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あなたの悪魔とわたしの天使  作者: 鈴森 心桜
6/22

第六話「床下の水晶」

ミカエル視点ー


植物園の次に緻密に組まれた迷路、

そして遊園地を抜けた私は、

最後にオペラ劇場へと辿り着いた。

扉を開けた瞬間、目に入ったのは

ステージの上で煌びやかな服を着て

演じている最中のように

立たされたマネキン達。


マールート「随分似ているでしょう?ここまで似せるのに苦労したわ。」


先程まで後ろから私を追ってきていた筈の

双子の片方は、いつの間に移動したのか、

マネキンと共にステージの上に居た。

すると、出会った当初のように

其処にスポットライトがあてられる。

彼女はすぐ近くに居る

マネキンの顔を撫でる。

それは綺麗な和服を着ていて、

長い金髪がよく映えるマネキンだった。


ハールート「あらあら、此処まで辿り着いちゃった。」


ミカエル「!!」


背後からした声に驚いて振り向くと、

双子のもう片方がすぐ後ろに居た。

屹度マリンブルーの髪色の

此方がハールートだ。

前髪の編み方も左右で違う。

彼女はステージに向けていた視線を

私に合わせてニッコリと笑った。


ハールート「そっくりでしょう?貴女の養母よ。」


ステージの上で、

マールートであろう少女の隣に

立っているマネキンは、

母のさくやにそっくりだった。

彼女の左後ろには

ティーポットを持つバルティニュム。

マールートの右隣には

レヴェートとガルデンが立っていて、

その隣には椅子に座るソルベイトとサノン。

ステージの上で演じているマネキン達は、

妖桜館の住人に見立てられているのだ。


ミカエル「…遊ぶために私達を此処へ連れてきたと言っていたな。本当の理由は何だ。そんな浅い理由ではないんだろう?」


目覚めてから、

この劇場まで私は逃げていた。

彼女達の言う小夜啼鳥が

籠から逃げ出そうとしているのに、

双子は私に手を掛けようとはしなかった。

逃げたことに焦り、

捕まえようと追ってきたが、

道中、杖を使おうとしなかった。

此処は彼女達の領域だ。

自分の領域では、

玩具を手駒にするのも容易だろうに。

何故か双子はそうしなかった。

殺そうと思えば、殺せた筈だ。

まるで最初から私をこの劇場へと

誘導するように、

各部屋に居る怪物達が襲ってくるだけで

双子は手を出してこなかった。


ハールート「この素敵なオペラを見せたかったのもあるけれど、本当は足元なの。」


マールート「これが僕達の本当に見せたかったもの。」


すると突然、

劇場の観覧席が光を出して消え始めた。

同時に私の足元も消えだす。

足場の無くなった私は浮遊感に襲われるが、

背中に違和感を感じた。

振り向くと、ハールートが

私の背中に手を当てていた。

そして次の瞬間には、

二人共ステージの上に居て、

マールートと共に消えゆく観覧席を見ていた。

観覧席はあっという間に消えてしまい、

残ったのは広いガラス張りの床。

よく見ると、

床下にはまだ何かあるようで、

目を凝らせば、ソレが何かわかった。


ミカエル「……嘘、だろ。」


それは、妖桜館の住人達だった。

全員床下にある水晶の中に

眠姫のように閉じ込められている。


ハールート「魔女はね、自分の力で領域を維持するの。だけど、僕達は他の魔女より力が弱い。」


