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あなたの悪魔とわたしの天使  作者: 鈴森 心桜
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第十三話「Who are you?」

「…貴女が自分から来るなんて、思ってもみなかったわ。」


何処かで鈴が鳴った。

まるで蜩が鳴いたような音。

大きくなって、小さくなっていく。

辺りが静寂に包まれる中、

耳に心地良い冴えた鈴の音だけが響く。


目を開けてみると、

いつものように真っ暗な空間とは違い、

全く別の白い空間。

白いけど、今までのような眩しさは

全くと言っていいほどない。

地平線まで真っ白で、

少しだけ霧がかっていた。

視界の悪い中、

私は直ぐに声の主を探すが見当たらない。


「最近は此方に反応してくれなかったから、少しだけ嬉しい。」


再び声のした方へ視線をズラすと、

自然と上を見上げる形になった。

案の定、私の頭上には

あの女天使がその大きな羽根を広げて

空中に浮かんでいた。


女天使「…双子のこと、どうもありがとう。貴女が助けてくれなかったら、あの子達はこれからもずっとあのままだった。」


女天使はくるくると私の頭上を回りだす。

その度に翼は自由に動き、

彼女の体を支えている。

私は何故か彼女自身よりも、

綺麗な翼の方に目が行ってしまう。


ミカエル「…助けたもつもりはない。ただの気紛れだ。」


女天使「それでも、結果的に双子は救われたわ。そんなつもりはなくても、貴方の行動は双子を助けた。」


ミカエル「……私は、お前に聞きたいことがある。」


女天使「…えぇ。だから自ら来たんでしょう?」


女天使はやっと私と同じ地上に足をつけた。

そして此方をじっと見つめる。

顔が此方に向いているだけで

目は何処を見ているのかわからないが、

屹度私を見つめているんだろう。

そして、私が口を開くのを

じっと静かに待っている。


ミカエル「…お前が、"ミファロス"なのか?」


私が問うと、女天使は小さく微笑んだ。

それは応えじゃない。

まるで憐れむような、悲しむような

そんな微笑みだった。


女天使「…それを知って、貴女は一体どうするの?」


ミカエル「…お前がミファロスなら、私の過去を聞く。記憶のない間に何があったのか、一体私は何処で生まれた誰なのか、真実を求めて、それを受け入れる。」


女天使「もし私が"ミファロス"ではなければ、その時はどうするの?」


ミカエル「…お前が誰なのか確かめるだけだ。"ミファロス"じゃなくても、私の真実に関係はしているんだろう?」


其処まで話すと、

彼女は一時面食らったように

キョトンッと首を傾げたが、

直ぐに理解したのか、また微笑んだ。


女天使「…フフッ、貴女は本当に強い心を持っているのね。ちょっと羨ましいわ。」


その時、ずっと影で隠れて見えなかった

彼女の素顔が露わになった。

柔和な瞳は綺麗な真紅色で

まるで宝石のよう。

髪の色、目の色、輪郭や顔のパーツなど、

見れば見るほど私にそっくりだった。

唯一違うのは、雰囲気だけ。

私にこんな柔らかく優しい雰囲気は

出せないだろう。

彼女には、まるで聖母のように

優しい雰囲気がある。

一言で言えば、美しい。


ミカエル「……お前…。」


風なんか吹いていないのに、

まるで彼女の場所だけ

風が吹いているかのように

彼女の髪や服は靡く。

憂いの表情を浮かべて微笑む彼女は、

どうやら私が真実を知るのに

あまり肯定的ではないようだ。

私が真実を知ったことで、

どうにかなってしまうのではないかと

恐れるようだった。


女天使「そんなに知りたいのね。もしかしたら、とても辛くて残酷なものかもしれないのに。」


ミカエル「…嗚呼。どんな真実でも、とうの昔に受け入れる覚悟は出来ている。」


私の決意を聞いた彼女は、

一瞬とても辛そうな表情をしたが、

