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あなたの悪魔とわたしの天使  作者: 鈴森 心桜
14/22

第十四話「六人」

ミカエル「っは…!!!」


目を覚ますと、

普段と変わらない自室の天井が見えた。

もう朝を迎えたらしく、

いつも夜は月の見える窓からは、

眩しい陽光が入ってくる。

起き上がって手のひらで自分の額を触ると、

私は酷く汗をかいていた。

直ぐに濡れタオルで顔を拭き、

夜着を脱いでいつもの服に着替える。

鏡で自分の姿を見ると、

ますます彼女そっくりに思える。

私が彼女に似ているのか、

それとも彼女が私に似ているのか。

何方なのかはまだわからない。

けれど、私には殆ど見当がついている。


ミカエル「…まぁ、彼女がミファロスだとわかったのは一歩前進…か。」


今度会えた時は私の事と、

"ガブリエル"の事を聞いてみよう。

若しかしたら、そんなに時間は

とれないかもしれないけど、

あの短時間の間でとれる情報は

とっておきたい。

そんな事を考えながら

私は食堂へと向かった。


食堂へ向かう途中、

広間から何やら騒がしい音が聞こえた。

また人間共が攻めてきたのか、

それとも起きているであろう

ルシファーの仕業か。

二つ考えるがその音の正体は

声のようで、複数聞こえる。

怪訝に思いながら

私は食堂へと向かっていた足を

広間へ変えた。

だんだん近付く度に

大きくなる声を聞きながら、

私の足も自然と速くなった。

何故なら、広間から聞こえる声は

もう聞き慣れた声だったからだ。

私は少しだけ震える手を片方で支えながら

恐る恐る扉を開ける。


サノン「あ、遅かったねーミカエル!」


ソルベイト「遅くまで起きていたのか?お前が朝寝坊するなんて珍しいな。」


さくや「おはようミカエル。」


ガルデン「バルティニュム、今日の朝刊って取ってある?」


レヴェート「……あと、私の人形…何処にあるか知らない?」


バルティニュム「只今持って参りますガルデン様。レヴェート様、朝食の時に持っていらしたので食堂にあるのではないでしょうか?確認して参りますね。」


広間には、死んだ筈の六人が居た。

幽霊や幻などではなく、

生きた生物として其処に存在していた。

双子のお陰で耐性がついたのだろうか、

私にはそれがハッキリとわかった。

けれど、私の状況を理解する能力は

強くなったりしていない。

これはどういう事だ。

サノンにソルベイト、

母さんとガルデン、

レヴェート、バルティニュム。

この六人は、あの日に死んだ筈だ。

私とルシファーが棺に入れて祈った。

間違える筈がない。

あれは確かに皆だった。

なのに、これは一体どういう事だろう。

まるで生き返ったみたいだ。

この世界では

死人を生き返らすのはご法度であり、

そもそも、

その類の魔法を使える人が居ない。

もし使えるとしたら、

神や天使など上昇の人達だけだろう。


ミカエル(…なら、これは神の仕業なのか?それとも天使や悪魔の仕業か?)


ふとミファロスの姿が脳裏に浮かんだ。

もしかしたら、と考えたが、

直ぐに彼女の仕業ではないと思った。

彼女は夢に出てくるだけで、現実に

干渉してくるような事は無さそうだった。

根拠なんて何処にもないが、

そう思ってしまったら選択肢から

外してしまうのが動物と言うものだ。

何処にも腰を下ろさずに

私が入口で固まっていると、

バルティニュムが声をかけてきた。


バルティニュム「お嬢様、顔色が悪いように見えますが…。何か飲み物などお持ちしましょうか?」


ミカエル「いや……バルティニュム。今日は何月何日だ?」


バルティニュム「え?9月20日ですけど…。」


どういう事だ。

9月20日と言えば私やルシファーが

双子の領域に巻き込まれる前日だ。

つまり、サノンとソルベイトが

喧嘩をしていて、人間が襲ってきた日。

"昨日"は9月22日で、

私が起きる筈だった"今日"は23日だ。

なのに、私は20日に目を覚ました。

一体何がどうなっているのか、

私が困惑して頭を抱えると、

バルティニュムが心配してくれた。

私の背中にあるその手には、

確かに温もりがあった。

すると突然、誰かに腕を引っ張られた。


ルシファー「お姉様は昨夜私の話に付き合ってくれたから疲れているの。だから寝かせてあげましょう、私が部屋に連れていくわ。」


バルティニュム「かしこまりました。」


ルシファーだった。

バルティニュムは一礼すると、

私達から去っていった。

ルシファーはそれを最後まで見送ってから、

私を広間の外へと連れ出した。

強引に腕を引きながら

前を歩くルシファーの後ろ姿は、

見慣れている筈なのに何処か違和感がある。


生き返った六人は

自分達が死んだ事を知らない様子だった。

そもそもバルティニュムの言う通りなら、

時間が巻き戻っている事になるので

あの事件が"無かった"事に

されていると言うことだろう。

ならばルシファーの頭の中に

あの時の記憶もないのではないか。


ミカエル(…このルシファーは、一体"何方"なんだ。)