マールート「だから、彼らの生気を此処の苗床として使ってるの!」


ハールート&マールート「キャハハハッ!」


二つの笑い声が重なる。

それは憎たらしい双子の声。

彼女達が言っていた"理由"は、

あながち間違ってはいないのだろう。

妖桜館の住人から生気を吸い取ることで

足りない魔力を補い、

そうして維持される自分達の領域内で

私と遊ぶために、双子は私達を誘った。


ハールート「ねぇ、今どんな気分?」


マールート「僕達が憎い?殺したくなる?ねぇねぇどんな気分??」


耳障りだ。

傍らで止まることを知らない

二つの甲高い声が、とても耳障りだった。

これ程傍迷惑な行為はないだろう。

私達は双子の我儘に

付き合わされているだけなのだ。

何も反論する権利さえ与えられずに

苗床にされるなんて御免だ。


ミカエル「このっ…!!」


私がマールートの頭を鷲掴みにし、

地面に叩きつけようとしたその瞬間、

脳裏に何かの光景が浮かんだ。

ザザッと砂嵐が流れたかのように

視界が暗くなる。




『屹度、私の選ぶ未来は痛みも悲しみも伴う。けれど、決して光がない訳じゃない。』




あの声が聞こえた。

綺麗な澄んだ声。

夢に聞いた彼女の声だ。


ミカエル「…何だ?今のは…」


マールート「視えた?視えたのね?彼女が視えたんだぁ!」


ハールート「大丈夫、ちゃんと返すわ!たぁっぷり弱らせてからね!」


マールートは、私に頭を鷲掴みにされ

床に押し倒されている状態でも、

怯えたりすること無く問いかけてきた。

ハールートも片割れを助けようとはせず、

その光景を楽しそうに見ているだけ。

何をされても、何をやっても

笑っている双子を私は不気味に思った。


ミカエル「…"彼女"ってあの天使を知っているのか。」


ハールート「僕達が満足すれば返すよ!」


ミカエル「質問に答えろ。あの天使を、"知っているのか"。」




マールート「……忘れたのは、"貴女"じゃない。」


ミカエル「…………何?」


先程まで不気味なほど

笑顔の絶えなかったマールートから、

"笑顔"が消えた。

出会ってから初めて見た彼女の無表情は、

笑顔とはまた別の不気味さが滲んでおり、

私の背筋が凍るのを感じた。


マールート「さぁ、鬼ごっこの次は何をする?隠れん坊?おままごと?何にでも付き合うわ、例え貴女が死んでも!」


彼女の無表情は一瞬の出来事で、

次の瞬間には笑顔に戻っていた。

そして私の手の中から容易に抜け出すと、

次の遊びを提案する。

答えは返さなかったが、

この双子魔女は確実に何かを知っている。


ミカエル「…じゃあこんなのはどう?お前達の望み通り遊んであげる。但し、相手は私一人じゃない。」


最後の言葉を言い終わる前に

私はその場から駆け出した。

ハールートとマールートは一瞬だけ

驚いたような表情をしたが、

直ぐに笑顔を貼り付け、私を追う鬼と成す。


ミカエル(…待っていてみんな、必ず助ける!)


私は走りながらチラッと

みんなが眠っている水晶へと目を向ける。

穏やかに目を閉じて眠るみんなを囲う

水晶は燦然としていた。

ガラス張りの床の端を通って

私は劇場の両端にある扉を開け、

無我夢中に走る。


ミカエル(…ルシファーだけがあの水晶の中に居なかった。別の場所に隔離されているか、逃げているか…屹度同じ状況かな。)


