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3.勝気な聖剣? は最凶の武器

「親父、これなんだ」

「さぁ?」


ギャンギャンわめく木箱を前に、俺と親父はなぜか正座させられている。




――突然、聖なる剣とやらが叫び出した時はビビって逃げ出そうとした。

踏み出した足先に、チュドォォォン! と雷と煙が上がって、尻もちをつく。

だらしなくへたり込む俺たちの前に、浮かぶ木箱。

そして、やはり女の声だった。


聖剣(あたし)から逃げようったって、そうはいかないわよ』


ふよふよと、重量シカトで浮かぶ木箱。

しかも相変わらず光ってるし。


「あ、あのぉ。アンタ、だれ?」

『あたし? 知らないの!? 勇者なのに!? 』

「べ、別に俺は勇者じゃあ……」

『勇者でしょ? そうじゃなきゃ、あたしがこうやって目を覚ます事なんてないわよ』

「え?」

『ハァァ、めんどくさいわねぇ。耳の穴よーく、かっぽじって聞くがいいわ。あたしは聖剣、正しくは聖剣を守ってる精霊。100年前、伝説の勇者達とともに魔王を倒したの』

「!?」


おどろく俺に、その精霊って女(で、良いんだよな?)は語り始めた。



――100年前、魔王が蔓延り世界は滅亡の危機におちいっていた。

魔物があふれ、人を支配するまでになったのだ。

そんな中である少年が立ち上がった。

それが勇者。

勇者は三人の仲間たちと共に魔物たちをなぎ払い、元凶である魔王を倒す旅に出た。

幾多の試練を乗り越えて、ついに魔王を倒した彼らには更なる過酷な運命が待ち構えていたのだ。


『そもそもね、この剣は旅の途中で『妖魔の剣』として暴れていた物を、魔法で打ち直して聖剣にしたものなの』


聖剣は最初から聖剣ではなかったのだ。

多くのアイテムや、魔法、そして勇者の世界を救いたいという純粋な願いによって、聖剣として生まれ変わった。


『剣に魔法をかけていたのは、あたし……元々は賢者なの。でも、この戦いと剣に費やした魔力の影響で、あたしは消滅した』


嘆き悲しむ勇者と他の仲間たち。

しかし奇妙な奇跡が起こった。


『あたし自身が聖剣となり、100年の間剣の中で眠り続けたわ。次に勇者が現れるまで』

「それが……俺?」


信じられない。

あのクソジジイの言うことは本当だったのか。


「で、でもこれは親父が市場で。って」

『そうね。そこのハゲ散らかしたオッサンが、3年前にこっそり適当な中身とすり替えて、あたしを売っ払おうとしたわねぇ』

「おいおいおいおいっ、マジかよ親父!」

「え~? そうだったかなぁ~? 父さん、歳だし覚えてないなぁ。アハッ、ハハハハッ」


最低だな! このハゲ。

3年前っていうと、確か旅芸人の踊り子の女にうつつをぬかしてた時だ。

まさかあの女に貢ぐために、売ったんじゃねーだろーな!?


「おいっ、親父ッ!」

「……すんませんでした」

「親父ぃぃぃっ!!」


今度は深々と土下座。

――ふざけんなよ、と我が父親ながらぶん殴りたい。

てか似たような事で、前世で確か会社の金を横領した奴がいたなぁ。

確かチリ人のホステスだっけな。

この世界でも、いるんだな。そんなクズが。


「て言うか、アンタもよく戻ってこれたな!?」

『ふふんっ! 元賢者で、聖剣の精霊をナメないでちょうだい。あの予言者のジジイに少し幻術かけて、ここに持ってこさせたのよ。ついでに、予言までさせてね』

「なにぃぃ!? あのジジイも、アンタの差し金かよっ」


なんかおかしいと思ってたんだ。

くそっ、何もかもインチキしやがって!


『言っとくけど、あなたが勇者ってのは紛れもない事実よ? 10年前、ガキだったアンタを一目見た時から確信していたわ。マサ、あなたは勇者。その運命には、逆らえない』

「な、なんだと」


信じられん。俺が勇者? こんな平凡で、なんの才能も取り柄もない、前世が日本人サラリーマンの俺が?


