12. 露店と海
1日ゆっくり眠ったこともあり、身体は驚くほど軽い。
朝食を済ませ、エリスの案内で露店へと繰り出してみたが、好奇な視線と共に道が開いていくのを感じる。
「もしかして私、お邪魔してしまったのでしょうか…。」
「違うよ。皆、父上が見初める程の女性がどんな人物か気になって仕方ないんだ。」
「?」
「ほら、父上って厳格なところがあるだろう?だから君に何か失礼をしたらと少し距離を開けてるってだけだよ。」
「失礼なんて…むしろこちらが突然訪問してしまっているくらいですし。」
「ソフィならいつでも大歓迎だよ。ほら、これがティンガの名物でハイビスカスティー。少し酸味があるけど身体にとてもいいから是非飲んでもらいたいな。」
ニコニコと笑みを浮かべながらそう言った彼に促されるまま喉に通せば甘みを消さない程度の酸味が飲みやすい。
「…美味しい。」
「ふふ。このままカヌーに乗りに行こうか。今の時期は海がとても綺麗だから魚がたくさん見れると思うよ。」
「それは楽しみ。」
準備されていたのは二人乗りのカヌーでカラフルに色付けされている。
初めて乗るカヌーは海に浮いているだけあってぐらぐらと揺れてバランスがと取りづらい。
先に乗ったエリスが簡単そうにしていたので、こんなにも難しいのかと驚いてしまった。
「僕が支えているから大丈夫だよ。ほら、ここに座って。」
優しい手つきで促されるまま腰を下ろせば、やっと足元の不安定さが無くなる。
青い日傘を手渡されるとゆっくり動き始めた。
「僕は慣れているけどティンガの日差しはソフィには強すぎるからね。」
「ありがとうございます。」
「ううん、ただ僕が君の肌を傷つけたくないってだけだから。」
「ふふ。小麦色の肌は似合わないかな?」
「ソフィなら似合うよ。でも元が白い肌の人が日焼けすると火傷を負うような状態になるってゼブから聞いたから今日は日傘を差していてね。」
その言葉に笑顔で頷けば、安心したのかほっとした表情が見える。
困らせるつもりはなかったのにと考えながら透き通る海に手を入れれば、ひんやりとしていて気持ちがいい。
遠くに魚達が群れで泳いでるのが見える。
エリスの言っていた通り、とてもカラフルで水族館に来ているみたいだと景色を楽しんでいた。
この世界にきてこんなにも穏やかな気持ちになるのは久しぶりだ。
人気のない沖に来たようでただ波の音だけが聞こえてくる。
ふと視線を空に向けると遠くに見える黒い点に鳥だろうかと目を細めてみるが、あんなに高空域を飛べるのだろうか。
「どうしたの?」
「あの黒い点が気になってしまって。」
「動いてないから鳥じゃないみたいだけど。なんだろうね。」
二人で空を見上げながら答えを探していたが、結局何かはわからないままだった。
島をぐるりと一周するようで再び動き出したカヌーに揺られながら何もない地平線をただ眺めている。
「ここなら下りられるよ。」
「え?」
「ティンガは遠浅だからね。波が穏やかでカヌーの移動が容易なのはそれが理由なんだ。」
「本当だ、ここ地面が見えてる。」
軽い身のこなしで砂浜に降りたエリスはしっかりとカヌーを押さえてくれるようだ。
波で少し揺れるが、彼の言う通り穏やかなだけあって簡単に降りられる。
砂浜の周り全てが海なんて旅行広告で見たことがあるくらいで、自分の目で見られるとは思わなかったと心躍らせながら辺りを見回しながら浅瀬の海に入って行く。
この辺りは少し暖かいようで魚はあまり見えないが透明度の高い水は青というより水色に近い色をしていた。
「…ソフィ!」
いきなり声を掛けられ振り返ると、何故か彼の泣きそうな表情が見える。
「どうされました?」
「…ソフィがこのまま遠くに行ってしまいそうで怖くなったんだ。」
不安げな表情をさらに濃くするエリス。
どこかに行くなんて考えても無かっただけに困った表情を浮かべながらゆったりとした足取りで彼の傍へと近づいていくのだった。