直ぐにまた微笑んで

一気に私へ近付いてきた。

そして私の頬を両手で包み、

額を合わせてくる。


女天使「…じゃあ、私からの贈り物よ。…少しだけ視せてあげる。」


彼女の赤目が怪しく光った。

その瞬間、バーロンの井戸の時と

同じ感覚に陥る。

何かに引き摺り込まれるような、

せり上がってくるようなあの感覚。

そんな感覚に耐えながら目を開くと、

音はなくとも何かが見えてきた。

白い髪。赤い瞳。高価なドレス。

背中に生えた美しい翼。

それはあの女天使。

彼女が一番最初に夢で見たあの神殿内で

白と京紫色の髪の女性と歩いている。

その女性は、女天使とは違って

悪魔のような容姿をしていた。

けれどとても神秘的で美しい。

美しい女性二人が隣に並んで歩く姿は、

まるで絵画のように麗しい。

其処へ二人の少年が走ってきた。

淡く綺麗な黒髪に緑玉色の瞳を持つ少年と、

金色と紫苑色の髪に赤目の少年。

女性達に抱き着いて

ニッコリと笑う笑顔は輝かしく、

私は彼等に何処か見覚えがある気がした。

一瞬、とても大切だったあの人が

帰って来たと思ってしまった。


ミカエル「……あれは、ソルベイトなのか?」


黒髪に緑玉色の瞳を持つ少年は、

今は亡きソルベイトにそっくりだった。

瞳の色こそ違えど、

顔の形やくせ毛なところなど、

何処と無く彼と似ている。

少年は女天使と手を繋いで再び歩き出す。

その後ろに女悪魔と少年も同じように

ゆっくり歩き出す。

四人とも幸せそうな表情をしている。


ミカエル「…お前は、ソルベイトに関係しているのか。」


幸せに満ち溢れた表情をする女天使を

見つめながら自然と言葉が口から出た。

本当に幸せそうな表情をしており、

私は自分が場違いな気がしてきた。

何故か一刻も早くこの空間から

抜け出したくなった。

けれど、これはあの女天使が

見せているもので私に主導権はない。

もどかしく感じていると、

突然視界が砂嵐のようにザザッと荒れた。


女天使「…此処までね。これ以上は今は見せられないみたい。」


声のした方へ視線をやると、

二つの赤色と目が合った。

女天使が此方をじっと見つめていたのだ。

それは、以前夢の中で見た

あの赤い双眼に似ていた。

引き込まれそうな程の真紅色に、

私は目を奪われる。


女天使「………改めて…"始めまして"。私の名前は、ミファロスよ。」


彼女は何処か悲しい感じで微笑み、

ついにその名を口にした。

散々ハールートやマールートが

言っていた「彼女」の正体であり、

私の夢の中に出てきた「女天使」の正体だ。

やっと、やっと此処まで辿り着いた。

今私の目の前に、

記憶に関する手掛かりが居るのだ。

嬉しいことこの上ない。


ミファロス「隣を歩いていた女性や、周りの子供達は今にわかるはずよ。」


ミカエル「………ミファロス、私はっ…!」


ミファロス「あら、もう時間のようだわ。」


これから私や彼女の事について

聞こうとした途端、

彼女は私の言葉を遮ると突然踵を返した。


ミファロス「貴女はもう少し此処に居たいようだけれど、身体はそうじゃないみたい。」


瞬間、視界がボヤけてきた。

彼女の口振りからして、

どうやら私の身体は

起きようとしているみたいだ。

だが私の心には謎の不安が溢れる。

何故かミファロスと離れるのが

悲しくて、寂しくて、心が痛い。

もう二度と会えないわけではないのに、

私の心は彼女と離れるのを嫌がる。


ミカエル「……嫌だ、起きたくない。ミファロス、私お前に聞きたいことが…。」


私がミファロスへ手を伸ばすと、

彼女は振り返り、

ギュッと強く掴んでくれた。

そして悲しそうに笑った。

今にも泣きそうな悲しい笑顔だった。


ミファロス「…貴女が呼んでくれたら、私は必ず出てくるわ。約束する。だから"またね"。」

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