表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたの悪魔とわたしの天使  作者: 鈴森 心桜
17/22

第十七話「双子の神」

「うわ、本当に辿り着いちゃったよ。」


『まぁ…。これは驚いたわね。』


「如何するんだよこれ。"シナリオ外"だぞ。」


『あら良いじゃない。"シナリオ"に沿って進めるのも十分面白いけれど、これはこれで楽しめそうだわ。』


声が聞こえる。

低くハスキーな声と、高い柔らかな声。

その会話が少し耳に煩く感じ、

私は閉じていた瞼を開けた。

何回か瞬きをした後、目を見開いた。

視界には、黒い闇の空間。

左右何処を見渡しても黒、黒、黒。

私は重たい体を起き上がらせ、

額に手を当てる。


ミカエル「……傷が無い?」


だが本来ある筈の傷跡が無かった。

よく見てみれば、

これまでのループによって付いた傷跡も

まるで最初から無かったかのように

跡形もなく消えている。


「お、やっと起きたみたいだな。」


『お寝坊さんね。そろそろ退屈になるところだったわ。』


「お前すげぇな。本当に辿り着いちゃうなんて思わなかった。」


声のする方へ視線をやると、

姿を現したのは金髪の青年だった。

暗闇の中、彼の姿ははっきりと認識出来る。

声は二つあったのに、彼は一人だった。


ミカエル「……お前達が、ループの犯人か?」


青年「"お前達"?何言ってんだ、此処には俺とお前しか居ねぇだろ。」


この青年は一体何を言っているのだろう。

いや、青年からしたら

私がそうなのかもしれない。

私には声が二つ聞こえた。

若しこの青年には

聞こえていないのだとしたら、

彼は私の言っていることに

理解は出来ないだろう。

そう考えれば、彼の言葉は、

別に会話に成り立たなくても違和感はない。


青年「いやぁ、まさかお互いを撃ち合うとは思わなかったな。見事お前達は裏をかいたってわけだ。」


ミカエル「……ルシファーは?」


青年「嗚呼、もう一人の方が受け持ってるよ。お前は俺で、彼奴は妹の方を迎えたわけだ。」


ミカエル「……やっぱり二人なのか。」


その"もう一人"は、私が視線をやる直前に

其方へ行ったのかもしれない。

ならばルシファーも、

"ループの犯人"に会うことが

出来たと言うことだ。

そんなことを考えていると、

青年は座り込んでいる

私の目の前まで歩み寄って来て、

私を見下ろす。


フレイ「まずは自己紹介からしようじゃないか。俺はフレイ。お前達をループに巻き込んだ犯人の一人だ。」


彼の深い紫色の瞳が怪しく光った気がした。

笑顔を浮かべながら話しているが、

彼の目はちっとも笑っていない。

その姿に、恐怖を感じた。


フレイ「因みにあっちで妹の方に会ってるのはフレイア。俺達は周りから"双子神"って呼ばれてる。」


ミカエル「神…?」


神や天使については、

昔から館の文献で

何冊か読んだことはあるが、

"双子神"と言う名前は聞いたことがない。

でも此奴が本当に神ならば、

私達は、神の遊戯に

巻き込まれたと言うことか?

理不尽な神の我儘に、

付き合ってしまったと言うことか?

無意識の内に、

自分の唇を噛んでしまっていたようで、

痛みで慌てて口を押さえる。


フレイ「いやー面白かったな、お前達の葛藤。やっぱり人の一番美しい姿は生きようと必死に藻掻く姿だよなぁ。」


ガシッと彼の腰辺りを掴む。

何故か足に力が入らない。

散々出来た傷は消えているのに、

痛みだけ残っているかのような。

はたまた痛みによる疲労が全身に

広がっているような。

そんな怠さが体を襲う。

それでも、私は殆ど彼に体重を

掛けるようにして上を見上げる。


ミカエル「何でだ。如何して、私達がこんなことに巻き込まれなくちゃならないんだっ…!」


「悲痛の叫び」だった。

今の私には、

犯人である彼に当たることしか出来ない。

私達の祈りは通じた。

やっと犯人に会えたのだから

根掘り葉掘り聞き出さなければ

公平じゃないだろう。


フレイ「………神の存在を信じているか?」


私の質問に答えるわけでもなく、

彼は突然そんなことを言った。

驚きながらも私が静かに頷くと、

彼は続けた。


フレイ「この世には数多の神が存在しているんだ。過去を司る神、永遠を司る神…。その中で俺達双子神は、"シナリオ"を監視する。」


「シナリオ」

先刻の会話でも出てきた単語だ。

私やルシファーが此処へ辿り着くのは

"シナリオ外"だと言っていた。

つまり、私達は何かの脚本の登場人物か?


