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1.聖剣は聖剣であって聖剣とは聖剣って聖剣の……うるさいチクショー!

雨季明けの森は、土がぬかるみ草の匂いが濃い。

俺は、息を切らせながら黙々と歩く。


「魔物は本当にこっちなのかよ!」


前を行く男。

俺の親父に向かった声を張り上げる。


――魔物にさらわれたってのは、幼なじみであり片思い中の相手。ミヨちゃん。

明るく可愛い彼女は村のアイドル的存在で、助け出そうと立ち上がった男たちは少なくなかった。

しかし今森を歩いているのは、俺と俺の親父の二人だけ。

それもこれもあの村長のクソババアのせいだ。


『伝説の勇者よ、そなたが娘を助け出すのだ』


そんな言葉を残し、予言者とかいうクソジジイと奥の部屋に消えて行った。

突然のことにポカーンってなったのは、俺だけじゃないはず。

クワ以外持ったことねぇ、ただの農夫に魔物を倒せだの村娘を救えだの。何、考えてんだ?

え。ナニのこと――ってうるさいわッ。

てか奥は寝室じゃねーかよ!

これから致す気か!? 魔物が出でるっつー時に、呑気して日本昔ばなし的熟年カップルがギシアンしやがって!!!!


……なんてギャギャン騒いでも仕方ない。

そのあとは村人達の『え? お前が?』みたいな困惑顔と、俺の『いや、俺もよくわかんねぇんですけど』な返しと。

んで、気がついたら適当な装備付けられて村の外に出されてた。


そこにはミヨちゃんがさらわれた瞬間を目撃してた、俺の親父がいて。

それで現在だ。


「だいたい、親父は何してたんだよ! 」


俺のわめきに、親父はハゲ散らかした頭を振って答えた。


「仕方ないだろう。魔物はこぉぉんなにデカかったんだぞ。丸腰でハゲたオッサンが適うわけないだろ」

「自分で言うな、自分で」

「あと怖かったし」

「そこは勇気だせよ」


確かにひょろひょろでハゲ散らかしたオッサンである親父に、魔物はキツいかもしれねぇが。


「て言うか、じゃあ俺1人じゃ確実に死ぬじゃん!?」

「んー? まぁ」

「まぁ。じゃねーよ!」


イヤだよ、こんなクソみたいな死因。

どーせなら畳で死にたい。妻と2人の子供と孫たちに囲まれて布団で死にたいぃぃっ。畳この世界にないけどッ!


「落ち着け落ち着け。方法は一つだけある」

「なんだよ、アホ親父」

「マサ、父さんに八つ当たりするのやめなさい」

「八つ当たりじゃねーよ、反抗期だ」

「今来るのから反抗期。いや、そんな事より魔物の倒し方だ」


親父は得意満面にうなずき、親指を立てる。


「父さんな。その魔物の倒し方、知ってるぞ」

「あっ、そう」


――差し込んだ光がハゲ頭に反射して、めっちゃ眩しかった。




※※※


森の奥の祠に、勇者の剣が眠っている。

親父の言うことが確かなら、目の前のコレがそれだ。


「錆び付いてんじゃん!!!!」


当たり前だよな。

伝説によると、100年前に魔王を倒した聖剣。

それが今の今まで、こんなずさんな保管方法でマトモなわけがない。


「ほぅ……そうきたか」

「なにが『そうきたか』だよっ! 当たり前だろーが。むしろどうくると思ったんだよ。このクソ親父!」

「こらこら、うろたえるんじゃない。逆に考えるんだ『切れなくてもいいさ』と」

「うるせーよっ、切れなきゃ困るだろうが!」


なんなの? 前から思ってたけど、この親父しかり他の奴らも。この世界の人間はことごとくイイカゲンすぎる。

ろくな産業も文化も構築されてねーじゃん。100年前と全然変わってないようだ。


――俺が前にいた世界は違う。

目まぐるしい技術の進化。そう、進化だ。社会は常に動き、人々は常に働いていた。

特に我々世代……まぁ団塊の世代って奴だな。高度成長期やリーマンショックなど、時代の荒波にもまれ戦ってきた企業戦士……平凡な俺ですら、そこそこの努力や苦労はしてきたんだ。


それがなんだよ!

魔物が出てもただの農夫である、俺1人に任せる。

病人がでても、効くか効かないかイマイチわかんねぇ薬草や祈祷。挙句の果てには予言者だと!?

ふざけんなっ! 軍隊はいねーのか、警察はっ、統治体制どーなんってんだ。

そんなモン、この世界にない? ありえない!