『信じる信じない。そんなこと、どうでもいいの。運命の糸車はもう、回り始めているのだから』

「うぐぐ……しかし……」


正直、俺には剣を握ったことすらない。

クワかスコップがせいぜいだ。

そんな俺が聖剣なんて。


悩む俺に、聖剣は高飛車に言い放った。


『さぁ、そろそろ腹くくりなさい! 初恋のあの娘、守りたくないの?』

「な、なんで知ってんだよ!?」

『聖剣様は、なんでもお見通し。あの娘の事がガキの頃から好きで、でも高嶺の花だって半ば諦めてんでしょ。んでもって昔、あの娘が祭りで吹いた笛を……』

「わぁぁぁッ、言うな言うな言うなぁぁぁッ!!!!」


人生最大の黒歴史を引っ張り出される所だった。

なぜか知らんが、この女に弱みを握られているらしい。


『ふふふ、このまま恥ずかしい記憶を晒されたくなければ……分かってるわよね?』

「くっ、くそぉ」


表情なんかないはずなのに、コイツが不敵に笑ってるように感じる。

俺はギリギリと奥歯を噛み締めながら、ようやくうなずいた。


『決まりねっ。さぁ、まずは魔物を倒しにいくわよーっ!』


箱入り聖剣の、ノーテンキな声が森に響いた。



※※※


森を歩く。

草を踏みしめ、武器を手に。

魔物を倒すため。初恋のあの娘を救うために――って。


「ちょっとちょっとちょっと、待て」

『なによ』

「親父も待て」

「なんだ、息子よ」


俺は小さく息を吸う。そして叫んだ。


「これ、()()()()()()()()!?」


そう、俺がいま持っているのは。

聖剣じゃない。

もう一度言おう……聖『剣』じゃない!!!!


「な? なんでバットなの?」

『ん?』

「ん、じゃない。ん、じゃ。なんでバットなんだよ、アンタ」

『聖剣だけど?』

「……」


俺は、箱から出したそれを眺めた。

剣じゃない。

少なくても、俺が知ってる剣じゃないんだ。


あ、バカにするなよ?

いくら前世がゲームひとつも知らないオッサンだからって、剣くらいは分かるしイメージついてる。

たしかにマバオの村には、剣ってのがあまりないけどね。

それでも、ちゃんと剣だから。

持ち手と刃の付いた、ちゃんとしたヤツだから。


『これ』じゃねーよぉぉぉっ!!


「アンタ、それ()()()だからな?」

『……バット』

「うん。刃も持ち手もないじゃん」

『……ほんとだ』


それから数秒、黙り込んだ後にふと。


『間違えた』


とボソリ。


「なにがっ!?」

『あー。魔王を倒した瞬間ね、あたし聖剣になってこの世界の平和の為に再び役に立つんだーって。ね? ここまでわかる?』

「あ、あぁ」

『そしたら、急に。野球、したくなっちゃって』

「は、はぁ?」

『そしたら、なんか……バットになってた』

「なんだそりゃぁぁっ」


ワケわかんねーよ!

てか、親父はなんかナゾの感動して泣いてるしっ。今のドコが泣く場所!?

てか100年前の異世界にも、野球あったのか。


『っつーことで。よろしくぅ☆』

「うっせぇ、ばーかッ!!!!」


可愛こぶるな。表情見えねーし!


『あ゛?』


――ジュッ。


「ぅあちちちちっ!?」


突然、握ってた金属部分が熱くなった。

思わず聖剣……じゃなくバットを放り出す。


『痛いわねッ、ていねいに扱いなさいよ!』

「熱ぃぃよ! なんで急に熱くなるんだよ」

『ふふん、これも聖剣の力よ』

「聖『剣』じゃねーじゃん……」


俺はうなだれ、深くため息をついた。

本当に大丈夫なんだろうか、これで。




すいません、まだ討伐出来てなくて……

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