら良かったわ! これで正樹も秋菜の事を諦めてくれる!」


この女、言うに事欠いて阿呆な妄想を始めたわね。というかお姉ちゃんのカレシ寝取っておいて良くまぁ平然と顔を出してくるな。


「俺は冬華の夫ですが」


「えっ? 冬華の? じ、じゃあ秋菜は? まだ独身なの?」


「あなたはさっきから常識外れですね。さすが親友の恋人を寝取った常識外れの女性だけある。おまけにそんな浅ましい事をしておいて元親友の家に連絡もなく押し掛けた挙げ句当たり前のように友達みたいに名前を呼ぶ。家族に挨拶もしなければ謝る事すら無い。次にこんな事を仕出かしたら警察を呼びますよ!」


あら。随分と夫がまともなんだけど。どういう風の吹き回しかしら。


「警察⁉︎ ちょっと私と秋菜は親友でおばさんと冬華とも私は仲良し」


「……のわけないでしょ。ふざけないで。田中さん。お姉ちゃんと親友なんて良く言えますね。しかも私と母とも仲良し? さすがお姉ちゃんのカレシである片瀬さんを寝取るだけあって図々しいことを平気で言いますね。お姉ちゃんはもう居ませんよ」


「冬華。あなた年上の私に向かって」


「名前を軽々しく呼ばないで。それから年上ならば母に挨拶無しのあなたの態度はなんなのでしょうね」


私は玲緒奈と話す気は無い。言いかける度に被せてやっている。


「それにお義姉さんである秋菜さんは、あなたと恋人の片瀬正樹さんとの関係に傷心されて旅行に出かけた先でとある外国人の方と知り合ってご結婚されました。向こうで暮らしていますから日本に居ませんよ」


すかさず夫がそんな事を言う。確かに傷心しただろうし写真を見るに外国人にも見えるけども。そして日本にも居ないだろうけど。えっ? この人ホントに私の夫???


「は? 外国? えっ? 秋菜は英語なんて出来ないじゃない!」


「お相手は日本語が出来ますから問題無いでしょう」


「一体どこの国に行ったのよ! 嘘だとバレるわよ!」


「国名は出せませんが写真は有りますよ」


夫がスマホから何枚かの写真を見せた。……えっ。この写真どうしたの。お姉ちゃんとその夫と息子が写ってるやつとか結婚式の写真とかなんだかお城っぽい風景の前にお姉ちゃんとその夫が写ってるやつとか……。疑問だけど黙っておくことにしよう。


「本当に本当なのね……。でも私結婚式に招待なんて」


「するわけないでしょ。本当にバカなの? なんで自分の恋人を寝取った女を友人ですって言って結婚式に招待するの?」


玲緒奈の神経を疑う。あまりにもバカバカしすぎてついバカなの? と言ってしまった。バカなの? って疑問じゃなくてバカだからこういう言動になるのよね。


「お分かり頂けたなら帰って下さい」


うちの夫が玲緒奈を諭す。どこかまだ納得していないらしい玲緒奈はそれでも警察って言われた所為か帰ろうとしたところで新たな招いてない客が現れた。ーー正樹さん。

つまりお姉ちゃんの元カレの襲来。







「今更秋菜に何の用ですか」


おおっ。お母さんも結構怒ってるわぁ。そういえばそうか。プロポーズもされたって言ってたから式場探しとか婚約指輪とか楽しみにしてるってお姉ちゃんはお母さんに話していたらしいもんね。それがお姉ちゃんの親友と浮気。それもベッド上・裸・キス付き・「好きだよ」だっけ? はい、アウトーッ!


