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あなたの悪魔とわたしの天使  作者: 鈴森 心桜
7/22

第七話「魔女の魔法」

ハールート「見ィつけたァ!」


此処に安全なところなんて無い。

そもそも魔女達の領域なのだから、

誰が何処にいるかの把握など

容易いのかもしれない。

部屋の小窓にへばりつくように

上から現れたハールートは、

不気味な笑みを見せると窓を割った。

その破片が此方へ飛んでくる前に、

私とルシファーは後方へと退き、

一刻も早く部屋から出た。

だが扉を開けると、

其処は先程走っていた廊下ではなく、

私が一番最初に目覚めた場所に

似た雰囲気を漂わせる大ホールだった。

突然の出来事に自然と

走り出そうとした足は止まり、

目の前の光景に目を奪われる。


ルシファー「また違うところ…!」


ルシファーは迷路のようなこの空間に

怒りを覚え始めたのか、舌打ちを零すと

さっさと部屋の外へと出ていった。

私も彼女と同じようにホールへ

向かおうと歩を進める。


マールート「退屈だわ。」


低い声が聞こえた。

失礼かもしれないが、

女性にしてはかなり低い声が。

声の場所を辿ると、

大ホールの真ん中に

マールートが立っているのが見えた。

すると私達の背後ではなく、

マールートの背後から

ハールートも平然と歩いてきた。

背後を振り返って見るが、

当然ハールートは居ない。

先程彼女が割った窓も、

割れてもいなければ、

破片が散ってもいなかった。

まるで何事もなかったかのように。

困惑しながら前に向き直ると、

双子が手を繋いで此方に歩いてきていた。


マールート「お仲間が苗床にされているのを見せれば、少しはやる気が出ると思っていたけれど全然変わらない。逃げてばかりでとてもつまらない。」


ハールート「初めに言ったでしょう?僕達にとって退屈は毒なの。貴女なら僕達を退屈にさせないと思ったのに、それが間違いだった。」


マールート「もう良いわ。最終ステージと行きましょう、…どちらかが死ぬまで、このホールで踊り続けましょう!」


マールートの声を合図に、

ホールに華麗な曲が流れだした。

まるで何処かで演奏しているのではないかと

思うほど、音は近くで聴こえてきた。


ミカエル「…相手は魔女だ。何の魔法を使うかもわからない。油断はするな。」


ルシファー「えぇ。わかっているわ。」


会話が終わり次第、

ルシファーは一人で双子の元へと

突っ込んで行った。

人より戦闘が好きな彼女にとっては、

これは美味しい展開のようだ。


ルシファー「木縛(アーブル・アタシェ)。」


ルシファーの赤い瞳がより赤く光り輝き、

彼女が右手を横に払うと、

地面から太い木の根が伸びてきた。

その木の根は双子を拘束する。


ルシファー「…殺す前に一つ聞きたいわ。この領域に居た私にそっくりな女性は一体誰なの。悪魔のような容姿をしていたけれど。貴女達なら知っているんでしょう?」


どうやら尋問をするつもりらしい。

先刻出会ったというその女性は、

ルシファーにとって知識意欲を

唆られる相手なのだろう。

私にとっての"天使"のように。


ハールート「…誰がそう易々と教えるものか。知りたかったら自分で思い出すことね。」


マールート「そうよ。忘れているだけで、思い出せないわけではないのだから!」


ルシファーが一歩、一歩と

近付いて行く度に

双子が微かに呻くことから、

彼女はじわじわと

木の根の締め付ける力を強めているようだ。

それでもなお、双子達の饒舌は止まらない。


ハールート「僕達は負けるわけにはいかない。彼女の為に、全て取り戻すっ…!!」


突然、ハールートを締め付ける木の根が

赤く光りながら消滅した。

事態に驚き、私達は油断していた。

拘束の無くなったハールートが、

直ぐ近くまで歩み寄って来ていた

ルシファーの体に横から蹴りを入れたのだ。


ルシファー「なっ…ぐっ!?」


ミカエル「チッ…!」


寸前で受身は取ったようだが、

ルシファーはそのまま壁へと飛ばされた。

大きな音を立ててぶつかったので

壁は粉砕し、土埃が起こる。

その間もハールートは

マールートの所へ行き、

同じように拘束する木の根を消滅させる。

私は仕方なくルシファーを後回しにし、

魔力を小塊にして双子に向かって打つ。

するとそれはマールートの左腕に当たり、

彼女の左腕は肘から下が吹っ飛んだ。


マールート「あっ、僕の腕がっ…!!」


マールートは慌てて

吹っ飛んだ肘から下の部分を

取りに行くと、傷口の部分にくっ付ける。

するとその部分が淡い紫色に光りだした。

彼女が肩から下へ手を滑らすと、

右手が傷口部分を通り過ぎた時には

もう何も残っていなかった。


ミカエル「何だ、不死身の有能力者(アヴィリター)か?」


ルシファー「え、再生じゃなくて!?」


壁の中から出てきたルシファーへ目をやると、

右腕部分の服は破れ、

見える腕は赤く腫れ上がっていた。

どうやらハールートの蹴りは

かなり重たいものだったらしい。


ルシファー「治癒(クラーレ)。」


治癒魔法で素早く治すと、

私の隣へと戻ってくる。

彼女の破れた服の隙間から見える右腕は

赤みが消え、何事もなかったかのように

健康な腕になっていた。

それを確認してから

再び双子の方へ目を向けると、

ハールートがマールートの治した左腕を

ブランブランと揺らしていた。

自分達の領域内だからか、

随分余裕のようだ。


ミカエル「…"治す"と言う点は間違っていない筈だ。何にしろ厄介なのには変わりない。」


この世界には有能力者(アヴィリター)

