表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/15

1. 断罪

もう何度目だろう。

私はこの断罪と呼ばれるシーンで婚約者であるレオンハルト王子からヒロインに対する数々の悪事を暴露され、婚約破棄を告げられた上に王国騎士により処刑されてしまうのだ。


そう。


この世界は私が元いた世界で流行っていた乙女ゲーム「王子様との初恋」でのワンシーンだ。

実際にゲームしていた時はヒロインを操作し、悪役令嬢による嫌がらせを上手く利用しながら王子との関係を深める立場だった。

それなのに転生した先はヒロインを虐める悪役令嬢のソフィア・フォン・レオルディーネで。

断罪の直前から始まった転生を何度も繰り替えし、今回は幼少期からのやり直し。

処刑の原因となりえる両親はもちろん、従者や侍女に対する態度を改め、婚約者の王子には嫌われず好かれずの細心の注意を払い、ヒロインや他の攻略対象の王子達には極力近付かないよう気を付けながら過ごしてきた。

これだけの努力をしてきたにも関わらず、断罪イベントは発生するのだ。

物語の強制力。

そんなものを理解してしまったらもう諦めるしかないじゃないか。

私が今まで何度も何度も頑張ってきたことは全て無駄だったのだと、そう思ったら何故か笑えてきた。


「ふふふ。」


「何がおかしい!?」


「いえ、あまりにもわたくしが滑稽で自傷していたのです。」


「どういう意味だ。」


「今までやっていたことが何の意味もなかったのですよ。だから笑うしかありませんの。」


「何を言っている。君は今裁かれる立場のはず…!」


怒気を含んだ視線を向けた彼の言葉を遮ったのは何かの黒い影で、それと同時に怖いくらいの冷気が漂い始めた。

突然のことに皆驚きながらも、黒い影へと視線を集めている。

中から出てきたのは黄金色の髪の青年で、長い漆黒の睫毛を揺らしながらゆっくりと瞼を上げる。

蒼穹の如く澄み渡る青い瞳と綺麗過ぎる程の端整な顔立ちは人とは思えないものだ。


「お待たせ、ソフィア。」


「え?」


「そこのニンゲン。なんで俺のソフィアを泣かせてるの。もしかして死にたい?」


「!?」


「王族になんと無礼な!!」


「オウゾク?なるほど。これがニンゲンのオウゾクでこれがニンゲンのオウジってやつか。俺を知らないなんて世間知らずもいいとこだね。」


「なんだと!?」


「貴方は一体…?」


「俺のこと本当に覚えてないの?」


ジッと覗き込んでくるその瞳には何故か見覚えがある。

思い浮かんだのは屋敷の庭に住み着いていた黄金色の毛並みをした小さな犬で、幼少期に出会ってから私の愚痴を聞いてくれる大事な存在だった。

まさかと思いながらその名を呟くと小さく吐息を漏らす彼。


「俺をポチなんていうのはソフィアくらいだよ。これでも魔王ルシフェルって呼ばれてるのに。」


「魔王ルシフェル…様?」


「そう。君がニンゲンのオウジと婚約破棄するのを今か今かと待ち望んでいたんだよ。ソフィアが本当にソレを好きなら奪ったりしないけど、問題ないよね。レオルディーネ伯爵。」


「もちろんです。ですが、私も父親。娘のソフィアが悲しむ姿は見たくはありません。」


「ニンゲンにしてはいい目をしてるね。ソフィアを悲しませるなんて真似、俺は絶対にしないよ。君の令嬢にしか興味がないからね。婚約者がいるのに他所に目を向けるゴミと一緒にしないでもらいたいな。」