「秋菜はどこにいますか? 秋菜のアパート行っても引っ越したのか居ないし勤務先にも居ないし此処に来るしかなくて」


はー? 別れてから何年経つと思ってるんだ? この男は。


「秋菜は結婚して外国に行きました」


お母さん。さっきのうちの夫の嘘をそのまま伝えちゃって。馴染んでるね……。


「嘘だ! 秋菜は俺のことが好きだって言ってた! プロポーズしたのに!」


「それなのに他の女とベッドの上でいかにも致してましたーって状況は浮気って言うと思うんだけど」


正樹さんが阿呆な事を平然と言うから私が突き付けてやれば彼は「それはだって」とか言い出した。子どもか。


「それはだって秋菜が仕事を優先して俺となかなか会ってくれないし。会ってもヤらせてくれないし。だからさせてくれる玲緒奈の方が……。でも結婚するなら家事も出来ない玲緒奈よりメシと掃除が出来る秋菜の方がいいから」


お姉ちゃん。今更ながらこんな男のどこが良かったの? と激しく聞きたい。でもそういえば正樹さんは多少子どもっぽいのよね。と言ってた気がする。結構付き合い長かったもんね。お姉ちゃん達。

とはいえ、お姉ちゃんの事を家政婦か母親と勘違いしてるこの男にはさっさとお引き取り願いたい。ついでに隣でべったりと正樹さんにくっついている玲緒奈にも。つか、アンタ家事が出来ないって言われてますけど。それでも結婚したいのかね。アレか。30歳まであとちょっとだから焦ってるのか。

昔から玲緒奈って専業主婦が夢だとかって言ってたしね。まぁ今となってはどうでもいいけど。


とにかく現実を突きつけるために私の夫がスマホから先程の写真を見せた。


食い入るように見つめる正樹さん。


「これ、加工じゃないの?」


「そんな事をして何の意味が?」


正樹さんがそんな事を言う。夫は呆れたような口調で否定する。あー、加工か。成る程。夫ってそういう作業得意だもんね。


「そんな都合良く外国人と知り合うなんて思えない」


そうきたか。まぁ確かにそうだよね。


「姉は傷心旅行中、その方と知り合って彼が姉に一目惚れしたそうです。で。彼はそこそこに名家の家らしくて結婚と子どもを急かされたそうで。そんな話を姉に聞かせてその上で姉に自分の子を産んで欲しいと迫ったそうです。姉はあなたと別れた傷が癒えるかもしれない、と快諾したそうです。なんだかんだで姉も一目惚れだったんじゃないですかね」


私がそんな説明をすれば正樹さんは意気消沈した。


「秋菜の連絡先は」


「教えるわけないでしょ。理解したなら帰って下さい。警察を呼びますよ」


正樹さんがまだそんな事を言うから私もそう言ってやった。もう一度夫のスマホに写る写真を見た後スゴスゴと正樹さんは帰った。腕にべったりくっついた玲緒奈を連れて。


「はぁようやく帰ってくれた」


私がグッタリすれば「お疲れ」とでも言うように夫が頭をポンポンしてくれた。……こういう時に然りげ無く労ってくれるから私はこの人と続いているんだよな。そう思いながら夫に写真について尋ねた。


「うん。片瀬さんの予想通り合成写真」


やっぱり。しれっと答えた夫に呆れながらも私とお母さんはクスクス笑った。

ねぇ、お姉ちゃん。あなたの傷ついた出来事は私の夫がしっかりと見返してあげたわ。

私はお姉ちゃんと話せたらそんな自慢をしたいな、と思う。きっとお姉ちゃんは私と私の夫に凄く感謝してくれるに違いない。そういう人だから。






さて。それからと言うと。


「冬華」


「んー?」


「お義母さん1人じゃ可哀想だしそっちに引っ越すか」


と夫が言い出した。えっ? ホントにあなたは私の夫ですか?


「どしたの急に」


「いや。お義姉さんが居なくなったって聞いた時から考えてたんだ。前は、さ。お義姉さんが居るからお義母さんの事は考えていなかったし。うちの親の事とか考えてたし。でもお義姉さんが居ないならお義父さんも居ないからお義母さんが1人だろ? だったら一緒に暮らせば良いと思ってさ。俺の親はもう説得済み。母さんは結構反対したけど、俺以外に子どもが居るのだから別に良いだろって話した」


……本当に本当にほんとうに。この人は一体誰なのでしょう?


そんな事を思いながら私は夫の話を受け入れ(反対する理由無いし)お母さんと夫と娘と暮らし始めた。

最初は妹自身が見返してやる予定だったのですが書いてるうちに妹の夫が見返してやる結果に……。何故。


あ。夫の名前は出してないのはわざとです。考えてないから……とかそんな理由じゃないか?と考えた方正解です。夫の名前考えてないです……。

というところで、終わります。

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