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白百合、葛藤する


「ローザンヌ、こんな事したのは誰だ」






私は憤怒している。


それもそのはず。



「使用人皆の総意でございます」






シルヴィの隣の部屋は寝室だ。


私の部屋に繋がって居る事も知っている。


だからこそ、部屋を別に移し寝室もそちらにと言っておいた筈なのだ。


だが、侍女の彼女はそれはそれは凛々しい顔でそう答えた。




「どう見ても私の部屋と繋がったままじゃないか」



「移しましたよ。真逆に。



扉を新たに取り付けさせて頂きました」



「それじゃあ、意味無いよね…。


部屋自体作ったでしょ。どうやったのさ」



「其方は申し上げられません」



「はぁ…。ごめんね、シルヴィ。私は別部屋に寝るからこちらを使ってね」




「私は大丈夫だが?」



「なっ!…疲れているだろうけど、ちょっとこっち来て話そう」





緊急事態だ。大型魔物級の。




シルヴィは理解出来て居ない気がする。



お茶の準備をさせ、シルヴィの部屋でそれを振る舞う。



「これは何だか甘いが諄く無いな」



「そうでしょ?蜜柑の蜂蜜を入れているんだ。美味しいよね」



「美味しい」



疲れているだろうから少し甘い味にしておいた。



「シルヴィ、あれはいつでも子作りしてくれって事だよ?」



「ぅぐっ!



ゴホッゴホッ…飲んでいる時には止めてくれ」



「ご、ごめんね。大丈夫?」



「あぁ、何とか」




「というか…、それくらい分かってはいる。



だが、私達には約束が有るだろう?


私は多分、カミュには勝てる。嫌だったら、殴り飛ばす」



「成程。確かにシルヴィに力で適う気がしないな。殴られるのは痛そうだ」




どうやらシルヴィは分かっていて大丈夫だと言ったらしい。何とも複雑である。



私が男として見られていない気がしてきた。


いや、十中八九それだ。




「じゃあ、シルヴィは一緒に寝ても大丈夫なのかな?」



「あぁ、中々広いベッドだったしな」





この、小悪魔め。と思いながら、愛しいお嫁さんの決定には逆らえないので少々不安だがベッドは共有する事にした。


多分、本人は小悪魔をしている事は分かっていない様だからね。



「では、今日は休んでいてね。私は色々と確認しないといけないから」


「そうなのか、御苦労だな。無理はするなよ」


「ありがとう。そう言って貰えたら元気になるよ。では、後程」


「あぁ」



私は扉を閉めて執務室へ向けて歩く。



執務室の扉を開けると、ノエルが書類の整理をしていた。


「はぁ~~~………………」


「カミーユ様、入って来るなり盛大な溜息はお止め下さい」


「溜息も付きたくなるよ。シルヴィが可愛過ぎるんだ」


「…左様ですか、良き事ですね」


「それが、良くないんだよ」


「と、言いますと?」



「触れたくなるだろう」




聞いてきたくせに、とても聞きたくなさそうなノエルに二週間の話しを一通り言うと首を傾げた。


「お二人はご夫婦です。聞いた感じで有れば、多少触れ合っても大丈夫では無いのですか?」



「ん~、何だか男としても見られて居ない気がするんだ」


「それは…、しょうがない事かと」


「え、しょうがない事なの?」


「えぇ。カミーユ様の外見では」


「あ~、やっぱり見た目が悪いよね」




「そんな事より、大旦那様と大奥様の所へは三日後を予定しております」


「そんな事って…。


分かったよ、楽しみにしているだろうしね。はぁ…、シルヴィを外に連れ出したく無いな」


「馬鹿な事を仰らないで下さい、奥方業務も覚えて頂かなければなりません。忙しくなりますよ?」


「あぁ、そちらは心配していないさ。最近は比較的平和だしね。


私の可愛いシルヴィが野獣の群れに行かなければならない事を恐れてる」


「次の瘴気まで三ヶ月程御座いますしね」


「あ、無視した。


出来るなら危険な目には合わせたく無いんだけど…。何せ、本人がとても張り切っているんだ」


「帝国の黒鷲と謳われた女性です。領民もとても喜んでいましたからね」


「あぁ。うちの奴らは強い者が全て、みたいな所が有る。女性だからどうの、と言う奴は居ないしね」


「そんな事を言う輩はここには居られませんよ」


「はは、それもそうだ」



ここは辺境の地。

国境の澱みから生まれる魔物を帝都に近付けぬ為の砦。

険しい山々が隣国との境になっているので、まず人間は入ってこない。

領地を囲い、外に漏れ出す事を最大限ここで食い止める為に造られた擁壁の中に住まう。


小さな物は偶にすり抜けて出ていってしまうが、他の領地でも事足りる位のものだ。

人に仇なすもの以外は決して手を出してはいけない。

魔物とて、生きとし生けるものだ。


澱みは自然現象である。

止まる事は無い。


瘴気が上がる期間に魔物が発生する。



その為に、我が領地は独特な進化を遂げる地となっていた。

討伐部隊は帝都の軍人達とは比べ物に成らない軍事力を誇り、強き者が集まる。


寧ろ、強く無ければここでは生きてはいけないと言われる程だ。

外から来る人間が少ないので私が他の地域に赴き、人を招き入れる事も多い。

実際はそうでもないのだ、事実私は身体の方は諦めたからね。


強き者を大切にし、弱き者に恩恵が有る制度を強化している最中で有る。

討伐部隊がこの土地を警備しているので、犯罪の数は極端に少ない。

その代わり血の気の多い者が多いので、喧嘩は非常に多いのが頭痛の種だ。



守り、支えられる立場の者も魔物に日々脅かされるこの地の影響か、精神が強い者がとても多い。

お嫁に行くと包容力が有る者が多数なので、とても有り難がられると評判である。


統率するのは大変だった。

如何せん、父や祖父はその力を持ってして領地を治めていたので私にはそれは出来なかったからだ。

頭脳のみで押さえ付けると暴れ出す者も多い。

話し合いが基本だが、自分の周りの強い者の勧誘も怠らなかった。

お陰で凄い事になってしまったが。



未だに『ひ弱』だの、『軟弱』だの、『周りに頼っている』だの言われるがその通りなので否定はしない。



「では、カミーユ様。サインを頂きたい物は、此方に纏めて有ります」


「ありがとう、相変わらず早いね。下がって良いよ」


「畏まりました」




ノエルが退出し、扉が閉まると今後を考えてまた一つ大きな溜息を付いてしまった。


「先ずは、父上と母上が最難関だな…」



濃い二人だ。


出来れば色んな意味で会わせたく無いのだが、自分の両親との接触は必要不可欠。


シルヴィが取って食われやしないか、些か心配である。



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