「これは失礼いたしました。」


「俺の王妃はオススメだよ。魔王は不老不死で最強の存在だから誰にも負ける心配ないし。」


「なぜ、わたくしを…お選びに。」


「一目惚れかな。」


「一目惚れですか?そのような魅力は持ち合わせていないと思いますが…。」


「持っているよ。才色兼備で自信に満ち溢れているのに俺の前ではいつも不安そうな表情を見せる。俺だけが知るソフィア。最高だね。」


優越感に表情を緩めていた彼だが、目の前を取り囲む騎士の姿に視線が鋭くなる。


「なに?俺に逆らうの。」


「魔王様に逆らうつもりは!しかし、ソフィア・フォン・レオルディーネ嬢は裁かねばなりません!」


「…裁くだ?下等生物が俺のモノを裁くなんて消すよ。」


ルシフェルの青い瞳は赤く浸食されていき、それと同時に騎士たちの身体が宙に浮いていく。

禍々しい魔力が辺りを包み込み騎士たちの断末魔が響き渡った。

ぐちゃりという音が聞こえたかと思うと大理石の床を真っ赤に染ていく。

騎士の身体はあらぬ方向へと曲がり、すでに絶命していることが伺えた。


「さて、下僕として蘇ってもらおうか。アンデット。」


この言葉で死体となっていた騎士の身体が動き出し、地面へと降り立つ。

純白の鎧は黒く染まり、魔王である彼に傅き命令を待っているようだ。


「ここにいるニンゲン全て消せ。」


その瞳と口元に浮かべられた歪な笑みは本気であることが伺えた。

アンデットはゆっくりと立ち上がり腰にあった剣をゆっくり抜けば、黒い刀身が見える。


「わたくしはやはり今回も死ぬ運命なのですね…。」


誰にも聞こえないくらいの小さな声でぽつりとつぶやいた。

もう転生は終わりにしてほしいと願いながら天井を見上げるとキラキラと輝くシャンデリアと精巧な装飾の数々。

ゲームのプレイ中に魔王が出てくるイベントは一度も経験したことはなかったが、多数のエンディングがあると書いてあった。

その中でも結局悪役令嬢が殺されるという内容には変わらないのだろう。


「…君は何を言っているんだい?」


「え?」


「俺が大事な君を殺すはずないだろう?…二度と死という言葉は聞きたくないな。もし、そんなことが起きたら俺はこの世界を滅ぼし、君だけ居る世界に作り替える。それでもいい?」


「それは…ダメです。」


真っ先に頭に浮かんだのは両親や年の離れた兄に屋敷の侍女達で、皆とても優しく私を可愛がってくれていた。

その愛情は悪役令嬢として傲慢な態度を取っていた頃ですら変わらず、本当に彼女は愛されているのだと感じる程。

そんな皆が居なくなってしまう世界などあってはならない。

絶対にだ。

でもどうすればよいのだろう。

私は悪役令嬢。

何をしても物語の強制力が働いてしまうのは断罪イベントで理解済みだ。

魔王のイベントはプレイしていないからどれが正解のルートなのかもわからない。


「…何を悩んでいるの?もしかして俺のこと好きすぎるとか?」


「いえ、違います。」


「即答!?酷いなあ、今ので傷付いた…。」


つい本音が出てしまったことで、ルシフェルはがっくりと肩を落としている。


「ルシフェル様がここにいる皆様を殺さない方法を考えているのです。わたくしはただの伯爵令嬢。戦う力などありませんし、戦ったとして負けるのは明白でございます。ですから…。」


「ソフィアが望むのなら俺は手を出さないよ。ほらアンデットも止まっただろう。」


そういって示す先には黒騎士となったアンデットがおり、レオンハルトに斬りかかる直前で動きを停止し首だけこちらへと向けていた。

不気味…そう思ってしまうのは仕方がないことだろう。

人間ではありえない首の方向を向いてこちらをじっと見つめているいるのだ。


「ソフィア、君に3つの選択肢をあげよう。1、俺の妻になる。2、俺の妻になる。3、俺の妻になる。さてどれがいい?」


「全部同じではありませんか。」


「うん。でも1を選べばここにいるニンゲン全てを殺すだけで許してあげる。2を選べばニンゲンを滅ぼすだけで許してあげる。3はニンゲンを俺の下僕にするだけで許してあげる。どれがいいかな。」


「…どれも選べません。」


「どうして?」


「この中にはわたくしが大切に想っている者がおります。それに、わたくしも貴方様の言う下等生物である人間ですから。大切な者を奪われて生きるくらいであれば潔く死を受け入れます。」


「…気高いね。でもそれは許されないよ。君は俺から逃げることはできない。」


「でしたら、3つの選択肢をご提案させていただきますわ。1、人間を滅ぼさない。2、人間に危害を加えない。3、人間を大切にする。いかがでしょう。」


「どれも結果は同じ事を言っていると思うけど?」


「ルシフェル様からご提案を参考にしましたの。」


「…ならばこうしよう。君が俺の妻になるのは確定事項だ。今回のことは水に流すよう努力する。けど、今後ソフィアに何かしたらそのニンゲンは消す。どうかな?俺が譲歩できるのはここが限界だ。これ以上を望むのであれば君の意見を尊重して大切に想っているというニンゲン以外を消すしかない。」


「わ、わかりましたわ。」


「ということだ。ニンゲン、ソフィアの寛大な心に感謝するんだね。」


そう零したのと同時に視界に見えていた景色が少しずつ変化し、見たことのない場所へと移っていくだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