非能力者(シャロウ)が居る。

有能力者は生まれつき魔力を持つ

私達のような存在のことを意味し、

非能力者はそのような魔力を持たずに

生まれた存在を意味する。

有能力者は覚えれば何の魔法だって使える。

だが得意不得意は必ずある。

もし生まれた時に併せ持つ体内の魔力が

炎属性に近ければ近いほど炎魔法が得意。

対して正反対の水魔法等は、

使えるが得意ではない筈だ。

そのように、魔力を持った存在は

必ず自分の得意な魔法を持っている。

なので必ず双子にも得意な魔法がある筈だ。

それを解明しなければ、

闘おうにも闘えない。


ハールート「貰うわね、マールート。吸収(アプソルシオン)解放(リベラシオン)。」


突然、ハールートが

聞き慣れない呪文のようなものを

口にすると、マールートの左腕を撫でた。

そして何かを掴んだように

握り拳を作り、それを此方に投げて来た。

此方に向かって飛んでくる

光の集合体のようなものに対して

私とルシファーはそれが何か

わからなかったが、取り敢えず避けた。

その行動は正解だった。

集合体は先程まで私達の居た地面を

粉々に粉砕していた。


ミカエル「…あたったら一溜りもないな。」


隣に居るルシファーを見ると、

彼女は笑っていた。

この場に似合わないほど輝かしい笑顔を

顔に浮かべていた。

その姿に驚嘆し、

怪訝な表情をしていたのだろう。

視線に気付いたルシファーは、

私の方へ顔を向けると

笑顔を苦笑いに変え、口を開いた。


ルシファー「…わかったわ。彼女達の得意魔法。双子なのに全然正反対。…まるで私達みたい。」


ミカエル「………。」


どうやらあの笑顔は、

辿り着けなかった答えを見つけた

喜びによるものだったらしい。

ルシファーは性格に反して聡明だ。

要領が良いし、頭も切れる。

私が黙って彼女が口を開くのを待つと、

ルシファーはまた苦笑いを浮かべながら

渋々と言った感じに口を開こうとする。

だがそれを許さないかのように

ハールートはまた光の集合体を

此方へ投げてくる。


ルシファー「ハールートは木縛を消して、マールートの怪我部分を撫でると光の集合体を作ったわ。」


ミカエル「マールートは吹っ飛んだ右腕を元通りにくっつけた。」


ハールートの攻撃をそれぞれ避けながら

会話を続ける。

彼女は殆ど乱雑に撃っているだけだ。

特別狙っているわけではないようなので、

避けるのはそれほど難しくはない。

だがステージは平面の大ホールだ。

身を隠す場所もなければ

盾にするものさえ無い。

ハールートが攻撃をしてくる限り、

私達は落ち着いて話も出来ない。


ルシファー「恐らくハールートはショック吸収・解放…と言ったところ。マールートは超再生でしょう。」


マールート「随分と余裕そうね。」


だが片割れの存在も忘れてはいけない。

ルシファーが壁に蹴飛ばされた時

私が咄嗟に魔力の小塊を投げたように、

ハールートが乱射をしている間、

マールートが棒立ちしているわけがない。

私達が避けるのを邪魔するかのように

マールートが近寄って来た。

そして此処に来て初めて杖を取り出した。

金色のそれは先端に紫色の光を集めだす。


ミカエル「っ!!ルシッ…!」


キィィィィンッといった音が聴こえた。

まるで糸が張り詰められたような、

金属と金属がぶつかったような耳障りな音。

咄嗟に私達は耳を押さえる。

だが遅かったようだ。

耳を触った時に

ドロッとしたものが手に伝った。

手の平を視界に入れると、

赤黒い液体が流れていた。

先刻の音で鼓膜が破れたのだろう。

その所為で現状を忘れていた。

鼓膜が破れた原因である

マールートの存在を忘れていたのだ。

ハッと思い出した時には遅かった。

目の前にはマールート。

流石は双子と言ったところだろうか。

二人とも足癖が悪いらしい。


ミカエル「ふぐっ!!」


マールートは私の二の腕部分を思い切り蹴った。

受け身をとる前に先にやられてしまった。

