白百合、積み重ね
「待たせたな」
ノックも無く、此方が何の応答も無いまま開かれた扉。
此処でそんな事が出来るのはただ一人だけだ。
「ご無沙汰しております、陛下」
「父上?何故、ここに?」
「アルディアン、久しいな。コーデリアンよ、何故では無い。
私はお前に竜を元の巣へ誘導するように指揮を取れと言ったのに、竜を捕獲しに行っていた等と…アルディアンが居なければどうなっていた事やら」
「でも、折角のレア素材だったんだよ?」
「戯けが!!魔物は単なる素材では無い、お前もちゃんと勉強しただろう!?」
まさかの親子喧嘩が始まってしまった。
だが、唯一殿下に怒れる人間が来てくれて正直助かった。
まぁ、陛下の耳に入れるよう言ったのは私だけどね。
お義父様は少し遠い目をしている。日常茶飯事なのだろう、ご苦労様です。
「もういい。とにかくお前とは後で話をする、私はアルディアンと話すからマルコスと共に席を外しなさい」
「…畏まりました」
「はっ」
お義父様は陛下の命により、殿下を連れて部屋を出た。
陛下は此方に向き直ると、少し背筋を伸ばした。
「愚息が騒いだな。この度は大儀であった」
「いえ、鉄鱗竜を領地へと誘ったのは妻のお陰で御座います。私はそれを見守っていたに過ぎません」
「ほぅ…。やはり彼女はそなたの領地で輝ける逸材で有ったな」
陛下とは婚姻を結ぶ際にお許しを得る為に謁見している。
陛下は真人間だ。あの第二王子が少し趣味が悪いだけで…、第一王子が普通で良かった。
「彼女は素晴らしいです。殿下に申し上げた通り、私にも領地にも最高の妻ですよ」
「ははっ。それは、私も安心だ。さて、この度の褒美は何が良い?」
「此方が勝手に横槍を入れた事ですので、褒美は必要無い……と言いたい所なのですが一つだけ」
「言うてみよ」
「我がアルディアンの領地で珍しい宝石が見つかりまして、其方をこの度婚約されるタチアナ=クルメリオス嬢にお送りさせて頂きたいのです」
「ほぅ…」
「ノエル」
「此方で御座います」
こんな事も有ろうかと、ノエルの巨空間鞄に入れておいて良かった。
ノエルは手袋を着け、一つの箱を開けた。
「これは……ダイヤモンドか?何処でも採れるのでは無いのか?」
「はい、ダイヤモンドであれば…ですね。此方は無色透明ですが、ダイヤモンドとは全くの別の物で御座います。
少しカーテンを閉めさせて頂きますが、宜しいでしょうか?」
「許そう」
私はノエルにカーテンを閉めさせ、自然光が入らない状態にする。
「ご覧下さい」
「なんと!色が変わった!」
「部屋の灯りが御座いますので変化は緩やかですが、暗くなるにつれて無色から青へ、そして紫に変化致します」
ノエルが開いた箱に入った原石は淡い青色に変化し、無色透明とはまた違う魅力を出している。
「これは…、誠に美しい」
「色が変わる珍しい宝石で御座います。
まだ、名も有りません。
タチアナ嬢が嫁がれる所は宝石の出土は無く、珍しい物が好きな国ですので
此方を是非とも交易の一環として我が領地の事を知って頂ければ…、と思うのですがどうでしょう?」
「ははは!まさか魔物以外の特産物を持ってくるとは!良いぞ、その手腕見せて貰おう」
「ネックレス、イヤリングの完成品も御座いますので、そちらを婚約パーティー当日にお持ち致します」
「用意周到ではないか。許そう」
「遅かれ、早かれご提案させて頂くつもりでした。有り難き幸せ」
陛下とがっちりと握手をして、宝石の出土状況等を説明をして話が纏まった所で退出をする。
ドアの前にはお義父様が居た。
「……カミーユ殿、この度はお手を煩わせて申し訳ない」
お義父様は深々と頭を下げた。
「顔を上げて下さい。少し歩きませんか?」
陛下がまだ中に居らっしゃるので、此処は何かと不味い。
お義父様を促し、二人で歩き始める。
「謝るのは私の方です。大事なお嬢様を危険な目に遭わせてしまいました」
「いやいや、あれは自分で行くと言ったんだ。君のせいでは無い。殿下の言葉を鵜呑みにして、陛下の命に背く事になってしまう所だった」
「終わり良ければ、良いのですよ。ギリギリの所でしたがね」
「…ありがとう。そして、シルヴィアを大切にしてくれて感謝している」
「当然の事をしている迄です。私が求めたのですから」
「あの子のあんなに柔らかい表情は久々に見たよ。そして、服装が少し華やかになっていたね。とても似合っていた。
妻に聞いたよ。あの子が好きな事を好きな様に出来なかったのは、きっと私のせいだ」
「お義父様…」
「君と出会えて、シルヴィアは幸せ者だな」
「彼女は自分の意思で剣の道を辿ったと言っていました。
きっと、お互い少しすれ違っただけなのですよ。
是非、直接『似合っている』と言ってあげて下さい。
これからは彼女に思った事を沢山伝えてあげて下さい。好きな物を身に纏う彼女に」
「…カミーユ殿」
「家族に褒めて貰うのが一番だと思いますよ」
私はそう言ってにっこりと笑う。
似た者親子だな。シルヴィアの素直だけれども、肝心な事は溜め込んでしまう所なんかがそっくりだ。
お互いに礼を言ってまたお伺いする約束をし、私は王城を後にした。
【作者】タチアナさんいつ出てくるんやろ。




