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白百合、思い出す


「信じられないね…。まさか、数時間で着くなんて…」


流石に臀部の痛みは有るが、休憩を取りつつ進んだので快適だった。

私は今日、初めて空の旅を経験した。

スピードも速く、空気も薄い筈だったが『オレ、コントロールデキル』とゼルバの背の上ではまるでそよ風で、空気も普通だった。

竜は謎だらけだ。


こんなに早く自領に着くなんて。

領地の人々も目を真ん丸にして驚いていた。まさか竜が現れ、その上に私達が乗っているものだから魔物に慣れているとはいえ流石に驚きを隠せなかった様だ。

まぁ、直ぐに歓声に変わったのだが。

脳筋ばかりで良かったよ。


「乗せて貰って正解だったわね」


そう言ってゼルバを撫でる彼女は慈愛に満ち満ちていて、まるで聖母の様だ。

褒めて、褒めてと擦り寄り、撫でられているゼルバは満足気だが私に対しての目線は鋭い。

完全に敵視されている。

それもこれも、私と夫婦だという事が分かったかららしい。

背にはシルヴィが言ってくれたから乗せてはくれたが、一悶着有った。

いや、私の方が君より先に出会ってるし。とは思ったが、言わないでおこう。態々、仲を悪くする必要は無いしね。

嫌な予感はこれだった。

恋敵…、とまではいかないかもしれないが竜とそんな関係になるなんて何だか変な感じである。


『タノシカッタカ?』


「うん、凄く。ありがとう、ゼルバ」


「ありがとう、助かったよ」


『オマエニハ、キイテナイ』


「うん、そうだったね。お礼は大事だから伝えたくて」


ゼルバはツンとそっぽを向いてしまう。仲良くしたいが、時間が掛かりそうだ。


「シルヴィ、私は中に入って仕事のチェックをしなくてはいけない。シルヴィはどうする?」


「私はゼルバともう少し話してから中に入るわ」


「分かった。ゼルバも、また後でね」


そっぽを向いたままのゼルバはフンッと鼻を鳴らしたので、無視はされていない。

どうしたものか、と頭を悩ませる。


竜相手に…、とは思いつつ嫉妬を感じないかと言われれば否である。

ゼルバに遠慮してしまって空の旅でも身を寄せる事も無く、悲しい距離感の中に居た。

両思いになった筈だが、夢だったかな?


邸に入ると、皆が出迎えてくれたのでシルヴィとゼルバの説明をして仕事の確認の為に執務室へと向かう。


ぼんやりと色々考えながらも足を動かした。

空の旅には定員が二名程だったので、ノエルとローザンヌは荷物と一緒に馬車で二週間後帰って来る。

ベンジャミンから仕事の報告を一通り受けて退出させ、綺麗に纏められた書類の束を確認する。


ペラ、ペラと書類を捲る。

一人なので書類の音が余計に響いて耳に届く。


無心で仕事をこなして数十分経った頃に、コンコンと扉が叩かれた。


『シルヴィアです』


「シルヴィ?どうぞ」


扉が開きひょっこりとシルヴィが顔を出す。

私は書類を置くと、彼女を招き入れた。

彼女は、おずおずと何だか申し訳無さそうな顔で中に入ると、私の手を自らの両手で包んだ。


「お仕事中に、ごめんなさい。ゼルバの事なのだけれど…、中々強くは言えないから…嫌な気持ちにさせていたら申し訳無くて…」


悲しそうな顔で彼女はモジモジとしている。

私はシルヴィから触れてくれている事に驚き、目を見開いた。


「はは、大丈夫。シルヴィが気にする事は無いよ。少し、妬いてしまうけれど」


「えっ、やっ、妬いているの……?」


驚き、顔を染めるシルヴィを私はふわりと抱き締める。


「私が忙しかったのが悪いんだけど、こうして抱き締める事も出来なかったからね」


「お仕事だから仕方ないわ。でも…そうね少し、寂しかった…かな。ピアスから連絡が来るのを心待ちにしてしまったわ」


「本当にごめんね。でも…シルヴィ、可愛い事を言わないで。今もとても我慢している」


「なっ!そ、その…が、我慢……はもう…しなくても良いんじゃないかしら…」


「それも、そうだ」


腕を緩め、久々にシルヴィの顔をじっくりと眺める。

相変わらず、私の方が目線は上を向いているのだけれどね。

ゆっくりとシルヴィの頬に手を当て、優しく撫でる。彼女はぶるりと肩を震わせると、染まったままの頬はその赤みを広げていく。



コンコン



『おーい、ワシに挨拶は無いのかな?』


「…。はぁ…、爺様どうぞ」


とっても良い所だったのに、私の家族はどうやらタイミングが物凄く悪いらしい。


「やぁやぁ、おかえり!おっ、と………、お楽しみ中だったかな?」


「そうだよ」


「だ、大丈夫です!フリーガング様、ご挨拶が遅れまして申し訳御座いません」


「はははっ!それは、すまない事をした!気にしないでおくれ、居ないと思っていたんじゃないかと思ってな」


「思っていたよ。まさかまだ居て下さるとは」


「そりゃあ、そうじゃろ。お前達の結婚式を見にゃならんからな」


放浪癖の有る爺様の事だからもうここには居ないものだとばかり思っていたが、何を言っているんだとばかりにガハハ!と快活に笑う爺様の言葉を聞き、私は硬直した。




「「結婚式!!」」



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