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あなたの悪魔とわたしの天使  作者: 鈴森 心桜
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第十六話「最も残酷な希望」



それから何度、繰り返しただろう。



繰り返す度にみんなを死なせてしまった。

私も死に、時には生き残った。

何度9月20日を繰り返しただろうか。

幾千回も同じ朝を迎えた気がする。

最初こそ次は頑張ろうと励まし合えたが、

もうそんな気力さえも残っていない。

疲れてしまっていた。

私もルシファーも。

何度も何度もみんなが死ぬ場面を見て、

自分が死んで、大切な姉妹が死んで、

限界に近かった。

もう、死ぬのも怖くなくなってしまった。

慣れとは怖いものだ。

あんなに恐ろしかった死への恐怖は、

殆ど残っていない。

それに、このループは憎たらしいことに、

傷は次の朝に受け継がれるのだ。

一番最初の私の胸の傷も、

次の朝に残っていた。

妖桜館のみんなは目立った傷跡がないので

恐らくこれは私とルシファーだけだろう。

私達二人だけが傷を負ったまま。

だから体はもう傷だらけになってしまった。

衣服や髪じゃ隠せないほどに。

毎日動く度に体が軋んでいるように感じる。

こんな生活を続ければそのうち、

私の体は動かなくなってしまうのでは

ないだろうか。

そんな思いを胸に秘めながら、

今回も私達は9月20日を過ごす。


ルシファー「……お姉様。」


窓の扉を開けて腰を下ろし、

外を眺めていると背後から声が聞こえた。

振り返り声の主へ目をやる。

ルシファーが部屋の扉を開けて

顔を覗かせていた。

私もかなり酷い方だが、

彼女は今右頬に大きな傷を負っており、

顔に似合わないガーゼが痛々しい。


ミカエル「……如何した。」


ルシファー「一つ、思うことがあって…。」


私の返答に入室の許可を得たと

察したのだろう。

彼女は覚束無い足取りで

近くに歩み寄ってくる。


ルシファー「もう幾千もの朝を繰り返して来たけれど、今更…あることに気付いたの。」


目の前まで歩み寄って来ると、

ルシファーの顔がよく見えた。

彼女の大きな瞳から視線がよく動く。

この「気付いたこと」を

私に告げるのに、何を躊躇っているのか。

彼女は眉を八の字にしながらも、

私の目をはっきりと見て言った。


ルシファー「…私達、いつも他殺じゃない?そしてまた次の朝を迎える。……まだ、自殺は試したことないなって思ったの。」


ミカエル「…!…ルシファー。」


ルシファー「馬鹿なことを言っている自覚はあるわ。でも、幾千と繰り返してやっと気付いたの。これが吉と出なくても試してみる価値はあるんじゃないかしら。」


成程。これがあの迷いか。

確かに私達は毎度毎度、

誰かに"殺されている"。

自分から死のうとして

命を落とした事は一度も無い。

ルシファーに言われる前に、

100回目辺りから私自身も気付いていた。

けどそれをしなかったのは、

生きることを忘れない為だった。

次も頑張ろうと思えるように

自分への慰めにしていた。

でもルシファーは違った。

私にとっての"慰め"を、

彼女は"希望"として受け取ったのだ。


ミカエル「……嗚呼、そうだな。」


例え私に「何を言うんだ」と怒鳴られても、

この手段は試す価値があると、

伝えたかったのだろう。

私は毎回、

妹に嫌な役回りをさせているな。

酷く自分を嘲笑いたくなった。


ミカエル「…じゃあ、今回は死ぬ直前に祈ることにしよう。このループの犯人に会えることを。若しかしたら、違う死に方をすることで何かが変わるかもしれない。」


その言葉に、ルシファーの表情は

心做しか明るくなった。

怒鳴られる覚悟をしていたみたいだが、

それは杞憂だった。

私は魔法で二丁の拳銃を創り出した。

そして片方をルシファーへ渡す。

中に弾が入っているのを確認すると、

銃口を彼女の額へ付けた。


ミカエル「弾は一発ずつ。これで外すことも無いだろ。」


ルシファー「…え?」


ミカエル「自殺は、自分で死への引き金を引くことじゃない。自分自身の命を絶つことを決めることだ。」


いつも他人から"殺されていた"私達が、

お互いを殺し合えば、

何か変化があるのではないだろうか。

屹度このループの犯人は

私達をずっと視ている。

そして"誰かが死ぬと巻き戻る"規則性を作った。

ならばよく見ておけ。

これが私達の選択だ。


ルシファー「……優しいね、お姉様は。」


ルシファーも私の額へ銃口を付ける。

冷たい感覚が額に伝わってくる。

カチャッと言う音が耳に届く。

怖くないと言えば嘘になる。

実の妹から殺されるのだ。

反対に、ルシファーは実の姉から殺される。

これほど怖いことはあろうか。

家族に殺される傷みは、

屹度いつも以上に鋭いだろう。

傷口だけでなく、心も傷む。

私だって出来ればこんなことはしたくない。

けれど、ルシファーが自分で

自分を殺す姿は見たくない。

そんな恐ろしいこと、させたくない。

これは頼りない姉の最初で最後の我儘だ。


ミカエル&ルシファー「…………じゃあ、"また後で"。」


二つの銃声が辺りに鳴り響いた。

だけど、同時に鳴ったので

私には一つの音に聞こえた。

目の前でルシファーが後ろへ倒れていく。

それを見る私も体が後ろへ傾いていく。

視界が、真っ赤に染まった。

真紅色の飛沫は、

まるで私達の瞳の色にそっくりだった。

なんて鮮やかで、なんて儚い。

嗚呼、どうか次のループが始まる前に、

このループの犯人に会えますように。

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