「息子よ、これを見ろ」

「あ? なんだこれ」


祠には聖剣の他に、もうひとつ。

そっちは丁寧に箱に入って、何重にも梱包されている。

なんなら薄く光ってるから保存の魔法、もかかってるらしい。


「これが本当の聖剣、かもしれんぞ」

「マジか。親父」

「うむ、こっちはあくまで盗賊たちの目を欺くためのニセモノだろう。マサ、手に取ってみるんだ」

「はぁ……ヤだ」

「ん、息子?」

「イヤだよ」

「ちょ、ちょ、ちょっとマサくぅぅん?」

「い・や・だ」


ハゲオヤジが猫なで声出したってムダだ。

嫌なものはイヤだ。

当たり前だろ、こんな得体の知れないモノ。触りたくねーもん。


「ばっちぃだろ、これ」


箱だってボロボロだし、巻いてある布も朽ち果てそう。

触ったらジットリしてるだろうな。


「ばっちくない! ばっちくないから!! て言うか、聖剣をばっちぃとか止めなさい。いいからマサ、開けてみなさいって」

「イヤだって言ってんだろ」

「えぇ~? なにこの子、この歳で反抗期!? パパ困っちゃうんだけど」

「うるせぇ。パパって読んだことねーよ。あのな、だいたいこの箱には魔法がかかってんだぞ」


魔法がかけられているモノには、うかつに触るな。

これは、この世界に暮らしている者たちにとっては常識中の常識。

前の世界でいうと、駅にある爆発物っぽいのには触らないとか。拾い食いはするな、とか……ちょっと違うか?


「ケガとかしたらどーすんだよ」


最悪死ぬよりヒドい呪いにかかるかもしれん。

子どもの頃、近所の悪ガキが勝手に持ち帰ってきたペンダントに呪いがかかっていたらしく、奇妙な踊りをずっとさせられて酷い目にあっていた。

他にも、村の男たちの半数がハゲ散らかす呪いのクシとか。

ありとあらゆる危険物が、この世界に溢れているんだぞ。

まぁそれで例え死んでもここのヤツらは総じて、祈祷師だとか変な薬草だとか。果てには「仕方ない」で済ませるからな。

件の悪ガキは、今では村一番のストリップダンサーになっちまったとかいう。

ヘタなホラーより恐ろしい。


「ケガなどしない。多分」

「多分ってなんだよ、多分って!」


ほら。あの箱、青白く光り始めたじゃねーか。

なんならカタカタカタカタッ、て震えてるし。思い切り呪いのアイテムっぽい。


「大丈夫だ。これは聖剣、聖なる剣だ。だから人を傷付けるなんて――」

「じゃあ親父が触れよ」

「え゛」

「いや『え゛』じゃねーよ。そんなに安全なら、親父がいけばいいじゃねーか」

「……無理」

「ハァ?」

「むーりー! ゼッタイ無理。怖いもん」


さっきまで温厚で威厳のある父おやぶってた親父が、突然オカマみたいにシナを作りまくし立て始めた。


「こ、怖い?」

「怖いっしょ、フツー」

「ぎゃ、逆ギレ!?」

「イヤイヤイヤ、めっちゃ怖いって。だってめっちゃ光ってるし、なんか気持ち悪そうだし! っていうかあれ、2年前市場で買ってきたモノだしね!」

「!!!!????」


ちょっと待て。今なんて言った。

『2年前、市場で買ってきた』だとぉ!?


「じゃあ、これ――」

「そうだ。多分、ただの呪いのアイテムだ」

「ふざけんなァァァっ!!!!」


なんのためにここまで来たんだよ!

丸腰で、魔物から必死で逃げて。ようやくここまで来たっていうのに。

聖剣じゃない、だと?


「なんでこれで戦えると思ったんだよっ、クソ親父!」

「なんて言うか、ノリ? なんとかなるかなぁと」

「ならねーよっ、なるワケないからね!?」


これだからこの世界のヤツらは、イイカゲンなんだよ。

その場のノリとイメージで、フワッと行動させようとしやがる。

ぜんっぜん、考えてない。

計画性とかビジョンとか、ノルマとか――納期とか!!!!


「あぁぁ……もうダメだぁぁ」


俺は頭を抱えた。

片思いのミヨちゃんを救えないどころか、こっちまで魔物に食われる。

てか、村にも帰れねーし(色んな意味で)

絶望しかない。


……その時。


『クソ人間共っ、さっさと箱開けんかーッ!!!!』


くぐもった絶叫が、祠に響く。

もちろん俺じゃない。そして親父でもない。


それは確かに女の声、だった。




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