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6.ホームラン級の戦闘術?

切っ先が空を切る――。


「!」


紙一重で避け続けたのはラッキーだ。

しかし地に這うツタに足を取られて、それもお終いらしい。


「ぅ゛っ」


辛うじて受け身は取った。

しかし瞬間、唸りを上げて振り下ろされた大斧。

眼前に迫る。


『マサっ!!』

「ぐァ……ッ」


獣ような声を上げ地を転げた。

頬に小さな痛み。

そして目の端に散った飛沫の赤。

大斧は大きくツタをぶった斬る。

舞い上がる土煙。

……少年が笑う。


「すばやいな」

「そりゃ、どーも」


頬をぬぐい、手の甲についた血を苦々しく思った。


「突然攻撃ってのは、この世界ではアリなのか?」

「先制攻撃、ってやつだよ。おにいさん」


イマイチこれも分からん。

どうやら先程のモンスター戦とは、かってが違うらしい。


「それにしても、素手でここにくるなんて。ナメられたものだね。人間のクセに」


その言葉に立ち上がり、肩をすくめる。

こりゃ弁解しないと。


「武器が、使わせてくれねーんだ。俺のせいじゃない。あと確認しとくが、お前がミヨちゃんをさらったモンスターか?」

「そうだとしたらどうする?」

「質問を質問で返すなと学校で――って。なんでもない」


この世界に学校なんて珍しいんだったな。

ましてやモンスターだ。

俺はため息をつくと、相変わらずやる気なさげに浮かんでいる金属バットを引っつかむ。


『ちょ、なにすんのよーっ!?』

「うるせぇ! こんな時くらい役に立ちやがれっつーの」

『イヤよ、切られたくないし』

「聖剣だろ」

『金属バット!』


さっきとは真逆のやりとりに、くすりとも笑えねぇ。

とにかく小うるさいコイツを無視して、俺は金属バットを構えた。


「一発場外ホームラン、いきますかぁ」

『うわ……なんかオヤジくさい』


うるせぇよ。元オッサンなんだから仕方ねーだろ。

聖剣という名の金属バットを手になじませながら、チラリと親父を見た。


「イヤッフゥゥゥゥ!」


相変わらず松明をグルグル回しながら、奇妙な歌を歌い続けるピエロ。

なんとまぁ情けない姿になってやがる。

普段からこのイイカゲンな世界の住人らしく、ろくに貯蓄もせず気楽な男ではあったが。

本当に、俺の前世じゃ考えられない。


「勇者もモンスターもうんざりだ。いっちょ、かっ飛ばして村に帰るぞ」

『だからオヤジくさいっば』

「うるせぃ。オヤジのなにが悪い」


軽口たたきながらも、素振りを数回。


――さて。バットを握るのも前世ぶり。

それも孫が少年野球してたもんで、こっそり借りて振ったらギックリ腰やらかした最悪な思い出がある。


『んもぅ、仕方ないわね』


ため息混じりで聖剣が呟いた途端、まばゆいほどの光を放ち始めた。


「お、おぉ」

『空振りしたら、承知しないからねっ!』


大斧を振りかざし、猛スピードで走ってくるドワーフ少年を視界にとらえ俺は頷く。


「あったりめぇよ。元オジサンに任せろ」


振り下ろされた刃を、その金属で力いっぱい受け止め――跳ね返した。

ガキンッ、と硬い音をたてて火花散る。

反動を借りて後ろに飛び退く。


「……ヘンな武器」

「聖剣だ。これでもな」


手の中で怒ったように震える聖剣をなだめながら、俺は笑う。

ひんやりとた感触。

どうやって戦えばいいか、なんとなくだが分かった。


「結構やるね」


そのつぶやきは、ドワーフ少年だ。

緑色の顔を思い切り歪めて、俺をにらみつけている。


「っ!」


――何度も、振り上げられた大斧。


風のように素早く、一人の少年が振り回す速さじゃない。

それをよろけるように避けて、時に打ち合い。

かわしていく。


ガギンッ、ガンッ、と森に金属音が響いてはこだました。


「っく、そぉ」


――キリがねぇ。

戦い方は分かったが、なんとも隙がなく攻撃が仕掛けられない。


『ちょっとちょっとぉ、ちゃんと必殺技だしなさいよ!』

「うるせぇっ、ちょっと、黙ってろ」


息を切らせて聖剣をあしらう。

確かに分かる、この聖剣の力。目の前の敵のスピードについて来れないのは、俺のレベル不足ってやつだ。


