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あなたの悪魔とわたしの天使  作者: 鈴森 心桜
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第一話「誕生」






ー貴方は、自分が本物だと胸を張って言えますか?ー






ーそれは本当に"貴方"なのでしょうか?ー













暗い暗い真っ暗闇の中。




だけど上を見上げてみれば、

其処は満天の星空。




"彼"が羽を広げれば、

キラキラと光の雫が舞う。


"彼"が地に足を付ければ、

水面に波紋が広がる。



「…この世界の誰よりも悲しい存在を見つけた。そんな存在なのに、自分を可哀想とは思わない。強い心を持った綺麗な魂だ。」



真っ暗闇の中、

"彼"の左右で違う金と紫の瞳だけが、怪しく光っていた。

















少女は目を開いた。

其処から鮮やかな真紅色が溢れる。



「…此処は…………。」



少女が目覚めた場所は、神殿だった。

視線を横にズラしてみれば、

若草の萌える広い庭園が広がっている。



「…………夢の中?」



少女の名はミカエル。

薄紅色の髪を持つ少女はその大きな赤い瞳を

キョロキョロとさせ、辺りに視線を注ぐ。



ミカエル(…なんだ?とても懐かしい場所のような気がする。)



不思議な感覚に捕われながらも

彼女が重たい足を動かし、神殿内を散策しようとした時、

背後から鈴の音のような高い声が聞こえた。



「………久し振りね。」



ミカエル「え?」



突然聞こえた声に驚きながらもミカエルは振り返った。



目に映ったのはミカエルよりも

少し薄い薄紅色の髪を持つ女性だった。


目元は運悪く日光の関係上、

影で隠れていて見えない。




彼女の容姿は、一見異質だった。

本来耳がある場所に、小さな羽が生えており、

背中にも同様に綺麗な翼があった。





それはまるで純白の天使。




「もう会えないかと思ったわ。また出会えて本当に良かった。」



ミカエル「天使…?お前は…。」



ミカエルは彼女の容姿と発言に

違和感を覚えるが、彼女へと問う。




彼女を、恐れることは無かった。




彼女はそんなミカエルの反応に

口角を上げててクスッと静かに笑った。



「教えても今の貴女は屹度思い出すことが出来ないわ。その時が来るまで私はずっと待ってるから。私の可愛い"ミカエル"。」















ミカエル「…!」



ミカエルは目を覚ました。



辺りを見回し、現在自分の居る場所が

先程まで居た場所とは違うのを確認すると、

やっぱり夢だったか、と納得しながら目を擦る。



どうやらいつの間にか眠ってしまっていたらしい。

身体は窓際の壁に寄りかかっていた。



「随分魘されていたよ、お姉様。」



ふと、目の前に

湯気の出た紅茶を淹れたティーカップが現れる。


ミカエルが視線を上に向けると、

京紫色の長い髪を持つ少女がそれを差し出していた。



ミカエル「……ルシファー。」



少女はミカエルの双子の妹、ルシファーだった。



同性の双子なのに彼女達はあまり似ていない。

容姿の共通点と言えば、真紅色の瞳と言うところだけ。





それほどまでに、彼女達は正反対だった。



ルシファーはティーカップをミカエルに渡すと、

自身も隣に座って飲み初めた。



ルシファー「お姉様が居眠りなんて珍しい事もあるのね。」



ミカエル「…まぁ。なんだか変な夢を見た。」



ミカエルも受け取った紅茶を少しずつ飲んだ。

ルシファーのいれた紅茶はレティアスだった。



レティアスはさっぱりとした味が印象的で

何年か前に異国から渡ってきた品。

ミカエルが好きな紅茶の種類の一つだったので

彼女は少しばかり嬉しそうな顔をした。



ミカエル「あまり覚えていないんだけど…いたっ。」



ミカエルが話をしている途中、

ガンッと言う音が近くで鳴った。



突然、人形やらボールなど、

子供用の玩具が沢山飛んできて、

それは運悪くミカエルの頭に当たった。

隣に居るルシファーは顔を青くさせている。



「あんたまた私のデザート食べたでしょ!?もう許さない!!」



「誰が食べるかあんなもん!特にお前のものなんかな!」



ミカエル「………何の騒ぎ。」



痛む頭を抑えながらミカエルが視線を向けると、

目に映ったのは凍った床と飛び交う子供用玩具。

そして聞こえる二つの怒号と睨み合う男女。