今なら先刻ハールートに蹴飛ばされた

ルシファーの痛みがよく分かる。

同じように私は壁に飛ばされた。

蹴られた部分と、壁にぶつかった部分、

両方からの痛みに歯を食いしばる。

ルシファーの私を呼ぶ声が聞こえたが、

それに反応するのも面倒臭く思えてくる。


ミカエル「…ゲホッ、音魔法か。超再生だけで十分だろ。」


先程の音はマールートの杖が出したものだ。

杖の先端に音魔法を集めて高音を出し、

私達の耳を弱らせ、その隙をついた。

魔女なので超再生以外の魔法が

使えるのはわかっていたが、

まさか音魔法だとは思っていなかった。

音魔法は魔法の中で

使いずらい魔法の一つで、

大雑把に言えば質が悪い。

音自体を操るので地味だが、影響は大きい。

現に私は鼓膜が破れた。

未だ出血している耳を素早く治癒をすると、

なんとか怠い体を起こし、辺りを見回す。

壁が壊れたことにより

私が今座っている床は鋭利な欠片だらけ。

手をついたら余計な怪我をしそうなので、

隣にあった柱に手をついて立ち上がった。

無いと思っていたが、

どうやら壁の中にあったようだ。

そう思い柱を見上げるが、

其処には柱なんてものはなかった。

私が手をついたのは、

大きな天使の銅像だった。

私に似た容姿のそれは、

夢に出てくるあの天使そっくりだった。

初めて見る素顔は、

憂いの表情を浮かべていた。


ミカエル「あの天使…。」


ハールート「っ!触らないで!!」


私が銅像を触っているのが不快だったのか、

ハールートの杖から暴風が巻き起こった。

まだ耳しか治していないので体が重たい。

嗚呼また吹っ飛ばされるのか、と

気分を重くしながら向かってくる暴風に

一応受け身を取ろうと体制を低くする。

だが突然視界が暗くなった。


ルシファー「防御(デファンス)!」


私を守るかのように

ルシファーが前に立ったのだ。

瞬間、私と彼女を包むように

赤い防御結界が張られる。

それはハールートの暴風を受けても

ビクともしなかった。

ハールートは舌打ちを

一つ零すと攻撃を止めた。


ミカエル「…悪いなルシファー。」


ルシファー「世話のかかる姉だこと。」


攻撃を止めたハールートを気にしながら、

直ぐに全身に治癒をする。

この大ホールに来るまでに

かなり魔力を消費した。

そろそろ体力的にも限界かもしれない。

双子の方へ視線を向けると、

何方も私達を鋭い眼光で睨みつけていた。


ハールート「…一刻も早く其処から離れなさいミカエル。」


ミカエル「…そんなにこれが大事?」


私は脅すように銅像に触れ、

目を赤く光らせた。

そして銅像の足場に少しだけヒビを入れた。

それを見た双子は血相を変え、

此方へ飛んできた。

流石双子。考えることは同じらしい。

だが忘れないで欲しい。

彼女達に比べれば似ても似つかないが、

私とルシファーも双子だ。


マールート「やめろ!!」


近付いてきたマールートの方を

ルシファーが直ぐに押さえつける。

大きな音を立てて床に突っ伏す形に

押さえつけられたマールートは、

顔だけ上に跨るルシファーへ向け、

再び睨んだ。


ルシファー「早計は命取りよマールート。」


マールート「僕に…、触るなっ…。」


ハールート「マールート!!……はっ!」


片割れに何かがあれば、

其処に意識が行く。

双子なら当たり前の行動だ。

その隙を見逃すほど馬鹿ではない。

ルシファーがマールートにしたように、

私も余所見をしたハールートを

床に押さえつける。


ミカエル「よし。やっと落ち着いた。」


魔法を使って拘束しても

またハールートに消されるだけなので、

自分達から行くことにした。

魔法を使わない拘束なら

ハールートにも消せないだろう。

ギリッと力を強め、

睨んでくる彼女に顔を近付け、

私は一言発した。


ミカエル「さぁ、知っていること全て話せ。」

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