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白百合、黒鷲を見守る


情報があった場所に向かうとなんと帝国軍が鉄鱗竜の子どもを攻撃している最中だった。



「今すぐ攻撃を止めろ!!」



威圧全開で大声を張り上げた。

すると、隊員達は驚いてその手を止める。



ギャオォオウ!ギャァア!!



幸い彼等の攻撃は飛び回る鉄鱗竜に全く当たってはいなかった様だが、パニックを起こしてしまっていて暴れている。


「鉄鱗竜よ、聞こえるか!私達はもう君に危害は加えない!ここには来ちゃいけない、君の住処は此方では無いんだ!」



私は精一杯叫ぶが、鉄鱗竜には届いておらず物凄い勢いで旋回をしている。



「……泣いている」


「え?」


私はとりあえずここの責任者と話をしようと踵を返すと、シルヴィがボソリと鉄鱗竜を見上げて言った。


「……カミュ、あの子は私に任せてくれないか?ここの責任者には手出しをしないように言って欲しい。帝国軍であれば、私が行ったと言えばなんとかなるだろう」



「駄目だよ!危な過ぎる!」



「あの子は怖がっているだけだ。私が話をしてくる。この間の長く跳べる靴を貸して欲しい」



翡翠色の瞳はギラギラと輝き、彼女の呂色の髪が靡く。

真っ直ぐとしたその目に『行くな』と言えなくなり、言葉が詰まってしまった。


「シルヴィア様、此方です。今お履きの靴に装着出来る物ですので、そのままお付け下さい」


ノエルが鞄の中から取り出した物をシルヴィに渡す。


「ノエル!」


「カミュ」


ノエルを叱ろうとすると、シルヴィに優しく名前を呼ばれた。


「大丈夫。待っていて」


彼女はにっこりと微笑むとノエルから手渡された物を靴に装着し、飛び上がった。


見た事が無い朗らかな笑顔に唖然としていると

集まり出した帝国軍の中の一人が此方へ向かってくる。



「やはり!カミーユ殿ではないか!」



「お義父様!

話が早い、攻撃は絶対にしないで下さい。もしあの竜が此方に来るなら防御に徹して下さい。今、シルヴィが説得に向かっています」


「な、ど、どういう事だ?」


「あれは鉄鱗竜の子ども。どうやら怯えているだけの様です。あの子が既に親を呼んでいる可能性が有ります。親は怒らせたら災害級の大物、この国ごと丸々焼かれてもおかしくありません」


私が説明をするとお義父様はサーッと顔を青ざめさせた。

そんな事も知らないのか、というかまさか帝国軍総隊長が出て来ているとは。


「あの足の鎖……。誰の命令かは敢えて聞きませんが、国を滅ぼしたくなければ今は私に従って下さい」


「わ、分かった。防御に徹しよう」



竜の素材はレアだ。希少価値が高く、出回る事も無い。

極上の馬鹿が、どうやら軍まで動かして迷い込んだ鉄鱗竜を捕獲しようとしたのだろう。

なんて事だ、国を滅ぼす気か。


帝都から少し離れた森だった事だけが幸いだ。

お義父様は帝国軍を帝都側に配備させ、ノエルから盾を受け取り、皆疑問符を浮かべていたがアルディアン領で使っている物だと言えば納得した様に装着した。

鉄鱗竜の攻撃が有った場合、防御の壁が広範囲で出来る盾を準備したのだ。だが、相手は竜。

正直、他の魔物の素材では歯が立たないかもしれない。無いよりはマシだ、攻撃が無い事が一番なんだけどね。


後は祈るしか無い。


上を見上げると、シルヴィはやっと鉄鱗竜の近く迄行けた所だった。

靴に装着した物に慣れていないという事も有ったが相手は飛び回り、子どもなので予想外の動きをする。近くに行くのも一苦労なのだ。


シルヴィは一度降下すると木の枝に飛び乗り、その枝の反発を利用して高く飛び上がった。


予想していたのだろう。

鉄鱗竜がシルヴィの方へに向かって来るのとそれが重なり、ふわりと鉄鱗竜の背中に降りた。

子どもとはいえど、人間の大人が一人や二人乗れる位の大きさだ。

彼女は暴れ回る鉄鱗竜に振り落とされ無いように抱き締めている。


右へ、左へ、上へ、下へ


私達にも痛いくらいの風圧がビシバシと身体を震わせる。

木が軋む音が聞こえる。

正直、気が気じゃない。本当はシルヴィだけ助かればそれで良いと思っている。

だが、やはりあの厳しい土地での領主として魔物を放っては置けないのだ。


天に祈る様に見上げていると、徐々に旋回が緩やかになっていった。


そして、鉄鱗竜はよろよろと降下し出すと地に足を付けてへたりこむ。


「いい子、いい子。これ、取ってあげようね」


彼女が竜から降りながら、優しく撫でる。


竜は本当に泣いている様だ。

大きなギョロりとした目がうるうるとしている。


「シルヴィア!」


「父上?あぁ…、話は後です。この鎖を外してあげて下さい」


「あ、あぁ。分かった」



グルルルッ、と怒りと悲しみが混ざった声に隊員がビクビクとして中々前に進まないので

私は鍵を受け取り、その枷を外す。



「ごめんね、お互い少し怖かっただけなの。帰る方向を教えてあげるから、ちゃんと帰るのよ?」


シルヴィは鉄鱗竜にそう言うと、撫でていた手を止めて帰る方向を指差す。


「私達の領で自由に飛んでおいで」


私がそう言うと竜は此方を向き、少しだけ頷いた。

本当に言葉が分かるようだ。




『ニンゲン、キライ。デモ、シルヴィアスキ。オマエモイイヤツ。バイバイ』



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