「聞いてよミカエル!"ソルベイト"ったら私のデザート食べちゃったの!氷漬けにして置いてたのに酷いと思わない!?」



女性はその尖った耳で

ミカエルの声をいち早く聞き取ると、

勢い良く彼女の手を取り顔と顔を近付け、

事の始まりを話し出す。



ミカエルが近付いてきた女性から逃げるように

顔を引くと、またしても壁に頭をぶつけた。



「しかもあれは私が何年も前から食べるのを楽しみにしていたデザートなのに…。」



ミカエル「………サノン、落ち着け。」



だがミカエルはその事を咎めず、

彼女を落ち着かせるのを優先した。



白花色の髪に赤目の女性の名前はサノン。

淡い黒髪に赤目の男性の名前はソルベイトと言う。



サノン「落ち着いてなんていられないわよ!いつもなら見逃すけど今回は退けない!あんたを氷漬けにしてやる!!」



サノンはソルベイトを睨みながら指差し、

また辺りを凍らせる。

そんな光景に三人は諦めの眼差しを送っていた。



ルシファー「あーあ。どうにかしなさいよソルベイト。」



ソルベイト「何で俺が…。」



ミカエル「何はともあれ結局は元凶なんだろ。」



実際、主食が違うのでソルベイトが

サノンのものを食べることはないのだが、

怒りからか彼女はそのことに気付いていない。



屹度ソルベイトの方はサノンのデザートを

運悪く落として割ってしまったので

捨ててしまったとかそういう成り行きだろう。



溜息をつきながらソルベイトも

応戦しようとサノンに向き直る。


彼の顔の右半分がピキピキと音を立て始め、

嗚呼、大きな喧嘩が始まる、と誰もが思った。






「やめなさい。」





サノン&ソルベイト「!!」



館に響くほど澄んだ高い声が

二人の喧嘩をその一言で制した。

騒然としていた辺りは一気に静かになり、

声のした方へと全員が顔を向ける。



ミカエル「………母さん。」



さくや「これは一体何の騒ぎ?サノン、ソルベイト。」



美しい長い金糸の髪を靡かせながら現れたのは

ミカエルとルシファーの養母であるさくやだった。



片目を桜の花飾りで隠しており、

前髪から覗くもう片方の目はやはり赤い。


問われた喧嘩の中心であるサノンとソルベイトは、

気まずそうに二人して顔を逸らした。



「何またサノン達?見れなかったじゃない。」



「……少しは静かにして。」



「お怪我はございませんかー?」



天井に付いた窓が不意に開き、

其処から声が三つ聞こえてくる。

どうやら騒ぎを聞きつけて

他の住人もやって来たようだった。


だんだん人が集まって更に騒がしくなってきたが、

再びさくやが声を張った。



さくや「みんな思い出して。私達"力を持つ者"は人間達に否定されている。散々痛め付けられ、道端に捨て置かれた過去を忘れたわけではないでしょう?そしてみんな誰かに拾われてこの妖桜館へと招かれた筈。種族は違えど大切な家族よ。今此処で仲間割れをしている場合ではないわ。」



もう1000年以上前の話。



世界には人間以外に沢山の種族が存在した。

それらの種族は人間が使えない『魔法』が使えた。



種族達を人間達は恐れた。

そして彼等を「化け物」と呼んだ。



人間達は愚かだった。

種族を虐め、殺し、痛め付けた。



それを非難し、

種族達は森の中へとそれぞれ姿を眩ませた。

ごく少数の種族が

人間達の目から逃れるように集まり出来たのが

この妖桜館(あでざくらかん)だ。




総勢九人と数は少ないが、魔法の威力は強かった。




館主はミカエル。

彼女は体の至る所から魔法を創り出せる。



住人はミカエルと

同じく魔法を創り出せるルシファー。



百目のさくや。



がしゃどくろと一反木綿のソルベイト。



氷を操る雪女のサノン。



幽霊のガルデン、レヴェート姉妹。



妖狐のバルティニュム。



そしてもう一人。





もう一人は情報が少ない為に

住人しか知らない秘密の一人。





これはとても滑稽な一つの御伽噺。


九つの美しい魂が回す歯車だ。

世界の残酷さを彼女達はまだ知らない。


















暗い暗い真っ暗闇の中。

笑い声が聞こえる。




"彼女"が羽を広げれば、

キラキラと光の雫が舞う。


"彼女"が地に足を付ければ、

水面に波紋が広がる。




『ふふっ…あの子がやっと目覚めたんですって。遅かったわね、待ちくたびれたわ。でもこれで漸く「シナリオ」は進む…。』



真っ暗闇の中、

"彼女"の左右で違う金と紫の瞳だけが、怪しく光っていた。

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