ガラス張りの床下にある水晶の中に、

一つだけ中身のない空っぽのものがあった。

そして双子魔女達が造ったマネキンも、

一人だけ舞台に立って居なかった。

それがルシファーだ。

ルシファーだけ、何処にも居なかった。

若しかしたら私のように各部屋の怪物から

逃げているのかもしれない。

はたまた違う部屋に

閉じ込められているかもしれない。

どの道仕方なく双子と遊ぶにしても

私一人では分が悪い。

今の私には、

ルシファーと合流する他に策は無いだろう。


ミカエル「!!」


長い廊下を駆け抜けて

角を曲がろうと

体の向きを変えた途端、

何かと衝突しそうになった。

咄嗟に体をズラして避けると、

ギリギリ衝突せずに済んだ。

かなり速いスピードで走っていたのか、

足はまだ動こうとする。

そんな余韻に耐えながら

自分が何に衝突しそうになったのかを

確かめようとした。

私の視界には京紫色の

艶のある髪の毛が入った。


ミカエル「…ルシファー?」


ルシファー「嗚呼やっぱり!気配を辿って来て正解だった!」


こんなにも運が良い事はあるだろうか。

私と衝突しそうになったのは

妹、ルシファーだった。

つい先刻会いたいと思っていた人物に

もう会えてしまった。

彼女も反対側から走ってきたみたいだった。

何かに追われていたのか、

体力に自信がある彼女でも息が乱れている。

再会を喜びたいところだが、

そんな暇も与えずに、

後ろから双子魔女の声が聞こえた。


マールート「あら?小夜啼鳥が一羽増えているわ!」


ハールート「本当!野放しにしていた小夜啼鳥が此処までやって来るなんて思ってもみなかったわ!」


双子は甲高い笑い声と共に

ますますスピードをあげて

こちらに向かってくる。


ルシファー「は?突然何なの!?」


ミカエル「時間が無い。一先ずあの二人を撒くぞ、話はそれからだ!」


私が再び駆け出すと、

ルシファーは困惑しながらも

きちんと着いてきた。

この領域の構造は創造主である双子が

一番わかっているだろう。

だから壁を使って撒こうとしても、

彼女達には無意味でしかない。

かと言って、

何処かの部屋に逃げ隠れようにも

また怪物達が襲ってくるかもしれない。


ミカエル「…一か八か。」


私は双子の方を振り返り、

前髪をかきあげて目に力を込める。

すると、私達と双子の間には

真っ白な煙や霧が現れる。

これを目隠し代わりにして

双子の視線が外れた隙に

何処かの部屋に逃げ込む作戦だ。

逃げ込んだ部屋が怪物達の住処でも、

見つからなければ良い。

私達は角を曲がって直ぐ傍の部屋に駆け込んだ。

どうやら私達は幸運の持ち主らしく、

入った部屋は今までとは全然違う雰囲気だった。

植物園でも、オペラ劇場でもない。

質素で古臭い部屋だった。

怪物達は居ないようで、

この部屋だけ違う場所へ来たかのように

静まり返っている。


ルシファー「…お姉様、一体どういう事?他のみんなは?」


私は先刻見た光景を全て話した。

話していくうちにだんだんルシファーの

表情が強ばっていくのを見ると心が痛む。

彼女には珍しい表情だった。


ルシファー「…お母さん達が?」


普段ルシファーは何事も完璧に仕上げようと

意識が高いが、情が無いわけじゃない。

むしろ妖桜館の住人の中で一番情が深い。


ミカエル「…あの双子魔女が襲ってくる理由に心当たりは?」


ルシファー「ないわ。会うのは先刻が初めてだもの。」


「ずっと各部屋にいる怪物に追われていたから。」と彼女は続けた。

よく見ると髪の毛が汗で頬についていて、

肩で息をしていた。

私は髪の毛をはがしてあげると、

ふと自分には思い当たる節が

あることを思い出した。


ミカエル「……最近夢を見るんだ。自分そっくりな天使が出てくる不思議な夢。」


ルシファー「あ、それなら私も先刻、クチナシの部屋で私にそっくりな女性に会ったわ。」


ミカエル「クチナシ?」


ルシファー「えぇ。けど、彼女は天使と言うよりも、悪魔に近い容姿だった。」


ミカエル「…何か関係があるのか。魔女達は"彼女の為に"と口癖のように言ってた。屹度その天使や悪魔のことを知っている筈だ。」


これは絶対に何かある。

私達双子がそう思ったのも言うまでもないだろう。

魔女達の言う"彼女"とは一体誰なのか。

魔女の領域であるこの空間で出会った

"悪魔のような女性"と

私の夢に出てくる"天使のような女性"。

その二人が私達にとって

どのような存在なのか。

私達は不思議に、それらを知るべきだと思った。








『……クチナシの花言葉を知っている?』


『……"私は幸せ者"。』


『それもあるけれど、"喜びを運ぶ"と言う意味もあるのよ。』


『私達にとっての"喜び"の話?』


『あの子達、早く気付いてくれないかしら。』


『まだまだ時間はかかるでしょう。』





『『全ては赤い瞳を持つ神の子達の目覚めより。』』

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