超ショートショート『飛び出す日記』No114
日記の様子がおかしい
さっきからふるふるとふるえたり、ちょっとだけ飛び跳ねたりしている。
私の日記は赤色で、金メッキの鍵付きなのだが、まるで鍵穴のある「ちょうつがい」が苦しいかのようだ。
私は恐る恐る、鍵を開けた…
私は普段からあまり日記を書かない。
日記自体も雑貨やら服やらの山に埋もれていたのだ。
だから、日記の中身がいつのまにか『飛び出す絵本』になっていなのは、本当に驚いた。
パラとページをめくる毎に、日記は嬉しそうにパンっと震え、厚紙でできた精巧な紙細工が現れる。
それも私の思い出のとおりの(あるいはそれ以上に)美麗な世界なのだ。
柔らかな桜色に染まる一本道と、その先の白い病院。
私は怪我をしたのだった。そこで暇つぶしに日記を書きはじめたのだ。
ソーダ水みたいな藍色の空と、ドパーンと弾け飛ぶ大きな花火。
この日のお祭りで食べた屋台のたこ焼きはおいしかった。
カラフルなオレンジにまみれた空と山。
あの山で見た夕日は、寒かったけどとても綺麗だった。
そして…
そこからは、ずっと白紙だった。
...これからは、日記を書こうかな。
私は日記を置くと、ベージュのチェスターコートに、赤いチェックのマフラーを着る。
そして私は白いページを埋めるために、雪降る白い街へと出かけた。
吐く息は白く、でも私の心は楽しげに跳ねていた。