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8. 恐怖と魔王

あれからエリス王子と食事を済ませ、空白の時間を埋めるように近くの植物園を散歩しながら色々な話をした。

絶縁状態となったこともあり、一度も足を踏み入れたことのないティンガ国。

歴史は勿論、南国の特徴である祭り等。

初めて聞く話ばかりで断罪のことを考えずに過ごせることが今まであっただろうかと考えていた。

そんな時間はあっという間に過ぎ、帰りの馬車に乗る頃には日も落ち始めている。

ルシフェルには昼頃に帰る予定だとそう伝えてしまったが、彼は怒っているだろうか。

小さくため息を零しながら窓の外を眺めていると、まだ目的地に着いていないはずなのに馬車がゆっくりと止まっていった。

何事かと確認するべく扉に手を掛けようとしたのと同時に目の前の空間が歪み鋭い大きな爪と毛むくじゃらの腕が現れる。

空いている向かい側の椅子へその腕を下ろせば、ギシリと大きな音を立てながら馬車が軋み、これ以上体重を掛けたらその重みで壊れてしまうだろう。

さてどうしたものか。

この歪みもこの腕も見覚えがありすぎて驚きはしたものの声は出なかった。

やはり彼を怒らせてしまったのだろう。

帰りの時間を事前に知らせるのは今後一切やめようとそう心に誓いながら彼の出方を待つ。


「…。」


「…。」


「…。」


「…言いたいことはないの。」


「なぜ獣化されているのですか?」


「…。」


「やはり怒ってみえるのですね。わたくしもこんな時間になるとは思っていませんでしたので、それに関しては謝罪いたします。」


「…それだけ?」


「ええ。」


「…ならいい。」


「…納得されたのなら獣化した腕をしまっていただけますか?このままではずっと馬車が動きませんし、それが目的であればわたくしは野宿できる場所を探さないといけませんから。」


「君に野宿なんてさせないよ。」


彼はそう言うと大きな腕でソフィアの身体をすっぽり掴むと歪みの中へと連れ去っていく。

真っ暗な世界は一瞬だけですぐに最近見慣れた部屋の中で、さすが便利だと感心した。


「魔王様、嫉妬は見苦しいですよ。」


「死にたいか?今日の俺様は優しくできないぞ。」


いつもと違う口調。

城下町で見た獣化と違うその姿は恐怖の根源である魔王なのだと再認識させられた。

無意識のうちに震える手をぎゅっと握ることで誤魔化しているが、心に渦巻く恐怖は消すことはできない。

とはいえルシフェルとレティは全く気付いていないようだ。

今回の出来事は自らの過ちだけに、逃げてしまいたくなる気持ちを抑えながら心の中で何度も怖くないと念仏のように唱える。


「魔王様のお気持ちが少しでも晴れるのであればどうぞ。」


「レティ!そ、それはわたくしの役目です。ルシフェル様はわたくしに怒りを感じておられるのですから…貴女が身代りになるなんて絶対にありえません。」


彼女のその言葉に思わず立ちはだかったが、その態度に余計気分を害してしまったようで濃い紫煙に部屋が包み込まれていく。

思わず目を背けてしまいそうになりながらも自分のせいで関係のないレティに何かあっては耐えられない。


「魔王様は本気ではありませんから心配いりませんよ。」


ソフィアの気持ちを落ち着けるように優しい声色で言った彼女は漂う紫煙を取り払うべく、近くの窓を全開にしていった。

それを見ながらしばらく黙っていたルシフェルだったが、少し落ち着きを取り戻したのか。

紫煙を吐き出すのは変わらないが猛獣の姿から人間の姿へと変化していく。


「…俺のこと嫌いになった?」


「…。」


「俺は見ての通り嫉妬深い。…そういうのは嫌われる?」


「…き、嫌ったりはしていませんよ。今回はわたくしがお伝えした時間より遅くなってしまいましたから。こちらの非であることは確かです。もし怒りが沈められないのであればこの身で罰をお受けします。」


「…俺がソフィアに罰を受けさせるわけないよ。だからそんな顔しないで…。」


急激に萎れた花のように勢いを失くした彼。

瞬間移動でソフィアの目の前へと移動し、彼女を引き寄せようと手を伸ばしたがビクッと震える彼女の姿は追い打ちをかけるのには十分でその手は触れることなく元に戻された。


「…ご、ごめんなさい。」


いきなりのことに正直に反応してしまった身体にやってしまったと後悔して謝ってみるが、ルシフェルの表情は氷のように冷たいままだ。

また怒らせてしまったのだろうかと不安げな表情をする彼女に彼はこれ以上近づくことすらできなかった。


「…少し夜風に当たってくるよ。君は先に寝てていいからね。」


ルシフェルはそう言うとその場からいなくなってしまう。

彼の姿が見えなくなったのと同時に緊張の糸が切れ、目の前が真っ暗になっていく。

倒れる。

そう感じながらも自分ではどうすることも出来ず逆らうことなく目を閉じるのだった。

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