「もう終わりだよ、おにいさん」

「!!!!」


目の前に再び切っ先。

必死で良ければ。


「っう゛がァッ!」


首を掴まれ、そのまま地に叩きつけられた。

背中と後頭部に衝撃。

呻く間もなく。押しつぶされるよつに首を締められる。


「ぉ゛……が……ぁっ」


当たり前だが息が出来ん。

目の前にチカチカ光が舞って、顔に血液がたまる圧迫感。


「は、な゛せ」


首を絞める手を引き離そうとするが、軽く引っ掻くこともできてるかどうか。


『マサ!』


俺の手から離れた聖剣が、叫ぶ。


「せ、聖剣……お、親父……」


あのクソ親父、どーせまた遊んでるんだろう。

どうしようもない遊び人だもんな。


「お前に、彼女は渡せない」


ドワーフ少年は真顔で言った。


「は?」


彼女ってまさか。


「ミヨは、オレと、家族になるんだ」


な、なにおぅ!?

このガキ、よりにもよってそーゆー目的で彼女をさらったって事か。

我が村のアイドルで、俺のマドンナをぉぉぁっ!


「っぐ、聖剣゛っ、来やがれ!」

『ガッテン!』


力を振り絞って叫ぶ。

そして同時、手に戻った聖剣を握りしめる。


「このエロガキがァァァッ!!」


思い切り振り回した。

一瞬早く向こうが飛び退き、聖剣は空を掠る。


「ミヨちゃんを馴れ馴れしく呼び捨てしてんじゃねーぞ、このガキが」


首をさすり起き上がった。

さらに足を肩幅に開き、地を踏みしめる。


「おにいさんは、ミヨのなんなんの」

「おっと、それはこっちのセリフだぜ。クソガキ」


後ろ足へ体重移動。

力をためて、顎を引く。前足を上げすぎず、上半身はひねらない。

弱小野球部でも指導されるような事を、思い出しながら俺はボールの代わりに飛び込んでくる敵を見据えた。


正直、フォームはめちゃくちゃだろう。

それでも、振れそうな気がする。

場外ホームランだ。


「ファイトォォッ、イッパァァァッツッ!!!!」


――隙だらけのっ、その腹にっ!


俺は光り輝く金属バットを、少年に向かって叩き込んだ。



※※※


『マサってば……最低だわ』

「これはないな」

『ねー? ぐう畜』

「ねー」

「ダァァァッ、お前らうるせーッ!!」


聖剣の攻撃をマトモに受けたドワーフ少年は、昏倒した。

そしてそれを、気まずく見下ろす俺たち。


「だいたいお前も魔法使ってただろーが!」

『は? なんのこと。あたし魔法なんか使ってないわよ』

「とぼけてんじゃないぞ。あんなに発光しといて」

『あ。アレただ光ってるだけだから。しかも疲れるし、一瞬だけ』

「え゛っ、えぇぇぇっ!?」


明らかに聖なる光とか魔法の力っぽい、なんつーかファンタジックな光景だっただろうがよ。

思わずこっちのテンション爆上がりの、ノリノリでフルスイング打ち込んじまったじゃねーか。


『ショタに腹パンしたっていうね……うわぁ』

「だーかーらっ、罪悪感あおるなって!」


俺だって殺されかけたんだからな!?

なんか俺がヒドいみたいな扱いになってるけど。


「我が息子ながら鬼畜なり」

「親父っ、テメーは何にも役立たなかっただろーがッ!」


俺が死にそうになって戦ってた時、ノンキして眠りこけてただろうが。


「だって父さん、遊び人だから」

「キリッとして言うな!!!!」


なんなんだよ、このクソ親父。

絶対、彼女を助けたら森に置き去りにしてやる。


そうブツクサ言っていると。


「レオン? レオン? ――れ、レオン!!」


悲鳴に近い声と共に、洞窟から人影が飛び出してきた。


「ミヨちゃん」


それはまさしく、さらわれたハズの彼女。

顔面蒼白で倒れているドワーフに追いすがっている。


「レオン! しっかりして、レオン……」


どうやらこのドワーフの名前らしい。

俺の頭の中がハテナマークで埋め尽くされる。


「み、ミヨ、ちゃん?」


彼女は顔を上げ、キッと俺たちを睨みつけた。


「――マサ君、最低っ!」


鬼気迫る表情に、俺は『えぇぇぇ』などと呻いて立ち尽くすしか無かった。





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