黒鷲、己の心
邸に戻ると慌ただしく部屋に戻らされた。
「シルヴィア様、お召替えをされますか?」
ローザンヌが部屋で服を並べる。
「そうだな、此方にしよう」
少しずつだが、可愛らしい物を着ようと思った。
まだ可愛いドレスを着るのは恥ずかしいのでゆっくりだが、大きなリボンの可愛らしいブラウスを選んだ。
ズボンも今日はもう外には出ないので柔らかそうな生地の物にした。
彼のプラチナブロンドの様な淡い色。
カミュは褒めてくれるだろうか。
鏡で自分を見ると、耳に光るピアスはやはり琥珀色をしていた。
「シルヴィア様、御髪はもしやカミーユ様が?」
「分かるか?」
「えぇ。カミーユ様はとても器用なお方なので。
それに……、愛されておりますね」
「え?」
「此方の髪留めの花はカランコエ。花言葉の一つに『あなたを守る』というものが有ります。
あの方の事です、此方は護身用ですかね?」
まさかの事に顔が一瞬で真っ赤になってしまった。
人から『守る』と思われている事なんてこれが初めてだからだ。
「ご、護身用だと聞いている…」
彼女は
では御髪はそのままに、と言ってにっこりと笑った。
何となく私もその方が良いと思った。
着替えていると扉を叩く音が聞こえて、ローザンヌが確認をする。
「シルヴィア様、カミーユ様がお呼びで御座います。義弟様がいらっしゃっています」
「来客とはサムディだったのか?」
「はい。名前を呼ぶだけで宜しいので、シルヴィア様の確認が欲しいのだと思われます」
「成程。行こう」
危険回避の為に一度部屋に戻された事が何だかむず痒いが
嬉しい
という思いも膨れ上がる。
部屋に通されると、そこにはサムディが居た。
カミュは二人で話せば良いと言う。
わざわざ頬を触る必要は無かったと思うが、彼が居なくなる事に少し寂しさを覚えた。
何故なら
正直、サムディとは余り良い思い出が無い。
彼は私の考えたく無かった事をヅカヅカと言っては言葉で貫いてくる。
カミュの事をちゃんと知りもしない癖に。と思ったが、私もまだ彼の事を色々知ろうとしている最中なのだ。
何も言い返せない。
だが、ふつふつと怒りが湧いてくる。
私の事ならどれだけ言っても構わない。
しかし、カミュの事は別だ。
もし本当に昔は遊んでいたとしても、少なくとも今は彼が一日何をしているか知っているのだ。
他に行っているとは思えない。
思えないが、胸が痛む。
それはとても矛盾しているが、私の頭の中では色んな感情が綯い交ぜになっていた。
更に、サムディは婚姻を破棄して家に帰れと言う。
そしてローザンヌを押し退け、私の手を掴んだ。
掴まれた瞬間ゾワゾワと寒気がして、一刻も早く振り払いたかった。
気付けば、サムディを投げ飛ばしていた。
サムディが気絶してしまい
自分の行動に呆然としていると、カミュがベンジャミンと共に部屋に入ってくる。
「シルヴィ、大丈夫!?」
「あ、あぁ……」
「ベンジャミン、サムディ様は別室へ」
「畏まりました」
「ローザンヌ、何か温かい物を。その後、少し休みなさい」
「その様に」
彼はテキパキと指示を出して、お茶を準備する頃には
いつの間にか部屋に二人きりになっていた。
「シルヴィ…、私の為に怒ってくれてありがとう。
ごめんね、全部聞いていたんだ」
彼はそう言うとお茶を目の前に置いて、自分の耳のピアスを指差した。
「き、聞いていたのか…」
「うん。彼とは義姉弟だと聞いていたからね、少し安全策を取らせて貰っていたんだ」
「すまない…、義弟が酷い事を……」
「私は良いんだ。慣れているよ」
「そ…、そうなのか」
申し訳無かった。
言われ慣れるとしても傷付く事に変わりは無いのに。
「シルヴィ、その服とても似合っているよ」
彼はそう言って花が綻ぶ様に笑う。
「…カミュだけだ、そんな風に言ってくれるのは」
「そんな事無いよ。可愛い」
「大多数はサムディと同じ意見だ」
「シルヴィ…?」
卑屈になっていると、彼は少し心配してくれたのか手を伸ばして私に触れようとした。
先程の事を思い出してしまい、その手にビクッと肩を揺らしてしまう。
すると、カミュは少し驚いて手を引っ込めてしまった。
「あっ、す、すまない……!」
「ううん、怖かったね。助けてあげられなくて、ごめんね」
彼は眉を下げながら謝ってくれる。
別に危害を加えられた訳でも無く、彼が謝る必要等無いのに。
何時もなら、抱き締めてくれていたのだろうか。
『お前のような女に本気になる筈が無い』
サムディの言葉が頭に響く。
そうだ、彼は私以外の女性にもきっと優しくしているのだ。
私以外にも、愛を囁いたのだ。
「シルヴィも帰って来て疲れているだろうし、少し休むと良いよ」
彼は違う侍女を呼ぶと、私を部屋へと戻した。
その日の夜は、ベッドに潜り寝たフリをした。
「シルヴィ、おやすみ」
後から入って来た彼は、甘く囁く。
何時もなら、頭を撫でてくれたのだろうか。
私以外にも、そんな事をしたのだろうか。




