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あなたの悪魔とわたしの天使  作者: 鈴森 心桜
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第五話「クチナシと黒い羽」

ルシファー視点ー


「ケケケケケッ!」


甲高い笑い声が耳障り。

だから音の発信元を断ち切る。

先刻からそれの繰り返し。


ルシファー「…一体、何処よ此処。」


自然と溜め息が出るのも無理はない。

ほんの数時間前、

私は眠りに入る為寝台に横になった。

だが次に目を開けてみれば

其処は刃物を持つ

小さな人形が沢山ある部屋。

レヴェートがよく鋏とぬいぐるみを

持ち歩いているが、

此処は彼女の部屋じゃない。

だから、私が寝惚けて

別の部屋に入ってしまった訳でもない。

加えて、この人形達は

その小さな手に持つ刃物で

私が目覚めた途端襲いかかってきた。

まるで、私が目覚めるのを

待っていたかのように。

そして笑う人形達の声がやけに甲高くて

耳障りだったのでその喉元を断ち切る。

けれど人形達は倒しても倒しても出てくる。

これでは拉致があかない。

私は部屋を移動することにした。

幸運にも此処はただの部屋。

辺りを見回せば遠くの壁際に扉が一つある。

"扉が出口とは限らない"。と昔誰かが

言っていたような気がするが、

今はそんな事を気にしていられない。

扉があればそれに縋りたくなるのが

人間の本性だ。

私が一度大きく一振りすると、

衝撃で辺りの人形達が傍を離れた。

その隙を狙い、私は扉へと走った。

直ぐに人形は追ってくるが、所詮は人形。

倍以上ある人間の足にはかなわない。

私は部屋から出ると、扉を固く閉めた。

魔法で扉と壁の接着部分を溶接し、

開けられないようにする。

そしてやっと私は

先程まで居た部屋の外を見た。

其処は部屋とは違った幻想的な場所。

紫水晶が沢山ある空間だった。

大きな結晶が天井や床、壁など所々にある。

一先ず、害はなさそうだ。

私はこの機会に、状況を整理する事にした。


ルシファー「お姉様や他のみんなの気配はある。此処ではないけれど同じ空間には居るみたいね。」


先程から微かに感じる慣れた気配が九つ。

つまり、私達は各々ではなく、

"館に居た者"がこの空間へ飛ばされたと

考えるのが妥当だろう。

ただ、飛ばす際に何処かバラバラに

全員散ってしまった。

これは、長丁場になりそうだ。

相手が何の為に何故こんな事を

したのかさえもわからない。

みんなとも未だ合流出来ていない。

やることは沢山ある。

それに屹度、この空間は魔女の領域。

九つの他に二つの気配があるから、

これが本命だろう。

自分の領域を持つこたが出来るのは、

魔女しか居ないので消去法だが。

それも文献からの知識であり、

魔女には一度も会ったことがないので

もしやることが全て終わったら

魔女に会ってみたい。

終える前に会ってしまったら

面倒に感じるけれど。


ルシファー「…ん?」


ふと、良い香りが鼻を掠めた。

濃厚な甘い香りだ。

怪訝に思い香りを辿って足を進めると、

少し歩いた先に真っ白な花々が見えた。

足を止めて遠目から見てみれば、

珍しい花が咲いていた。


ルシファー「…クチナシ?」


熟れても実が割れないことから

その名前がついた夏の花だった。

私達は季節の変化にあまり敏感ではないが、

世間的に今はクチナシが咲く季節じゃない。

なのにこの空間では咲いていると言うことは、

此処は季節に関係なく

形成されている領域なのだろう。


ルシファー「これじゃあ扉を開けた先が吹雪の中でも可笑しくないわね。」


嘲笑しながら私はクチナシに背を向けた。

そして直ぐに目を見張った。

全身の体温が一気に下がるのが分かった。

今まで感じた事もないような気配が、

直ぐ真後ろから感じられる。

ドクッドクッと大きく脈打つ心臓を

なんとか落ち着かせながら

私は恐る恐る背後を振り返った。

其処にはクチナシを見つめる一人の女性。

その女性を見て

私は見張った目をより見張る。

彼女は自分にそっくりだった。

髪の色や容姿は少し違ったが、

彼女は恐ろしいくらい私に近しい。

そして、一番目が行ったのは彼女の背中。

其処には深紫色の羽根。

文献に出てくる悪魔の背中に

生えている翼そのものだった。

私がそれに目を奪われていると、

彼女が此方に気付き、

私の目をジッと見つめてくる。

何を考えているのか

読み取れないその深い真紅色に

引き摺り込まれそうな感覚に陥る中、

彼女は何も言わずに其処から立ち去って行った。


ルシファー「なんか…、面倒くさそう。」


彼女が姿を消した瞬間、

強ばっていた体から力が抜け、

辺りに漂っていた緊迫の空気もなくなった。

先程の"恐怖"に似た気配は一体何だったのか。

彼女は一体誰だったのか。

わからないことだらけだが、

面倒くさくなりそうな予感はした。

私の予感はよくあたる。

これから起こるであろう面倒な物事に

立ち向かわなければならないことを

悔やみながら私はクチナシに目を向けた。




先程まで綺麗に咲いていたクチナシは、

一瞬にして枯れていた。

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