フレイ「必ず一人に一つ"シナリオ"が存在する。それは其奴らの人生を綴った本みたいなもんだ。俺達は、この世の全員一人一人が主人公の物語を同時に視てる。」


まるで私の心の内を

見透かしているかのように、

彼はタイミング良く説明をした。


フレイ「神ってのはな、退屈が嫌いなんだ。お前達はチェス盤の駒に過ぎない。飽きたら組み直して、面白い方へと導く。それが虚構と知っていてもだ。」


残酷だった。

耳を塞ぎたくなるような残酷な現実。

まるで機能を失ってしまったかのように

ただ開いているだけの口。

聞かされた内容は残酷すぎて

言葉が出てこない。


フレイ「……お前達を選んだのには"特に意味はねぇ"よ。面白そうな世界観だったから興味が湧いたんだ。双子魔女の呪いも、俺達が仕掛けたことだしな。」


ミカエル「…そんな、そんな理由でっ…」


疑問はだんだんと怒りへ変わっていく。

理不尽だった。

特に意味もない理由で、

私達はこの惨劇に巻き込まれた。

これほど理不尽なことはあるだろうか。


ミカエル「…死ぬ怖さを味わったことはあるか?妹を殺す辛さは?大切な人を亡くす悲しさは?」


彼を握る力が強くなっていく。

布を通り越して自分の爪が

手のひらに刺さりそうだった。


ミカエル「……お前達の所為で、沢山死んだ。本当なら一緒に明日を生きてるみんなが、死んだんだよ。」


私も、ルシファーも、

母さんもソルベイトも、

サノンとガルデン、レヴェートに

バルティニュムだって、みんな死んだ。

唯一死んでいないのは

地下にこもっている乙女ぐらいだ。

それ程の人達が

毎回毎回ループの度に痛め付けられた。

痛かっただろう。悲しかっただろう。

毎回の記憶は残って居ないとはいえ、

死ぬ瞬間を味わうのは辛かった筈だ。


フレイ「………お前達は確実に俺達に近付いていたよ。規則性を暴いたところまでは良かった。」


彼は憎いループの犯人の筈なのに、

全くと言っていいほど悪人ぽくない。

むしろ私達に同情しているようだ。

私達をこんな目に合わせたのは

彼なのに、悲しそうな笑顔を浮かべる。


フレイ「実はあったんだよ。一つだけ、ループから脱け出す方法。」


彼は腰に縋り付く私の頭を

身を屈めて撫でてきた。

その手は男性らしくない細くて白い指で、

まるで女性のようだった。

そんなことに気をとられていると、

彼は驚くべき発言をした。


ミカエル「…一体、どんな…」


フレイ「お前達が、"生きることを諦めた時"。俺達は必死に生きるお前達の姿が視たかった。だから、お前達が"そう"なった時はループを閉じるつもりだった。」


確かに死ぬことへの恐怖は薄れていたが、

生きることを、諦めたことはなかった。

私達が生きることを諦めなかったのは、

お互いの存在のおかげだ。

いや、一番の始まりは、

ルシファーが約束を提案してくれたからだ。

彼女があの提案をしなければ、

私達は直ぐに諦めていたかもしれない。

お互いあの約束を守ろうと

変に律儀な面があったからこそ、

此処まで辿り着けたのだ。


フレイ「つーわけで、俺達から一つ希望を与えてやる。」


ミカエル「…希望…だと?」


彼は私の手をやんわりと離すと、

その手から金色の光を現した。

この暗闇の中、

金色の光はギラギラと輝き、

眩しく感じる。


フレイ「俺達の用意する試練を全て乗り越えたら、お前達の知りたいことを洗いざらい話してやるよ。」


ミカエル「そんなこと…」


フレイ「"シナリオ"をずっと視ているんだから、お前が知りたがっている真実だって俺の頭の中さ。」


ミカエル「…っ」


金色の光は、彼の手のひらの中で

だんだんと形を変えていく。

終いには水晶の欠片のような形となった。

目を凝らして見てみると、

水晶の中には何かの映像が

流れているみたいだった。


フレイ「"シナリオ"の数が多すぎて彼方此方で不具合が起こっているんだ。それが試練。若しかしたら灼熱地獄での戦闘かもしれない。若しかしたら、世界の滅亡に関わることかもしれない。それを全て乗り越えたその時、お前を救ってやるよ。」


緊迫した空気の中、

自分の唾液を飲む音が聞こえた。

この男の言う通りに動くのは癪に障るが、

そうすれば、遠回りをせずに

自分の真実を知ることが出来る。

彼はこの欲につけ込んだのだ。

それは十分理解している。

けれど、自分の欲に従順になってしまう。

抑制が効かない訳では無いが、

心の底の何処かで、

「そうするべきだ」と誰かに

言われているような気がする。


フレイ「如何する、悪い話じゃない。毎回、今回はどんなところだって教えるよ。その一つの物語を終えるまでは、ループも閉じてやる。但し、一話完結ってわけには行きそうにないがな。」


ミカエル「…………わかった。その話乗ろう。」


フレイ「フフッ…じゃあこれは、俺からの些細な手助けだ。」


彼は笑みを零すと、

手のひらに持っていた水晶を握り締めた。

水晶の姿が何も見えなくなり、

次に彼が手のひらを開けた時には

小さな白い羽だけが残っていた。

そして彼がそれに息を吹きかけると、

ふわふわと羽は飛んでいく。

その先を追いかけると

丁度私の元までやって来て、

咄嗟に両手で受け取った。

瞬間、羽は私の体に吸い込まれるかのように

手のひらから体の中へと入っていった。


ミカエル「…!?」


フレイ「早く使いこなせよ。お前は器用だから、容易いだろう。」


彼はそう言うと、

私の額に人差し指を当てた。

じんわりとその接触部分が熱を持ち始める。

不思議なことに、

瞼もだんだん重たくなってきた。

私がうつらうつらとしだすと、

彼は何かを言ったみたいだが、

私には聞き取ることが出来なかった。

とにかく眠かった。

私は逆らうこともせず、

睡眠欲に身を委ねた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