あの時のルシファーであるか否か、

今はまだそれすらもわからない。

少しでも状況を理解するまでは

下手に行動は出来ない。

怪しまれて答えを求められても、

私はその答えを言う事は出来ないからだ。


ミカエル「ルシファー?私、別に寝不足なわけじゃっ…」


ルシファー「わかってる。あれはただのその場しのぎの嘘に過ぎないわ。」


廊下を歩く最中、

背中に向かって声をかけると、

意外にも声はすんなり返ってきた。

振り返ったルシファーは

まるで何かに怯えるように

優しく私の頬に手を当てた。


ルシファー「如何したのお姉様。寝不足ではないのだろうけれど、バルティニュムの言う通り、顔色が悪いわ。」


ミカエル「……別に。ただ、目覚めが悪かっただけだよ。」


じっと見てくるルシファーの

視線から逃れるように

私は目を逸らしながら答えた。

視線が痛い。

何もかも見透かしてしまうような

鋭い視線に私は黙ることしか出来ない。


ルシファー「………私のこと、疑っているのね。」


ミカエル「…え」


突然の発言に、言葉が出なかった。

随分と小さなか細い声だったが、

私の耳は確かに拾った。

ルシファーは私に向けていた鋭い視線を

下にズラすと、目を閉じ黙った。

そして直ぐにフッと笑いを零す。


ルシファー「試すような事してごめんなさいお姉様。私も不安だったの。でも大丈夫みたい。…私はちゃんと、貴女と生き残ったルシファーよ。」


彼女はそう告げた。

先刻から色々な事がありすぎて

もう頭はパンクしそうだが、

何とか隙間を作ろうと落ち着かせる。

目の前に居るルシファーは

私にあの時間を共有したルシファーだと

告げたが、それが事実であるとは限らない。

若しかしたらこの世界も、

今目の前に立っているルシファーも、

誰かの作った瞞しである

可能性は幾らでもあるのだから。


ミカエル「……本当に、あの時のルシファーなのか。」


ルシファー「えぇ。双子魔女と闘って、貴女とバーロンの井戸へ行ったルシファーよ。」


彼女は少しだけ悲しそうな表情をした。

信じても良いのかもしれない。

若し事実だとしたら、

私は妹を信じられない酷い姉だ。

反して、嘘であったら

私はもう誰も信じることが出来ないだろう。

けれど目の前に答えが出されたら

それを信じて疑わないのが人だ。

ルシファーの目線に立ってみれば、

唯一の姉が自分を信じてくれないことは、

とても悲しく寂しいだろう。

私だったら、

辛くて胸が張り裂けそうになる。

此処で私がルシファーを信じなければ、

彼女はそんな思いをすることになる。

若し、目の前のルシファーが、

ルシファーじゃなくても、

私はその手を取ってしまう。

これが妹を持つ姉の弱みだ。


ミカエル「一体、何が起こっているんだ。何か心当たりはあるか?」


ルシファー「何も。私も起きたらこうなっていたわ。」


まるで双子の領域での会話と同じだ。

また私達は自分達にもわからない事に

巻き込まれてしまっているのだ。

同じように状況を整理して理解し、

この謎を解くしかないだろう。


ミカエル「初めはミファロスの仕業かとも思ったが、彼女は現実に干渉してくるような事はしない。不思議とそう思うんだ。」


ルシファー「…"ミファロス"?それって…。」


ミカエル「夢でまた会ったんだ。私の夢に現れる彼女は確かにミファロスだった。自分でそう名乗ったよ。」


ルシファー「…そうだったの。あ、私も夢にあの人が出てきたのよ。ほら、双子の領域で会ったって言ったじゃない?」


そう言えばそんな事を

言っていたかもしれない。

クチナシの部屋で見たと

言っていた気がする。

そんなに昔の記憶では無い筈なのに、

何故か場面場面としか覚えていない。

何とか記憶を掘り出して思い出す。


ルシファー「彼女の名前は"ルシフィア"と言うんですって。改めて見たら本当に私にそっくりだったわ。」


ルシファーの言う

"ルシフィア"と言う女性は、

屹度ミファロスが私に視せたあの映像で、

彼女の隣に居たあの女性で

間違いないだろう。

少しずつだが、

私達は真実に近付いてきている。

この調子で行けば、

もうあと少しかもしれない。


ミカエル「ルシ…」


私はルシファーの名前を呼ぼうとした。

そう。呼ぼうとしたのだ。

でもそれは叶わなかった。

左胸に伝う異物感。

白くなる視界。

口から流れでる何かの液体。

全身に広がる強い痛み。

視線を下に向けると、

鋭く尖った水晶のようなものが

私の胸に突き刺さっていた。

其処から赤い液体が流れ、

私の服を染めていく。

ルシファーを見ると、

目を見開いて顔を青くしていた。

視線を後ろにやれば割れた窓。

成程。窓の外から私の胸を狙ったわけだ。

誰の仕業か知らないが、

タイミングが悪すぎる。

やっと真実へ近付けたと思ったのに、

それを知ることさえ許さないのか。


人間は、私達有能力者の事を

化け物だなんだと言うが、

同じ生き物には変わりないのだ。

内臓はあるし、食事も睡眠もする。

心臓が弱点なのは同じだ。


嗚呼、死ぬ。


直感でそう思った。

ちっとも怖くないのは何故だろう。

頭の中でよくこんなに冷静に

考える事が出来るな、

と自分を嘲笑いたくなる。

だが口を開けば出てくるのは赤い液体だけ。

ルシファーが何かを言っているように

見えたが、もう応える気力もない。

霞む視界の中、彼女はその大きな瞳から涙を流していた。

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