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あなたの悪魔とわたしの天使  作者: 鈴森 心桜
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第十五話「昨日は振り返らずに」

再び目を覚ました。

最初に映るのは見慣れた天井。

窓の外では朝を伝える鳥が囀っている。


ミカエル「……何で。」


私は理解が出来なかった。

確かに先刻私は死んだ筈だ。

あの胸の強い痛みも覚えている。

なのに、こうして私は目覚めた。

次に目を開けた時はあの世か、

と思いながら意識を飛ばしたのに、

目先は全くいつも通りの自分の部屋。

これを理解しろと言われても

すんなり理解するのは困難だ。


ミカエル「っ…」


私が寝ていた体を起き上がらせると、

左胸が強く傷んだ。

咄嗟に手で押さえ、痛みを和らげる。

其処は、あの水晶が刺さった場所だった。

私は慌てて胸元の衣服を捲り、

自分の胸部を見る。

左胸の上部の方に

縫い合わせたような傷口があった。

それは丁度水晶が貫いたことで

引き裂かれた皮膚を縫合したような傷跡。

指でそっと撫でると、少しだけ傷んだ。

私は衣服を直し、

自分の手のひらを見つめた。


ミカエル「…夢なんかじゃない、あれは現実だ。」


確かに現実だった。

これ程リアルな夢はそうそう見ないだろう。

見つめていた手を強く握り締める。

手首の辺りに血管が浮き出て、

生きていることを実感させられる。

どんな形であれ、

私も何れは死ぬと思っていた。

だがいざ体験してみると、

死の恐怖は想像より遥かに恐ろしい。

すると突然、

自室の扉が大きく開け放たれた。


ルシファー「お姉様っ!!」


犯人はルシファーだった。

血相を変えて私の元へ

ズカズカと歩いてくる。

此処まで走ってきたのだろうか、

少しだけ息が上がっている気がした。


ミカエル「…ルシファー、私は…。」


ルシファー「嗚呼良かった、やっぱり生き返ってる!」


言いながら、彼女は私を強く抱き締めた。

案の定、走ってきたのだろう。

彼女の体から伝わる体温が

いつもより熱く感じる。

発言からして、

あの時まで一緒に居たルシファーで

間違いないだろう。


ミカエル「どういう事なんだ。私、死んだ筈じゃ…。」


ルシファー「…お姉様が殺された直後、突然辺りがモノクロに変わったの。でも、瞬きしたら一瞬で朝を迎えていたわ。」


あの後、ルシファーは通りかかった

バルティニュムに私を預け、

犯人を探しに窓から外へ出たらしい。

だけど直ぐに辺りがモノクロになり、

喋ることも動くことも出来なくなった。

目だけは唯一動いたが、

それも瞬きをすると

次の瞬間には自室に立っていたのだと言う。

其処で私は私達二人の体験から、

あることを思い出した。


ミカエル「……今日は、何月何日だ?」


私の言葉に、

ルシファーは視線を横にズラした。

恐る恐ると言った感じに

私も彼女の視線を辿り、

壁にかけている時計を見た。

其処に映し出されているのは、

9月20日の数字。

まただった。

また、私達は9月20日に戻ったのだ。

私が前に目を覚ました時も、

9月20日の朝で、その日の内に殺され

次に目を覚ました今、

またもや9月20日の朝だ。


ルシファー「私達、"9月20日"を繰り返しているのね。」


ミカエル「一体何の為に…。」


ルシファー「…一つだけ分かるのは、このループには規則性があるということ。」


寝台の近くに椅子を持ってきて、

ルシファーは腕を組み座った。

表情は酷く思い詰めたような顔だった。

そして重たいその口を開く。


ルシファー「このループは、私かお姉様の何方か、またはお母さん達が死んでしまったらこうなるのだと思う。」


ミカエル「…つまり、妖桜館の誰かが死ねば私達はまた9月20日の朝に戻ると言うわけか。…私達だけが、記憶を継いで。」


思えばそうだった。

最初の六人も、

双子の領域から帰ってきたら死んでいた。

そして私達が夜に眠りにつくと

9月20日に戻っていた。

そして次に私が死んだ時、

世界はモノクロになりリセットされた。

リセットされる時間が違うのは何故かとか、

何故私達だけが記憶を継いでいるのかとか

未だわからないことだらけだが、

屹度何かしらの設定があるのだろう。

そして分かることはもう一つ。

これは確実に誰かが

仕組んだ現象だということ。

誰かが手を加えなければ、

こんな事は起こりえないだろう。


ルシファー「繰り返さない為には、"誰も死なせない"…、それしかないと思うわ。」


ミカエル「同感だな。毎度毎度同じ日を繰り返すなんて御免だ。」


これじゃあ、まるでお伽噺のようだ。

誰かが世界の時計を止めて

毎日同じことの繰り返し。

そんなのつまらないだろう。

新しいことに挑戦も出来ず、

明日を生きることも出来ない。

同じ日を繰り返すのは、

不死に近いのかもしれないが、

それでは光の巡りの存在が不要になる。


ルシファー「お姉様、屹度明日が見えてくる日は来るわ。それまで諦めないことを約束してくれる?」


ルシファーは小指を差し出してきた。

これは「独りにしないで」の逆だ。

ルシファーは寂しい時や悲しい時は、

小指を絡めて何かの約束をしたがる。

私が諦めたら、ルシファーは独りになる。

もう一緒に明日を生きれなくなる。

だからルシファーは約束がしたいのだ。

私はそんな彼女の心情を知っている為、

快く小指を絡ませた。


ミカエル「約束だ。必ずこのループから抜け出そう。」


微笑みながら告げると、

彼女も笑顔になった。

それはとても輝かしく眩しい。

同時にとても悲しい笑顔だった。

窓から射し込む陽光で

私達二人の赤い瞳が

宝石のように輝いていた。

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